4章 第185話 残念なお姉さんが参戦したそうに見ている。仲間にしますか?
「も〜〜何で全然来てくれ無かったの? ボク困るよ!」
「ちょっと色々大変で……うわぁ……」
両親が離婚すると言い出して1ヶ月程、色々とバタバタしていて篠原さんの家に中々来られ無かった。
その結果、室内は酷い有様になっていた。もうこの人、改善する気全く無いんだなと改めて実感した。
どうやったらたった1ヶ月でゴミ屋敷に出来るのか知りたい。タバコの吸い殻を適当にポイ捨てしない所だけが唯一の安心ポイントだ。
そうでなければ間違いなく火事になってしまう。ボヤ騒ぎ一つ起こさないのは、もう奇跡と言う他ない。
タバコにお酒にゴミ屋敷、スタイル良しな美人と言う利点を全て台無しにしている、この荒れた生活が何だか懐かしく感じる。
それぐらい色々と大変な日々を送っていたんだなと思い知る。真や皆が居なければ、とっくに心が折れて居ただろう。
真と仲良くなる前の私なら、今頃カナちゃんと麻衣にお別れを伝えて学校を休んでいたかも知れない。
それぐらい自分が変わった事を最近は実感していた。それはそれとして、この惨状を何とかしないと。
「何でこうなるんですか?」
「鏡花ちゃんが来ないからだよ?」
「私が居なくなったらどうするんですか」
「え、何で? 居なくならないで?」
そう言えば、この人には話して居なかった。無意識に頼る相手の候補から外していたからかも知れない。
だって凄くだらし無いし、この有様だし。ネット関連なら頼りにはなるけど、それ以外は全然ダメダメなお姉さんだから。
ほんのちょっと来なかっただけで、こんなゴミ屋敷化させる人を普通は頼らないと思う。
大体業者を呼べば解決なのに、遂には完全に私へ依存し始めている。このままでは良くないと思うし、篠原さんの為にも事情を説明する事にした。
私が引っ越して他府県に行くかも知れない事まで話すと、篠原さんは真っ青になって慌て始めた。
「そんなの駄目だよ!? 鏡花ちゃんは一生ボクのお世話をしてくれないと!」
「嫌ですけど!? 私、普通に結婚願望ありますよ!」
「結婚しても来てくれれば良いから!」
「無敵過ぎるこの人!?」
驚きの事実である。まさかの一生寄生宣言をされるとは思わなかった。ヒモの素質があるんじゃないだろうか。
それならちゃんと男性に依存して欲しい所だ。家事が得意な男性と是非とも結婚して頂きたい。
私は一生篠原さんのお世話をする気なんて無い。普通に真と結婚して、普通に子供を持ちたい。
駄目なお姉さんを介護し続けるつもりはない。あくまで配信で設備を借りる対価としてやっているだけで、篠原さんのお世話が趣味な訳では無い。
「業者の人を呼んで下さいよ!」
「嫌だよ! 女の子にお世話されたい!」
「理由が酷い!」
言ってる内容だけで言えば、最早変質者のそれに近い。通報されても文句は言えない最悪な宣言だ。
まだ女性だからギリギリ許されているだけで。これが成人男性だったら、即警察に駆け込むのも辞さない。
女子高生にお世話されたい成人なんて、かなりヤバい存在である。何で堂々と宣言できるんだろうかこの人は。
私が居なくなったら、逮捕されないか不安になって来た。最近の悩みとはまた別種の悩みで頭が痛くなって来る。
「鏡花ちゃん、お母さんは家に居るのかな!?」
「え? 多分居ると思いますけど」
「良し、待ってて!」
えっと、何する気なんだろうこの人。何だか嫌な予感がする。篠原さんが急にバタバタと動き始めた。
少し前に追加で購入していた、隣の部屋とこのゴミ屋敷を行ったり来たり。何をするつもり何だろうか。
ちなみに追加で買った隣の部屋を綺麗にしたのも私だ。そろそろ家事代行業を名乗っても良いのではないかと、ちょっと思い始めている。
もし出版社に就職出来なかったら、最悪その方向で行こうとわりと本気で考え始めている。
「あの……何ですかその格好?」
「どう? 経営者っぽい?」
「えっと、まあその、仕事出来そうには見えます」
何を始めたいのか、高級そうなスーツに着替えてバッチリメイクも決めた篠原さんが立っていた。ゴミ屋敷の中心で。
バグって滅茶苦茶な風景になったゲーム画面みたいだ。あまりのアンバランスさに脳が追いつかない。
普段から滅茶苦茶な人だけど、今日は特に酷い。そして増して行く嫌な予感。こんな格好をしたと言う事は、当然外に出ると言う事になる。
初めて会った時よりも、しっかりとした装いだ。まるでレッドカーペットを歩く芸能人の様。
なまじ外見だけなら実際に芸能人みたいな人だから、余計とそんなイメージが強く浮かぶ。
「じゃ、行こうか」
「え、あの……まさか?」
「もうタクシーは呼んだから、鏡花ちゃんの住所教えて?」
悪い予感は当たっていた。この人、うちに来て何をするつもりだろう。母親に会って、何を言うつもりだろう。
普段の言動を考えれば、ろくな事を言いそうにない。余計に事態を悪化させないか不安だ。
せっかく真と一緒にお母さんの説得を続けているのに、台無しにならないか不安でしかない。
「ほら行くよー!」
「あっ、あの! ちょっと!?」
こう言う時、ノーと言えない私が出てしまうのが辛い。ろくに掃除もされて居ないゴミ屋敷から、篠原さんと私はタクシーで自宅に向かう事になった。真……ごめん駄目かも知れない。