4章 第167話 個人勢Vtuberの雑談配信
とある日の人気個人勢Vtuber、園田マリアの雑談配信で起きた一幕。酒クズヤニカス不摂生と、およそダメな要素の塊でありながらも人気な彼女。
ダメな大人の見本であるそのキャラクター性と、トークの面白さや多才さ、元モデルの肩書が人気を支えていた。
モデルをやれるぐらいの容姿が、確定していると言うのは大きい。そこに生活を何とかしてあげたいと言う欲求への刺激。
それらが合わさり、個人勢ながら大量の男性ファンが居た。投げ銭もかなりの金額に到達しており、頻繫にランキングに顔を出していた。
「皆聞いてよ〜ボクJKの友達出来たんだ〜」
『は? 嘘乙』
『イマジナリーフレンド?』
『逃げてJKの子』
『おまわりさんこの人です』
「ほんとだってば〜。あと悪い事はしてません」
ダメな大人の女性と、容赦のないコメント欄が特徴的な彼女の配信は本日も普段通りだった。
友達が少ない事を自ら暴露しており、大凡の年齢は普段の会話から推測されている。なので当然ながら、そんな話は信用されない。
ただの妄想とリスナーには思われてしまったが、この話は事実だ。中の人である篠原美佳子には、佐々木鏡花と言う女子高生の友人が出来た。
実際に友人と言って良いのか微妙ではあるものの、園田マリアとして協力する事になった事は事実ではある。
友人や支援と言うよりも、母親と娘の様な関係に近いが。もちろん鏡花が母親役の方で。
「ほんとだって。新人JKシンガーKYOちゃんだよ〜」
『誰それ?』
『知らん』
『どんな子?』
『どっかで見たかも』
「概要に載せとくから見て〜凄く歌が上手いから」
マリアが概要欄にリンクを貼った事で、鏡花の存在がその時点で1万人居た視聴者に知られる事となった。
暫く雑談を続けながら、鏡花と知り合う切っ掛け等をマリアは語って聞かせた。小春からの依頼を聞いてみれば、以前気になった女の子の事であった事。
録音や編集に必要な設備が無く、女性の協力者を探していた事。会ってみれば悪事を働きそうに無かったので、さっさと連れ込み……自宅に招待した事など。
「KYOちゃん料理上手くてさ〜助かるよね」
『それもう犯罪だろ』
『羨ましすぎる』
『俺達には料理を作ってくれるJKなど居ないと言う事実』
『やめろ』
『チクチク言葉やめて』
「掃除洗濯も完璧なんだよね〜。一緒住んでくれないかな」
わりと冗談抜きで、彼女はそう思っている。美佳子としてのリアルの生活が、劇的に改善されたのは間違いないから。
彼女としては、録音設備ぐらい幾らでも貸して良いから毎日来て欲しい。それぐらいには本気で考えて居た。
真に続き、鏡花に落とされた人間が増えていた。特に胃袋を掴まれた面は大きい。女の子1人を養うぐらい、余裕で出来る彼女としては専業主婦で構わない。
思わぬ方向から、真のライバルが誕生していた。だいぶ一方通行な片想いだが。そしてそこに恋愛要素はない。ただただ残念な女性の願望がそこにはあった。
『観て来た! 凄い良かった』
『声がもう可愛い』
『声からして絶対に美少女。俺はJKに詳しいんだ』
『チャンネル登録して来た』
『今ヤバい奴居なかったか?』
「良いでしょ〜編集したのボクだからね。もう実質ボクの女だよ」
それからも投稿を観に行ったリスナー達や、副窓で確認したリスナー達の感想がどんどん流れて行く。
どれも概ね好感触の様子で、鏡花を気に入った人々が殆どだった。マリアの友達発言により、新人Vtuberが増えるのではないかと憶測も飛び交った。
しかし残念ながら、鏡花はその道へとは進まない。凡そ承認欲求と言う言葉とは無縁の生き方をしているので、先ずやりたがらない。
そもそも後輩達の為であり、趣味としての活動でしかない。最近になって、稲森美桜との繋がりも出来はしたが。
それも結局は趣味の範疇に過ぎない。副収入にはなっているので、副業にはなるかも知れないが。
「Vはやらないってさ。押し付けないであげてね」
『なんだ〜残念』
『仕方ないよ人それぞれ』
『実況とかも出来ないといけないしな』
『トーク力大事だよな』
『でも俺は推すね』
「友達だからね、迷惑は掛けない様に!」
良く訓練されたリスナー達なので、鏡花に迷惑を掛ける様な輩は居なかった。園田マリアの配信は、モデル時代に厄介なファンに追い掛けられた過去が活かされている。
配信初期から、女性配信者にやってはいけない事などを何度も伝えて来ている。セクハラ発言や行き過ぎた推し活への警告など、ずっと言い続けていたのでファン達も良く理解している。
そのある意味シビアな物言いに、着いて来れない者は既に淘汰された後だ。今更何か問題を起こす様な者は残っていない。
「あ、あと彼氏持ちだからね。ワンチャンとか無いから」
『そんなー(´・ω・`)』
『知 っ て た』
『あの声で彼氏が居ない筈もなく』
『人気が出る配信者は彼氏居る定期』
そんなこんなで、一晩にして一気に認知が広まった事を鏡花はまだ知らない。平日の遅い時間だったので、既に鏡花は夢の中。
普段通り朝目覚めたら、急激な伸び方に慌てふためく鏡花なのであった。