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4章 第159話 夏期講習と悩み事

 夏休み、それは普通なら喜べる期間だ。毎日が日曜日で、部活や遊びに熱中出来る。しかし俺達高校3年生にとっては、人生を賭けた大切な時間だ。

 この期間を遊び呆けるか、真剣に過ごすかで全てが決まる。受験生にとっては、重要な勝負所だ。そう、なんだけど。


「はぁ……最悪だ」


「アンタさ、こんな単純なミスする?」


「ま、まあまだ模試だからね。大丈夫だよ(まこと)


 近場にある有名な塾の夏期講習。そこに参加した俺達は模試を受けた。そしてその結果に俺は、打ちひしがれていた。

 いざ挑んだ結果は、単純なミスのオンパレード。計算ミスにマークミス、英文の読み間違い。

 有りがちなミスの見本市とも言うべき、残念な答案用紙が目の前にあった。もちろん氏名の欄には書かれている。葉山真と言う、間違えようもない俺の名前が。


 ちゃんと勉強はして来たつもりだけど、まだまだ駄目らしい。致命的ではない点数だけど、これで鏡花(きょうか)と同じ大学に行こうと言うのは厳しい。

 不可能ではないけれど、ギリギリの綱渡りだ。ともすれば落ちてしまう未来が、十分に有り得る。

 目の前に居る小春(こはる)と鏡花は、模試の時点でA判定だ。対して俺はB判定、まだまだ学力が足りていない。


「あんたスポーツは出来るけど、勉強は相変わらずやな」


「辞めろ、分かってるからそれは」


「葉山って、勉強になると集中力が続かないからね」


 中学時代から良く知られている、友香(ともか)翔太(しょうた)の指摘が深々と刺さる。苦手ではないんだ、ただ得意でもないだけで。

 サッカーなら最後まで集中していられるけど、勉強になるとどうにも途切れがちだ。興味があるか無いか、そこの違いなんだろう。

 自分の将来そのものには関心があっても、勉強そのものには無い。教師になろうと言うのに、これでは不味いと分かっている。


 子供達に如何にして興味を持たせるか、それを考えないといけないのだから。解けなかった問題が、パッとクリア出来る瞬間は良い。

 その成功体験を教える事は出来るだろう。ただ、そこに至るまでの過程がどうにも苦手だ。

 日々の積み重ねが大事だと、それは知っているのに。その結果が凡ミスの山なのだから、改めて考え直す必要がある。


「アンタは多分、キョウの事考え過ぎなんじゃない?」


「いやそんな事は……なくもないが」


 鏡花と同じ大学に行きたい。その想いは本物だし、嘘偽りはない。だからこそ、考え過ぎている面は確かにあるかも知れない。

 絶対に合格するぞと言う気持ちは、大事なんだとは思う。だけどそのせいで、イマイチ集中出来ていない面もある。

 匙加減の問題なんだろうけど、どうにも上手く感情のコントロールが出来ない。試合中なら出来ている事が、試験中には何故か出来ない。


 焦燥感が拍車を掛けているのは理解していても、上手に肩の力を抜く事が出来ないでいた。一番ダメな形での、焦りが消えてくれない。

 ここは落ち着かないといけない場面なのに、逸る気持ちが抑えきれない。こんなのは初めての経験だった。


「あの、無理しないでね?」


「分かっては、いるんだけどな」


 本当ならどっしり構えていたいのだけど、結局鏡花を心配させる始末。恋人が居る環境を初めて経験してからと言うもの、上手く行かない事が多い。

 自分以外の誰かと、一緒に歩いて行くのがこんなに難しいとは思わなかった。何となくぼんやりと、上手く行くイメージがあった。だけど実際はこうだ。

 恋人が出来たから生まれた、良い事も沢山ある。だけど、だからと言って急に謎のパワーが目覚めたりもしない。


 突然成績が爆上がりしたりする事はなく、特に変わらない自分が居るだけ。進歩はしているけれど、劇的に変わったりもしていない。

 何となく特別感を感じていた、恋人が居ると言うステージ。いざ立ってみれば、自分の不甲斐なさや至らなさを実感させられるばかりだ。

 良くこんな男を、好きになってくれたよな。その点に関しては、本当にただ頭が下がる。


「ほら、そんな顔しないの! シャキっとしな」


「痛いって! 叩くなよ」


「辛気臭い空気出すからでしょ」


 恋人が出来る、付き合う。それはただ、スタート地点に立っただけに過ぎない。その事を改めて思い知る。家族では無い別の誰かと、家族になる事を目指す難しさ。

 それが今では身に沁みて良く分かる。やれば出来ると、浅はかにも考えて居た自分に気付かされる。

 そんな簡単な事じゃなくて、しっかりと考えないといけない。その重みを、少しずつだけど理解出来て来た。

 そんなプレッシャーと共に迎える大学入試。学校のテストとは違い、自分達の未来を決める試験。そんな2つの重責が、今自分の肩に乗っている。


「まだ時間はある、だよね?」


「そう、だったな」


 自分が鏡花にそう言ったんじゃないか。焦るばかりで、全然状況が見えていなかった。現状は現状として、ちゃんと受け止めないといけない。

 だけど、未来はまだまだ先が長い。もちろん入試まで、のんびりはして居られない。それでも、今やれる事からしっかりこなす以外に道はない。

 俺が望む未来は、楽して得られるものじゃない。この苦悩の果て、その先にしか俺達の未来は無いのだから。

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