4章 第174話 園田マリアとKYO
「と言う訳で、本日はKYOちゃんを呼んでみましたー」
「よ、よろしくお願いします」
「そんなに緊張しないでも大丈夫だよー」
本日は篠原さんの誘いでデュエット曲を収録、の筈だった。それが何故か、雑談配信に巻き込まれてしまった。
沢山の人が観ている中で、雑談なんて緊張してしまう。声だけだから、まだギリギリなんとかなるけど。
それと複雑な理由から、この残念なお姉さんに慣れてしまったから。真とはまた違う種類の安心感がある。
「あの、これって?」
「あ〜このイラスト? ボクが書いといたよ」
「絵も描けたんですね……」
配信画面には、デフォルメキャラが園田マリアのアバターと並んでいた。知っている人が見れば、私と分かる特徴を捉えたキャラクターだ。
こんな才能もあったんだ。本当に何でも出来るのに、何でこんなに実生活は何も出来ないんだろう。
あまりにもアンバランス過ぎる。もう少しこう、丁度良い塩梅に出来なかったのだろうか。エンタメ方面に全振り過ぎる。
『イラスト可愛い』
『リアルもこんな感じなの?』
『推し変します』
『学校に居そうな感じが良い』
「そだよーKYOちゃんは大体こんな感じ」
「こんなに可愛くないですけどね」
デフォルメのお陰で凄く可愛い文学少女になっていた。残念ながら私はこんなに可愛くない。
もっと下の位置にいる。所謂垢抜け、高校デビューで多少マシになっただけに過ぎない。変な期待は持たないで欲しい。
そしてこんなのを用意している時点で、最初からこうするつもりだったらしい。良いように言いくるめられてしまったみたいだ。
「じゃあ事前に募集していた質問から行こうか!」
「いつの間にそんな事してたんですか……」
コラボ配信とかで良くあるパターンだ。リスナーさんから募った質問に答えて行くやつ。私に聞きたい事なんてあるんだろうか?
この配信を観ている人達は、あくまで園田マリアのファンでしかない。興味があるのは彼女であって、ポッと出の私ではない。殆ど来ていないのではないだろうか。
「100個以上来たからさー全部は無理だよごめんねリスナー」
「えぇ……そんなに来たんだ」
随分と物好きな人が居るらしい。私の事なんて知っても、何の意味も無いと思うんだけど。
それが100個も来ているなんて理解不能だ。まあでも、だからって100人が送ったとは限らない。10個ずつを10人が送っただけかも知れないし。
「先ずはこれにしよー。好きな異性のタイプは?」
「え? うーん。真っ直ぐで誠実な人、かな」
「誠実さは大事だよねー分かる分かる」
好きなタイプって言うか、そのまま真の事だった。私はこれまで、男性を好きになった経験がない。
もしかしたら、幼い頃に初恋ぐらいはしたのかも知れない。だけど、少なくとも私の記憶にはこれと言うモノは無かった。
現実の恋愛にはあまり興味がなかったから、こんな人が良いと言う男性像は無かった。
ゲームやアニメは2次元だし、現実の異性とはまた違う。ただ誠実な人が好きと言うのは、2次元も現実も共通する項目だ。
「次ー料理が得意って本当?」
「得意と言うか慣れてる、かな? 苦手な料理はないです」
「すげー! 言ってみてー!」
そう思うなら出来る様になりましょうよ。練習なら付き合いますから。まあでも、多分やらないんだろうね。
好きな事には全力だけど、苦手な事は全部切り捨てる人だから。勿体ないなぁとは思うけど、これがこの人の完成形なんだろうなとも思う。
そんな風に内心では思いながら、数々の質問に答えて行く。本当に色んな質問が来ていた。
「女同士の恋愛は有りだと思いますか?」
「何で私に? えと、その。良いんじゃないですか? お互いが好きなら」
「え、じゃあボクと付き合おうよ」
「何でですか!」
『キタ――(゜∀゜)――!!』
『キマシタワー』
『てぇてぇ』
『相手未成年なんだよなぁ』
『彼氏持ちをナンパすな』
絶対に冗談とは限らないから恐ろしい。家政婦さんとして、家に居て欲しいだけだとは思うけれど。
大体私はダメな人に惹かれるタイプではない。ちゃんと真っ当に自立している人が良い。
年下の女子高生に面倒を見られている人は、ノーセンキューでございます。容姿は優れているのだから、お世話好きな男性を見付けて来て下さい。
「休日の過ごし方は?」
「まこ、彼氏の家に居る事が多いです」
「ずるいぞー彼氏ー! ボクにも譲ってー」
『(´;ω;`)ウッ…』
『彼女……どこ……』
『恋人出来ないまま20年経ったよ』
『ワイ30年やが???』
譲るとか譲らないとかの問題では無いですけどね。そんなに人恋しいなら、マッチングアプリとかやれば……ああ、違うダメだ。
この人、外に出たくないんだ。それで出会いを求めるなんて不可能だ。どうすれば良いんだろうか、このお姉さんは。
普通の解決策では、どうしようもない。相当特別な方法でないと、先に進めそうにない。
「恋人を配信で募集したらどうですか?」
「あ、ボクはリスナーに手を出さないって決めてるから」
「そこはちゃんとしてるんだ……」
誰かこの、厄介で面倒だけど才能には恵まれたお姉さんを貰ってあげて下さい。稼ぎは十分ありますから。出来たら家事が得意な人でお願いします。