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4章 第164話 コラボ配信

 その日、葉山真(はやままこと)は自宅で勉強をしていた。いつも通り自室の勉強机に参考書を広げて、黙々と課題に挑戦していく。

 目指すは地元の大学、美羽(みう)大学に合格する事。幸いにも学校の成績には問題はない。生徒としての評価も十分で、内申で落ちる事はない。

 しかし問題は、肝心の入試だ。今の所はA判定に届いておらず、この夏の努力が重要となる。せめて秋には、A判定に届きたいと言うのが彼の本音だった。


「おっと、時間だ」


 スマホの通知音が鳴り、真は一旦手を止めた。彼のスマホに届いた、とある動画アプリの通知。

 それは幼馴染の神田小春(かんだこはる)が持っている、動画チャンネルの配信開始通知だった。真はスマホの動画アプリを立ち上げると、引き出しからBluetoothスピーカーを取り出した。

 スマホと接続されたスピーカーからは、まだ彼女達の声は聞こえてこない。配信待機中のフリーBGMが流れる画面には、準備中と書かれたイラストが表示されていた。

 今回の配信は、小春単独での配信ではない。クラスメイトで友人の山下水樹(やましたみずき)、そして真の彼女である佐々木鏡花(ささききょうか)の3人で行う。


「はぁ? 料理配信? 鏡花はともかく、他2人は大丈夫なのか?」


 配信のタイトルには、『コラボ企画! JK料理配信』と記載されている。鏡花の料理を日常的に食べている真から見れば、彼女の腕に一切の不安は無い。

 しかし小春と水樹については、未知数な部分が多い。まともに包丁も使えない事はないとしても、上手いかと言われると怪しい。それが真の認識だった。

 中学までの調理実習で、小春の腕前を真は知っている。可もなく不可もなく、そんな表現が丁度良いと言った所か。

 高校ではそう言った調理実習の様な授業が無いので、その後どうなったのかを真は把握して居なかった。


『またMIZUKIか〜眼福眼福』

『美少女JKコンビと聞いて』

『MIZUKI様〜〜』

『KYOって誰?』

『知らん』

『最近歌ってみたで伸びてる子だよ』

『声可愛いよね』


 待機画面では、既に待っている視聴者達のコメントが流れていた。高校生の配信者としては、そこそこの成功を収めている小春と水樹、この2人は既に結構な人数のファンが居る。

 特に水樹はモデルをやっている関係で、女子学生のファンが非常に多い。対して最近始めたばかりの鏡花は、まだ固定ファンと呼べる層はまだ少ない。

 以前に、友人の投稿だと小春と水樹が発言した事がある。それ故にこのチャンネルでは、鏡花を認知している人はそれなりに居る様子が伺えた。


「始まったか。って、はぁ!?」


 配信が始まるなり画面に映されたのは、いつも通りの小春と水樹。そして2人の間に挟まれた馬面の女の子が1人。

 比喩でも何でもなく、良くある馬の頭を模した被り物を被っていた。どう考えてもその正体は決まっている。

 小春と水樹が画面内に居て、カメラ係の水島友香(みずしまともか)の笑い声が聞こえているのだから。つまりそれは、他でもない真の彼女。鏡花以外に有り得ない。


『いや草』

『なにこれwww』

『あれ被るJKって居るんだ』

『おもろすぎる』

『開幕からカオスやめてもろて』


 真だけではなく、他の視聴者も困惑している様子だ。確かに競走馬を擬人化させたゲームがブームになったりはした。

 馬と女の子と言う組み合わせは、今やポピュラーではある。しかしそれは、この方向性ではない。

 男性配信者ならば、このスタイルを取る人がそれなりに居る。しかし、年頃の女子高校生でこのやり方はあまりしないだろう。


「いや、うん。分かるけどな。もうちょい他に無かったか鏡花?」


 彼氏としては、非常に複雑な気分になる真だった。鏡花が顔出しで目立つのを嫌うのは、真とて良く理解している。

 だから被り物と言う手段にも、一定の理解を示せる。そんなに卑下する事はないし、ちゃんと可愛いのだから自信を持って欲しい。

 それが真の本音ではあるが、押し付けるつもりは無かった。本人の意思を尊重したい、それが真の方針ではある。だがしかしこれは、流石に理解し難い結果だった。

 せめてもう少し、可愛い被り物があったのではないか。彼氏として、それぐらいは考えても許されるのでは無いだろうか。


『そんじゃ始めまーす』


『宜しく』


『よ、宜しくお願いします!』


 勢い良く頭を下げた鏡花の馬面が、机に当たって笑いを誘う。画面の向こうからは、友香の笑い声が響いて来た。

 最初からそんな調子だったからか、視聴者のウケはそれ程悪くは無かった。馬の被り物のインパクトが強いとは言え、女子3人が楽しそうに料理をしているのは絵になった。

 真の懸念は外れ、意外と小春も水樹も危なげはない。流石に鏡花には及ばずとも、それなりに一般的な料理を作って行く。たまに友香も混ざりながら、配信は問題なく進んで行った。


『なんであれ被ってて手際良いんだ?』

『手元見えてるのかな?』

『くそ上手くて草』

『馬だけに?』

『は?』

『は?』

『は?』


 それからも配信は続き、1時間半ほどで大体の料理が完成した様だ。肉じゃがや味噌汁、焼き魚に根菜の煮物。鏡花が良く作る真の好物、ほうれん草と卵の煮浸しも机の上にあった。


「腹、減ったな……」


 夕飯には丁度良い時間になって、食欲を刺激された真の呟きが室内に虚しく響いた。

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