4章 第163話 お疲れ様会
私達3年生にとって、最後のコンクールが終わった。今回も前回と順位に変動は無かった。里香ちゃんは悔しがっていたけど、私は満足している。
やっぱり楽しいかどうかが、一番大切かなと私は思っている。もちろん、どこに重きを置くかは人それぞれだけど。
順位や勝敗に拘るのも、楽しみ方の一つだと思うし。で、それは良いんだけどこの状況はどうしようか。
「何で貴女まで居るのよ!」
「かまへんでしょう? 減るもんやありませんし」
「私がかまうわよ!」
ホテルで細やかなお疲れ様会をしていたら、何故か稲森さんも参加していた。拒む理由もないので、私としては特に気にはならない。
ホテルのレストランで、ビュッフェ形式のディナータイム。基本的には学校毎に固まるけれど、交流を禁止されている訳では無いし。
こうして一緒に食事をしても、誰かに怒られたりはしない。流石に他校の生徒をナンパしたりすれば、お叱りの一つや二つは受けるだろうけど。
稲森さんについては女の子同士だし、特にトラブルにもならないとは思う。里香ちゃんはともかくとして。
「ほら、鏡花も言ってやりなさい!」
「えっと、私は気にしないよ?」
「エエて言うてはるやない」
三年間ずっとライバル同士だったからか、どうにも2人は馬が合うようで合わない。根本的に仲が悪いのではなく、こうしているのが合っているんだと思う。
普通に仲良くしている方が、この2人の関係としては変なのだと思えた。遠慮のないやり取りが、きっと丁度良いんだろうな。
ちょっとコミカルな言い合いが、漫才みたいで私には良い雰囲気に見えた。
「大変そうですね」
「そうなんです。稲森先輩ていつもああやし」
「中山先輩もですよ」
言い合う部長達の影では、後輩達の交流が行われていた。タイプは違えど中々に我が強い2人だから、後輩達なりに苦労しているんだろう。
里香ちゃんは、夕日に向かって走り出すタイプだ。そして稲森さんは、行動力の塊みたいな人。
2人とも悪い人ではないけど、それぞれバイタリティが凄い。着いていく側からすれば、結構な体力が必要だ。
それに関しては、私もわりと苦労はした。どんどん進んで行っちゃうからね、里香ちゃんは。猪武者ってヤツだよねきっと。
「「聞こえてるわよ(聞こえてますよ)」」
「「ひっ!?」」
そう言う所は息が合うんだね。何だか漫画みたいなワンシーンになった。相変わらず面白い2人だなと、食べながら眺める。
2人を見ていると毎回思う。こんなタイプの友達も欲しかったなと。カナちゃんや麻衣とは、こんな関係じゃないし。
小春ちゃん達もそうだ。なんて言えば良いんだろう? 喧嘩仲間? 気の置けない相手? それとも腐れ縁だろうか。そんな感じの友人関係が、ちょっと羨ましい。
「良いよね、2人のライバル関係」
「良くないわよ!」
「そらこっちのセリフです」
やっぱり息が合ってる。それを言ったら面倒な事になりそうだから、敢えて言わないでおくけど。
この感じは、真との間でも成立しない。私の周りには1人も居ない。私がそもそもそんなタイプじゃないのもあるけど、羨ましいのは変わらない。
気を遣わなくても良いと言う意味でなら、篠原さんが近い気もするけど。ただあの関係はなんと言うか、こんなキラキラ青春物語じゃない。
アオハルとはだいぶ遠い位置にある関係性だし、そもそも歳も離れている。友達と言うよりは、知人が近いのだろうか。
「大体、ライバルと言う意味やったら鏡花さんです」
「えっ? 私? なんで!?」
「貴女以外に誰が居てるんですか」
そうだったの!? え!? いつの間にか私が稲森さんのライバルに!? どのタイミングでそんな認定が下ったんですかね!?
里香ちゃんなんじゃ無かったの? 分からない、全然理解出来ない。何故に私みたいなモブ子さんが、こんな京美人のお嬢様とライバルに!?
一体どこにそんなタイミングありましたか!? ちょっと私には分からないんですけど!?
「気付いてはらへんかったの!?」
「は、はい……」
「あんなに分かりやすう言いましたのに?」
そんな事言われても、それらしい事なんて一度も………………あっ。冬のコンクールで、言われてたかも。あれって、そう言う意味だったんだ。
ごめん稲森さん、ただの挨拶程度か何かかと。思い返してみれば、シチュエーションとか言動とかそう見えなくもない。
そんな青春の1ページみたいな経験が、これまでにあまりにも無さ過ぎたから気付けなかった。
「ちょっと鈍いんと違います?」
「ゔっ……ご、ごめんなさい」
「はぁ。これからはちゃんと自覚持って下さいね」
何だか、思ってたのと違う。新しい友達で、ライバルだなんてカッコイイ。だけど、この状況は情けない。
何でだろう、私が当事者になると突然ショボくなった気がする。私も負けないよ! とかそんな感じの、映えるセリフを言いたかった。
それが何か呆れられている。おかしい、こんな筈じゃなかったのに。私ならこんな風に言いたいセリフ集は、使う前にお蔵入りになりそうだ。
「合唱部は引退しても、再生数では勝負出来ますからね」
「えっ?」
「これがウチのチャンネルです」
なんと驚いた事に、稲森さんも歌の投稿をしていたらしい。と言うか、凄く見覚えがある。これ全部の投稿に、コメントをくれていたアカウントだ。
ここはこうした方が良いとか、的確なアドバイスをくれていた人だ。アレって、稲森さんだったんだ。凄く有り難いけど、ライバルってこれで良いのかな?
鏡花ちゃんがハーレム形成中