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4章 第182話 出来る事をやろう

 とりあえず鏡花(きょうか)とは一旦話合い、皆で何とか協力し合う事になった。今更転校して、一緒に卒業出来ないなんて嫌だ。

 そんなの誰も喜ばないし、ただ後味が悪いだけだ。何とかする為に学校が終わるなり、俺は母親に連絡を取った。


『そう……やっぱりそうだったのね』


「やっぱりって、知ってたのか!?」


『予想通りだったと言うだけよ』


 どうやら母さんは、杏子(きょうこ)さんとのやり取りで何かを感じていたらしい。母親同士だからこそ、感じ取れる何かがあったのだろう。

 まだ未成年に過ぎない俺には、何も分からなかったけど。とにかく、状況は理解して貰えた。あとはどうにか協力を仰ぎたい所だ。

 図々しいのは百も承知だけど、今の俺達には大人を頼るしか道がない。所詮は高校生でしかない、何の力も持たない未成年なのだから。


「それで、その……お願いがあるんだけど」


『うちでどうにかって?』


「その、下宿みたいな形で無理かな? 生活費なら俺も払うから!」


 鏡花だけに背負わせるつもりは無い。空いている部屋を貸し出すみたいな形で、どうにか住まわしてやれないだろうか。

 そうすれば、今から転校だけは避けられる。上手く行けば大学も、志望校を変えずに済む。

 家庭の事情はもう十分に理解した。その上で鏡花の人生を、幸せな未来を選べる道を残したい。

 俺が一緒に居たいと言うのもあるけど、それ以上に今から転校は過酷な未来しかないのだから。


『私達もね、鏡花ちゃんは良い子だと思うわよ?』


「だったら!」


『でもね、鏡花ちゃんはうちの子じゃないの』


「それはっ! そうだけどさ!」


 分かっているんだ、無理を言っているのは。ただの俺のワガママでしかない。だけど、それでも望んでいるのは鏡花の未来だ。

 俺の自分勝手な欲望じゃない。1人の女の子の、大事な未来が掛かっている。誰かが担ってくれるなら、別にうちの家じゃなくても良い。

 鏡花が転校せずに済み、大学4年間を無事に過ごせるならそれで良い。その後で長野に移り住むのなら、それは俺が着いて行けば良いだけだ。

 そこからは何とでもすれば良い。俺が引っ越すなり、やり方は幾らでも考えられる。その頃にはとっくに成人なのだから。


『未成年を預かるのはね、そんなに簡単じゃないの』


「それは……だけど、ホームステイとかあるだろ?」


『彼氏の家で同棲はまた話が別でしょ? それに離婚するって状況なのよ?』


 それを言われると、どうにも困る。たまに家に泊めるのと、毎日一緒に居るのは違う。ましてや未成年同士で。

 何かあったらどうするのかと言われたら、最早言い訳のしようもない程度にやらかしている。今更清く正しい交際を、なんて口にする資格なんてない。

 既に清くはないのだから、そんなのは嘘にしかならない。恋愛なのだから、そう言う面もあるだろ? なんて俺が言って良い事ではないのだから。

 幾ら周りでもやる事はやっているからと言っても、だからってイコール正義ではないのだから。


「それでも、何とかならない?」


『……最低でも、鏡花ちゃんのお母さんに許可は貰いなさい』


「貰えたら良いのか!?」


『最低でもって言ったでしょ? その後ちゃんと話し合いをします』


 それでも交渉の余地があるだけ良い。何の手助けも出来ずに、このままお別れなんて絶対に嫌だ。

 出来る事は全部やって、それでも駄目だったらその時にまた改めて考える。それまでは、自分に出来る全てをやり切りたい。

 鏡花の家では、結局何も出来なかったから。ただ置かれた状況に驚いて、戸惑って慰める事しか出来なかった。


 でも今は違う、俺1人じゃない。皆で協力して、未来を掴み取ろうとしている。ただ状況に流されるだけではない。

 目指すべき未来があって、そこに向かって走り切るだけだ。サッカーを諦める事になった時とは違う。

 どうにかするんだと、確かな意思をしっかり持てている。あの日救われた俺が、今度は鏡花を救ってみせる。


『そこまでするからには、後々他の子となんて認めないからね?』


「分かってるよ。そんな事しない」


『貴方の覚悟もちゃんと見るからね?』


 鏡花と、ずっと一緒に居る覚悟があるか。そこを見られると言うなら貫いてやる。ただ真っ直ぐに、鏡花だけを想い続ける。

 それが簡単じゃないのは、俺だって分かっている。そうはならなかった実例を、俺は見せ付けられた。一度はその幻影に負けてしまった。

 いつか鏡花にこんな想いをさせるのではないかと。その恐怖に、目を背けてしまった。だけど今はもう違う、そんなifに負けたりしない。

 そんな想いは絶対にさせないんだと、確かな気持ちを持つ事が出来ている。学校で鏡花に会って、その想いを新たに持てた。


「俺は絶対、鏡花と結婚するから」


『約束を守らない子に育てたつもりは無いからね?』


「ああ、ちゃんと守るから見ててくれ」


 もうそうなれたら良いななんて、甘い考えではない。あの惨状を見て、もう一度考え直して決めた事だ。

 鏡花が抱えていた孤独を、全部俺が埋めてみせる。愛されなかった時間があるなら、その分も埋めてみせよう。

 そしてその上で、ちゃんと認めて貰うんだ。鏡花と俺の未来を。鏡花のお母さんにも、ちゃんと認めて貰った上で一緒に生きて行くんだ。

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