4章 第190話 二度目のクリスマス
高校3年のクリスマス。鏡花とは2回目のクリスマスだ。流石に今年は呑気に遊んでいる場合ではない。
ただ何もしないと言うのも少々味気がない。だから間を取って夜だけは2人の時間にする事にした。
2人分のケーキと、一緒に作った晩御飯。一緒にと言っても、あまり大した事はやれていないが。
それでも少しぐらいは共に過ごす時間にはなった。大事なのは鏡花と一緒に居る事で、どこに行ったとか豪華なディナーとか、そこは問題じゃない。
こんなささやかなクリスマスでも俺達は十分だ。とは言え、来年はもう少し気の利いたデートにしたいとは思っている。
それこそちょっとオシャレなホテルでディナーとか。多少なりとも背伸びしても良いだろう。
「今年も真のご両親は帰って来るの?」
「明日には戻って来るよ。母さんが鏡花に会いたがってた」
「そ、そうなんだ」
あんな事もあったからか、かなり心配していた。何だかんだ言いながらも、鏡花を預かりたかったみたいだ。
綺麗に解決した事を喜びながらも、複雑な心境だったらしい。それなら最初から預かるって言えば良いのに、何とも面倒な事をするなと思った。
親としての体裁とか、まあ色々あるのだろうけど。母さんは人気商売だから、あんまり好き勝手出来ないだろうし。
それと息子よりも、鏡花との再会を楽しみにしているのはどうなんだ。女の子が欲しかった気持ちは分かるけど、少々過剰な気がしなくもない。
息子の彼女を歓迎していると言うより、溺愛に近いんじゃないだろうか。そんなに娘が欲しかったのか。
「その、すまん。また着せ替え人形かも」
「えぇ!? どどどうしたら?」
「好きな様にさせてやってくれ……」
よほど気に入ったらしく、お土産として服を買っているらしい。どんなお土産だよと思わずツッコミを入れた。
普通はお菓子とか、果物じゃないのか。もし自分に娘が居たら、そんな欲を爆発させている。
なまじお金があるだけに、やりたい放題である。ちょっと前にもデパートでやっただろうに。
あれで味を占めてしまったらしく、鏡花に合いそうな服を見つけては買っているらしい。
絶対これは数着で済まないだろう。この年末は鏡花のファッションショーになりそうだ。
それについては俺も楽しみなので、わざわざ止める気はない。色んな鏡花が見られるのなら文句はない。
「結構あるらしいぞ」
「え、えぇ……良いのかなぁ?」
「まあ、本人が稼いだお金だしさ」
どう使うかは母さんの自由である。でもこれ、結婚するとなったらどうなるんだろうか。そこはやや不安である。
毎日押し掛けて来そうで、心休まらないかも知れない。小春ですらあの扱いだったのだから、もはや実の娘の様に扱うのではないだろうか。
流石にそこまで行くと面倒と言うか、息子としては嫌すぎるのでごめんだ。鏡花と2人で暮らす家に、毎日遊びに来る母親。
そんな様子を容易に想像が出来る所が困りどころだ。いや、下手をしたらこの家を二世帯住宅にリフォームしかねない。
それをやれる資金的余裕があるだろうから、不可能では無いと思う。わりと父さんも乗り気になりそうな嫌な予感まである。
「そんなに楽しいのかなぁ? 私が相手で」
「そりゃ楽しいんじゃないか? 俺だって楽しいし」
「お、親子だ……」
「それよりさ、その……これ、クリスマスプレゼント」
母親のお土産ほど高価では無いけれど、その変わり鏡花が喜びそうな物を選んだつもりだ。
あんまり高価過ぎず、でも安物ではないラインでチョイスした。結構この選択が難しい所なのだ。
張り切って高い物を選ぶと、紛失を恐れて鏡花が使ってくれない。かと言って安過ぎると明らかにチープだ。
受験が終われば大学生になる鏡花に、相応しいちょっと良いアクセサリー。それが今年、俺から鏡花に贈るプレゼントだ。
「わぁ! 可愛い!」
「大学に行ったら、そう言うのも必要だろ?」
「ありがとう! 大切に使うよ!」
俺が選んだのはシルバーのイヤリング。犬の肉球をモチーフにした装飾が特徴となっている。
パッと見では分からないので、子供っぽくは見えない。犬が好きな鏡花が着けるアクセサリーとして、ちょうど良いんじゃないかと考えた。
高校生の間は学校で着けられないけど、大学生になれば問題ない。これから先の未来を考慮してのプレゼントだ。
大学生や社会人になるにつれて、様々なオシャレが必要となる。そんな時に役立つ様に、尚且つ鏡花が好きそうな物。
そんな事を考えながら、アクセサリーショップをハシゴして見付けた品だった。
「じゃあ、私のもどうぞ」
「これは……ボールペン?」
「うん。先生になってからも使える様にって」
有名な文具メーカーの、ちょっと高級なボールペンが箱に入っていた。ちゃんと俺の名前まで刻印されている。
鏡花は鏡花で、俺の未来を考えてプレゼントを選んでくれていた。考える事は同じだったらしい。
俺達は高校を卒業したら、それでゴールではない。その先にある未来こそが、人生の大半を占める。
鏡花と2人で、そんな未来を一緒に歩んで行きたい。その為にも先ずは、しっかり受験に合格しないと。