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4章 第160話 悩める真と鏡花の望み

 最近、何となく(まこと)の調子が良く無さそうだ。何と言えば良いんだろう。元気が無いって感じだろうか。

 微妙な変化でしか無いから、気付いてる人はあまり居ないと思う。何があったのか分からないけど、ちょっとでも元気になって欲しい。だからこうして、今日は晩御飯を作りに来ている。


「はい、沢山食べてね」


「いつもありがとうな、鏡花(きょうか)


 こうして会話していると普通なんだけど、ふとした時に何かを考えているみたい。踏み込んで聞いて良いのか、聞かない方が良いのか。

 まだまだ付き合って1年と少ししか経っていないから、こんな時にどうしたら良いのか悩ましい。

 ある程度は皆に聞いて知ってはいる。ただ、難しい部分があるのも事実だ。男の子は、恋人に弱みを見せたがらない。

 自分で解決しないと気にしてしまう。そんな風に聴いているから、手伝ったりして良いのかどうか。聞いてしまう事が、逆効果になるかも知れない。


「最近篠原(しのはら)さんの家でも作ってるから、レパートリー増えたでしょ」


「……確かに。コレは初めて食べるな」


「真も何かリクエストがあったら言ってね」


 自分の家と真の家、そして篠原さんの家と最近は料理をする機会が増えている。篠原さんについては怪我の功名と言うか、致し方ない事情による結果だけど。

 放っておくと、すぐインスタントで済ませようとする。まだ若いのに栄養が偏り過ぎるから健康に良くない。

 それに、設備を借りる以上は何かで返す必要がある。真の出迎えと同じ様に、私が返せる形で返す事にした。

 家事スキルがほぼ無いに等しいので、見かねた面もあるけれど。それにゴミ屋敷一歩手前の空間で、私は過ごしたくないから。


「本当に、鏡花は凄いよな」


「えっ? そうかな?」


「そうだよ。それに比べて俺は……」


 もしかして、それが調子がおかしい理由だったのかな。そんな事を気にしていたのだろうか。確かに最近の私は、色んな事をやっている。

 でもその大半は致し方無い理由だったり、趣味が増えた程度の事。そんな私と比較なんてしても、意味がないのに。

 最初から真の方が凄い人で、私が漸く追い付き始めただけ。最初の立ち位置が違ったのだから、そんな事で悩まなくても良い。

 だけどやっぱり、気になるのかな男の子は。そう言う所があるって、小春(こはる)ちゃん達が言っていたし。


「前にも言ったでしょ? 私は真が良いって」


「けど、俺は全然何も出来てないし」


「これ以上目立たれたら、逆に困るよ?」


 やっと追い付きかけた所で、また先に進まれては困ってしまう。離されてしまわない様に、これ以上頑張るとなると私には難しい。

 それこそ本当に、アイドルとかを目指さないといけなくなる。そしてそんなの、私には不可能だ。

 水樹(みずき)ちゃんみたいに、モデルをやれる程のスタイルはない。小春ちゃんみたいに整った容姿でもない。友香(ともか)ちゃんの様に、面白い会話が出来たりもしない。

 私には私に出来る事しか出来ないから、今ぐらいで良い。このまま私がちゃんと追い着くまで、待ってくれて居たらそれで良い。


「先ず真は、人気者です。だから私が追い掛けてるんだよ?」


「いや……しかしな」


「ちゃんとこうして居てくれるなら、私はそれで十分だよ」


 私は別に、真が学校で有名だから好きなんじゃない。顔が良いから、好きになった訳じゃない。

 何ならもっと平凡な容姿だった方が、幾らか気が休まるぐらいだ。隣で寝ているだけで、緊張する必要が無くなる。

 泊まった翌日に、早朝からドキドキせずに済む。…………いやドキドキはするか、どちらにしても。

 とにかく、私が好きなのは目立つ真じゃない。例え目立った所が無かったとしても、そんなの私には関係ない。

 私と居る時間を大切にしてくれるなら、それだけで私は十分過ぎる程に嬉しいのだから。


「私は今でも十分満足だよ」


「鏡花……」


「今まで通り、一緒に居てくれたら嬉しいよ」


 周りの評価なんて、気にしなくても良いと私は学んだ。だけど、気になる気持ちもちゃんと理解出来る。今でも、一切気にして居ないなんて言えない。

 だからこそ、最近になって漸く追い付けたなんて考えたのだから。物理的に隣には居ても、まだ残っている目に見えない距離。

 何とかその距離を詰めて、同じエリアぐらいには来れた。それでもまだ、私が真の隣に居る事に納得していない人は居ると思う。


 何かされた訳じゃないけど、楽観視はしていない。全員を納得させるのは無理だと思う。でもだからって、そこはそんなに大事じゃない。

 結局は、私が真を幸せに出来ているかが重要だ。相手が一緒に居たい人では無くなった末路を、私は良く知っているから。


「私は真と一緒に居たいよ」


「そう、なんだ。こんな俺でも良いのか?」


「こんなの、じゃないよ。私は真が好きなんだから」


 この日、私達はまた一つ先に進めたと思う。真でも、そんな不安を抱えるんだなと改めて確認する事が出来た。

 前からそんな傾向があったけど、真は結構そう言った事を気にするタイプだ。だからまだ恥ずかしい気持ちはあるけど、ちゃんと好意は口に出そうと思う。

 2人きりなら、何とか伝えられるから。真が変な勘違いで傷付くぐらいなら、そんな羞恥心は捨てられる。人前では絶対に出来ないけど。

 まだまだ暑い夜だけれど、その日はエアコンを効かせた部屋で、2人仲良くくっついて眠りに着いた。

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