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4章 第173話 鏡花を苦しめていたもの

 最近湧き出た悩みを抱えつつも、何とか抑えて日々を過ごしている。今日も(まこと)の家で勉強会。

 欲を言えば皆と遊びに行きたいけれど、それは受験が終わるまでは控え目にしないといけない。

 それは分かってはいるけど、この湧き上がる黒い感情を少しでも祓いたかった。


「どうかした?」


「ううん、何でもないよ」


 嘘だ。本当は不安で仕方ない。こうして一緒に居るのが幸せで、だからこそ怖い。自分が信じられない。

 私は真が良いと本気で思っている。他の誰かとなんて、考えられない。でも私の両親だって、初めはそうだったんじゃないか。

 自分はあんな風にならない。真面目にちゃんとお付き合いをする。そう心に決めていた。だけど、それを私はちゃんと守れるのだろうか。


 先日観た動画が原因で、私は揺らいでいた。両親が不仲だった家庭の子は、恋愛に悪影響が出ると言う話だった。

 ネットが全て正しいとは思わない。怪しいインフルエンサーも沢山居る。それでも私は、気になってしまった。急に自分が信じられなくなった。


「本当にどうした? 手が止まってるぞ?」


「……え? あっ」


「何かあったのか?」


 もう下手に誤魔化せない。これで何も無いなんて通じない。真はそんなに察しが悪い人じゃないから。

 でも、正直に話すのは怖い。だけど相談しておきたい。そんな相反する気持ちが私の中で戦っていた。

 話せば楽になるかも知れない。しかしその結果が、良い方向に行くとは限らない。もしそれで嫌われてしまったら。

 そんなのは嫌だ。そうなってしまうのが怖い。この幸せを失う事に、きっと私は耐えられない。


「話してくれないか?」


「……でも」


「どんな内容でも、ちゃんと聞くから」


 この真っ直ぐさが、彼の魅力的な所だ。余計な気遣いはしない。ただ真っ直ぐに向き合ってくれる。

 それが嬉しいけど、だからこそ複雑だ。ついこの間、温泉旅行で笑っていた癖に、どれだけメンタルが安定しない女なのか。

 以前から事ある毎に、自信の無さから来るアレコレに付き合わせて来た。いい加減なんとかしたいのに、やっぱり染み付いたマイナス思考が邪魔をする。面倒な女だって、思われないだろうか。


「……私の事嫌いになるかも」


「今更ならないって」


「……」


 思えば確かにそうかも知れない。私の残念な姿は、既に何度も見られている。大体最初のファーストコンタクトから、あまり良い出会い方ではない。

 突然勝手に膝枕をしてくる変な女だ。どうしてあのスタートでこうなったのか、今考えたら中々のミステリーだ。

 絶世の美女とかなら、大半の男性は落ちるだろう。でも残念な事に、私は超絶地味な女だ。


 今でこそ多少は改善されたけど、あの頃なんて絵に描いた様な地味で平凡な存在だった。

 そんなこれまでを考えたら、話しても平気かも知れない。私は自分を疑っているけど、真の事は信用している。

 これまで過ごして来た経験から言えば、話しても大丈夫かも知れない。少なくとも真の方は。


「実は……ウチの両親仲が悪くて」


「そう、だったのか……気付かなかったよ」


「だから私も、そうなるんじゃないか不安で」


 流石に全てを話すのは怖かった。お互い不倫し合っているなんて、最悪の真実を。だから不仲と言う程度で開示した。

 間違ってはいない、程度の違いがあるだけで。それでもこの話をしたら、真は驚いた顔をしていた。

 当然だ、そんな家庭はそう多くはない。中学でも高校でも、離婚した家庭の子なんて殆ど居ない。


 どちらかが亡くなって、片親になった家庭も含めてごく少数だ。調べたから知っているけど、日本の離婚率は3割ちょいだ。

 そしてその家庭全てが、中高生の子供が居るわけじゃないから。数だけで言えば結構多くても、一つの学校に密集する事はそうない。


「私は私が信じられないよ。いつか真を裏切るかも知れない」


「……」


「そんな家庭の娘でも良いの?」


 ずっと見ない様にして来た、私の奥底にあった不安。幸せになればなる程に、少しずつ広がっていた黒いシミ。

 真や皆のお陰で、カラフルに彩られたキャンバスの端に、ぶち撒けられたノイズ。いつか悩む事になると理解していた。

 だけど、最近まで無視し続けていた。幸福な日々ばかりに意識を向けて、目を背けていた事実。

 それでも真なら、きっと大丈夫だと考える自分の打算的な醜さが嫌になる。


「真なら嫌って言わない。それを分かってて聞く女は嫌じゃない? 急にこんな事も言い出すし」


「……」


 真は目を瞑ってずっと考えている。勢いに任せて、結局殆ど話してしまった。きっとこんな言い方なら、真は私の望む回答をくれる。

 構わないよ、そんな風に返って来ると黒い私が顔を出す。嫌われたくないと思いつつも、この人ならきっと大丈夫だと言う卑怯な考え。

 そんな私でも、愛して欲しいと言う欲望。平凡で地味な陰キャだと自覚があっても、決して無欲な訳じゃない。

 私はちゃんと、欲に塗れた人間だ。この人にだけは、全てを受け入れて欲しい。全てを愛して欲しい。そんな際限無い欲求がずっと心の中にあった。


「それはいけない事なのか?」


「……どう言う事?」


「俺だってそうだ。鏡花(きょうか)なら嫌がらないだろうって、甘えてる部分は多々あるよ」


 そう……だったんだ。全然そんなの分からなかった。いつも真っ直ぐに向かって来てくれるから、そんな事を考えているとは微塵も思わなかった。真だって、そんな打算的な考え方をしていたんだ。


「それに親がどうかは関係ない。鏡花は鏡花だ」


「だけど、分からないでしょ?」


「俺がずっと、鏡花の一番であり続ければ良いって事だろ? 頑張るさ」


 確かに打算はあった。あったけれど、彼は私の浅はかな打算なんかでは測りきれない。いつも私の望みなんかより、遥か上の回答をくれるんだ。

などと格好つけているものの、わりと不安になる男

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