4章 第166話 ダメな大人と女子高生
「ほら起きて下さい篠原さん!」
「あー鏡花ちゃんだーおはよ〜」
先日録らせて貰った歌の編集が出来たとの報告を貰ったので、グータラ配信生活を送る篠原さんの家にやって来た。
随分あっさりと合鍵を渡されたので、オートロックも簡単に突破出来てしまう。それで良いのかとも思うけど、それだけ信頼されていると言う事なんだろうか。決して無料の家事代行業者扱いではないと思いたい。
「またこんなにお酒飲んだんですか!? 体に悪いですよ!」
「いやー昨夜の飲酒配信が盛り上がってさー」
「そう言う問題じゃないですよ!」
暴飲暴食は当然で、偏食傾向もある問題児。何故この生活で美しいままなのか不思議でならない。どう考えてもダメな大人の典型みたいな生活をしている。
床に散らばったストロング系チューハイの500ml缶、適当に食い散らかしたツマミ系のゴミと食べ残し。
先週末に掃除したばかりなのに、早くもゴミだらけになり始めた部屋。何をやったらこうなるんだろう。部屋とゴミ箱の区別が無いのだろうか。
その割に、ゴミ箱にはちゃんとゴミが入っている謎。何が違うのか全く理解出来ない。空になったテイッシュの箱は、綺麗に畳んでゴミ箱に入っているのが逆に怖い。
他のゴミもこう出来ないのだろうか。そこの違いは一体なんなのだろうか。こうして来訪する度に、新たな謎が発見出来る。
これ程までに無意味な発見を私は知らない。知りたくなかった大人の女性の毎日が、日々明らかになって行く。
「酒臭っ!? 一旦お水飲んでお風呂入って下さい!」
「あ〜〜。そう言えば一昨日から入ってないや」
「だから毎日入りましょう!?」
どうしてこの人は、こんなに綺麗なのにそこは適当なんだろうか。そしてそんな有り様でも、こうも美しいのは理不尽だと思う。
トータルで見ると結局マイナスになるので、悔しくはないけど不公平だ。彼氏が出来ても長続きしないらしいけど、これでは仕方ないと思う。
流石にこんな日々を送る大人の女性は、幾ら美人でも辛いだろう。見た目とのギャップが酷すぎると言うか、ガッカリ感が凄い。
家事能力がイコール女子力とは思わないけど、これは流石に酷いと思う。主夫をやってくれる様な男性でないと、一緒に暮らすのは難しい気がする。
私はまだ高校生だから、その辺りについては偉そうな事を言えないけど。それでもやっぱり、ダメなものはダメだと思う。
「じゃ〜ちょっと行ってくるね〜」
「脱いだらカゴに入れて下さいよ!」
「りょ〜」
何だろう、まだ学生なのに子供が出来たみたいだ。年齢こそ大人だし、お金持ちだけど実態は子供みたいだ。
設備を貸して貰えるからと、代価として家事を定期的にしている。それが気付けばこの状態。良いんだか悪いんだか。
悪意はないから嫌ではないけど、社会の闇みたいな部分を今から感じているのは正直辛い。見た目だけならキャリアウーマンなのに、生活はこの惨状なのだから。
こうなってしまった背景とか、きっと色々あるんだろう。モデルとして、バリバリ活躍していた時期もあるのだから。
それなのにこうなってしまった。引き籠もりこそ最高の生き方だと、常日頃から豪語する女性に。
「あぁ……またエナジードリンク爆買いしてる」
まるでインテリアの様に、床に積み上げられたカートン買いのエナジードリンク。30本入が5段ずつの2列、計10ケースも積まれていた。
どう考えても買い過ぎだし、明らかに飲み過ぎだと思う。過剰な摂取は良くないと言われているのに、この量はそんな事気にもしていない。
ストロング系チューハイとエナドリの中毒、寿命を縮めに行っているとしか思えない。おまけにタバコも結構吸うと言う。
不摂生の塊の様な生活をしているのはどうなんだろう。ともあれ、この早くもゴミ屋敷へと向かい始めた部屋の掃除をしよう。
「いやーありがとうね。私片付け下手だからさー」
「下手とかそう言うレベルじゃないですけどね」
1時間ほどで掃除等を終わらせた頃、篠原さんがお風呂から出て来た。一度入ればしっかり入浴するのに、ちょくちょくお風呂をサボるのは何なのだろうか。
これで5分ぐらいで出て来るならまだ分かる。それがしっかりと時間を割くのだから理解不能だ。
だったら毎日そうすれば良いのに。何が彼女をそうさせてしまうのだろうか。どうせ家からまともに出ないのだから、入る時間は幾らでもあると思うけど。
「それよりさ、仕上がりを確認してよ」
「あ、はい」
先週末に収録させて貰った私の歌。最近流行っているアニメのオープニングテーマ。アニソンではなくて、有名なアーティストの楽曲。
海外でも人気のある曲なので、私の様に歌ってアップしている人は沢山いる。ただ篠原さんの手によって、映像等にオリジナル要素が追加されていた。
私としては何ら文句はないし、何ならお金を払うレベルの仕上がりだ。その代価が家事代行なのだけれど。
イラストは描けるし音声編集も出来る。Vtuberとして活躍も出来るし本人も美人。それなのにどうして、この人はこうなのだろうか。
金銭ではなく労働で返せているのは、助かってはいるのだけれど。それでもこう、人として大事な事はあると思う。
「あの、家事とか、もう少し頑張りません?」
「鏡花ちゃんが居るから良いかなって」
「えぇ……」
良かれと思って伝えたのだけど。良い意味でも悪い意味でも、付き合いが長くなりそうな宣言をされてしまった。