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4章 第169話 鏡花と温泉旅行 前編

このタイミングでコロナになりました。素敵な週末はいずこへ?

 夏休みに鏡花(きょうか)としておきたいデートとして、今年は温泉旅行を企画した。俺の両親の元には、様々な贈り物やプレゼントが届く。

 株式優待券やビンゴ大会の景品等も含めると、多種多様な物品が毎年集まる。その中には旅行などでも使えるギフト券や割引チケットなども含まれる。

 2人が要らないものは、両親経由で自宅に届く様になっている。要するに好きに食べろ、好きに使えと言う意味だ。だからお酒類は絶対に届く事はない。


 そんな様々なお下がりの品々の中に、今回の温泉旅行で使える半額チケットがあった。お陰で本来3万円のプランを、1万5千円で利用出来た。

 浮いた分は旅費に回して、俺達は電車とバスで移動。隣の県にある海辺の温泉街で、一泊二日のちょっと大人なデートをする。


「うわぁ〜〜凄く綺麗だね!」


「ホントだ。一面青い海だ」


 温泉街を楽しむ目的だったから、今回水着は持って来て居ない。流石にそんな余裕は無いと思ったから。

 もしまた来る事があれば、次は3日ほど余裕を持って水着も持って来よう。こんなに綺麗な海が目の前にあって、泳がないのは何だか勿体ない。

 バス停で降りた俺達の目の前には、広大な日本海が広がっていた。白い砂浜に打ち寄せる、波の音が心地良い。

 特別海に何か思い入れがあるわけではないけど、こうして大自然の一部を見せられると感動する。

 残念ながら俺は文系ではないから、美しい表現でこの気持ちと光景を表す事は出来ないが。


「ね、旅館に行かない?」


「ああ。そうしようか」


 急いで行く必要はないけれど、旅先に居ると言う高揚感から逸る気持ちは俺もある。宿泊する宿の写真を見た限りだと、中々良さそうな旅館だった。

 高校生カップルには、ちょっと背伸びした感は否めないけれど。ただ割引チケットは親のモノでも、支払うお金は俺達が自分で稼いだ資金だ。

 堂々としていれば良いんだ。俺と鏡花の、記念すべき初めての二人旅。しっかり満喫して終わりたい。



「何か、あっさり入れたね」


「お酒でも頼まない限りは大丈夫じゃないか?」


「そう言うものなのかな?」


 鏡花が言いたいのは、年齢確認とかそう言う話だろう。俺達2人は大学生に見えなくも無いだろうし、その辺りは大丈夫じゃないかな。

 食事の時にビールでも頼めば、身分証の提示を求められるかも知れないけど。そんな悪ノリをするつもりはないし、20歳になるまで飲む気はない。

 スポーツの世界では未成年飲酒や喫煙で、プロ入りを取り消されたりする事もある。そのリスクについても、しっかり教わる。

 真剣にやってる奴なら、先ず手を出そうとは思わない。今はもうプロを目指しては居ないが、俺の目標は体育教師だ。

 子供の手本となるべき存在が、ルールを守らない大人ではいけない。そんな教師にはなりたく無い。


「この部屋だな」


「楽しみだね!」


 あちこちから木の香りがする、年季の入った温泉宿。歩けば響く、床板の音に風情を感じる。小高い丘の上に建てられた、立派な建物の中に用意された一室。

 ここで今日、俺と鏡花が一泊する。鏡花は無邪気に喜んで居るが、正直俺はかなり緊張している。

 だって、彼女と2人で温泉旅行だぞ? そこに何も感じない男なんて居ないだろう。温泉で湯上がりの鏡花が、浴衣姿になるんだ。

 それはもう来るに決まっている。考えるまでもない、魅力しかないだろう。だが、それはまだ後だ。今はまだ、純粋に温泉旅館と温泉街を楽しむ時間だ。


「とりあえず荷物だけ置いて、ぶらぶらするか?」


「良いんじゃない? あ、温泉まんじゅうあるかな?」


「確か有名な店があった筈だぞ」


 スマホでオススメスポットを検索する。美味しい食事処や、デザートの話。オススメの土産物屋や、夜景が綺麗に見える場所など。

 こうしてスマホがあれば全部簡単に調べられる。ネットが無かった頃は、どうしていたんだろうか。

 わざわざ雑誌を持って来て、持ち歩いていたのだろうか。なんと面倒臭いんだろう。この時代に生まれて本当に良かった。


「あ! それだね」


「お、おう。ここな」


 隣からスマホを覗き込む鏡花の顔が、思った以上に近くて不意打ちを食らった。案外そう言う所は無防備なんだよな。

 自分が魅力的な女の子である自覚がかなり薄い。だからそんな風に、不意に近付かれるとドキッとするから困る。

 一緒に過ごす事には慣れたが、魅力を感じなくなった訳じゃない。むしろ更に上がっているので、無邪気な仕草にやられそうになる事が良くある。


 いつぞやの様に人前で暴走しない様に、鋼の意思で耐えているのだ。今の鏡花の表情だって、凄く可愛いと思う。

 眼鏡の似合う女の子って可愛いな、そんな風に思う様になったのは完全に鏡花の影響だ。

 昔はそんな趣味無かったのに、最近は眼鏡を書けたキャラクターに惹かれがちだ。仕方ないよな、だってこんなに可愛い彼女が居るんだから。


「どうかしたの?」


「いや。鏡花は今日も可愛いなって」


「……不意打ち禁止だよ!」


 それは俺が言いたい台詞なんだけどな。いつも君の可愛くて魅力的な姿に、心を奪われ続けているんだから。

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