4章 第157話 Side友梨佳 憧れの先輩達
私は中村友梨佳、美羽高校の2年生。小学校からずっと友達の、宮下理央と一緒にハンドボール部に所属している。
何処にでも居る普通の生徒で、特別目立つわけでもない。それなりの成績で、それなりに運動が出来るだけ。
特技と呼べる程の何かも無くて、自慢出来る様なモノは特にない。ハンドボールは昔から好きで続けているけど、女子ハンドボールの人気はイマイチ。
オリンピックで有名になれば違うのかも知れないけど、今の所日本国内ではあまり人気がない。
だからテニスとかバレーボール、フィギュアスケート辺りをやっている子ほどモテたりもしない。
全くと言う程ではないけど、誰もが憧れる様な大恋愛もしていない。どこまでも普通で、平凡で代わり映えのない毎日だ。
「お疲れ友梨佳〜また明日〜!」
「うん、またね〜!」
それは1年の時に起こった。いつも通りに、部活動に励んで居た時だった。先に帰るクラスメイト達と分かれて、私達は部活に向かう。
1年生は先ず体力作りが基本だから、その日も校舎内をランニングしていた。理央を含めた数人のグループで、一緒になって校舎内を走っていた私達の前に人影が飛び出して来た。
「悪い! 通らせてくれ!」
それは、学校で人気の男子生徒。1学年上の生徒で、2年生の葉山先輩だった。私だって、ちょっと良いなと憧れた事ぐらいはある。
周りの友人達も、大小あれど好意的に見ている。当然その中には、本気で恋している子だっている。
そんな有名なイケメン男子が、1人の女子生徒を抱えて走り抜けて行った。突然の事だったから、私達は何も言えなかった。
だけど、その光景だけはしっかりと記憶に残った。まるで漫画やアニメのワンシーンの様な姿だった。
小柄な女子をお姫様抱っこで抱えて、走って行くカッコイイ男の子。そんなのを見た私達は、当然騒ぐに決まっていた。
「今の葉山先輩だよね!?」
「何あれ!? 良いな〜!」
「私、ちょっと目の前で倒れて来る!」
暴走をしかけた友人を抑えつつ、先輩が走って行った方向を見つめる。何があったのかは分からないけど、真剣な表情で女子生徒を運ぶ姿は暫く忘れそうになかった。
それから数日後。葉山先輩と仲良くしていた生徒に嫉妬した人が、やらかした話が流れて来た。
内容が内容だけに、あまり表立って先生達も話題にしない。だけど行き過ぎた行動をしない様にと、全校集会で校長先生がしきりに念を押していた。
暴力事件なんて、学校の名前に大きな傷が付き兼ねない。大事にしたくない先生達の、大人の事情が感じられた。
「ね、あの人誰なのかな?」
「さぁ? 神田先輩では無かったけど」
理央が小声で聞いて来た疑問に、私は答えを持ち合わせていなかった。チラっと見た限りだと、見覚えのない生徒だった。
葉山先輩のクラスメイトらしいと、噂では聞いている。葉山先輩のクラスには、MIZUKI様を筆頭に神田先輩や水島先輩と言った美人が集まっている。
男子生徒もカッコイイと有名な人達が何人か居る。美男美女でもかき集めたのかと聞きたいぐらいだ。
ちょっとしたミーハー精神から、友人達と教室を覗き見た事もあるぐらいだ。そんな一件から暫くして、驚愕の噂が流れて来た。
「葉山先輩、彼女作ったらしいよ!!」
「ホントに!?」
葉山先輩達とは中学が同じだ。だから知っている、先輩は一度も彼女を作っていないと言う事を。
神田先輩や水島先輩が、しつこい男子をシャットアウトする為に嘘をつくのは女子の間では有名だ。だから3人がそんな関係に無いのは知っていた。
一部では葉山先輩が、女性に興味が無いのではと噂されていた。それぐらい浮いた話がないし、告白されても丁寧に断っていた。
だからこそ、余計に人気が上がった部分もある。キープ扱いしたりしない、誠実な対応が有名になったから。
そんな葉山先輩が彼女を作った。それは衝撃的な内容であると同時に、どんな人が相手なのか知りたくなった。
つい興味が湧いてしまった私達は、葉山先輩の彼女を見に行く事にした。
「ねぇ友梨佳、あの人なの?」
「私に聞かないでよ」
葉山先輩が見た事も無いような笑顔を向ける女子生徒は、滅茶苦茶普通の人だった。どこからどう見ても普通で、特徴らしい特徴は無い。
敢えて挙げるとするならば、小柄な背格好と眼鏡ぐらい。凄い美人と言う事もないし、特別劣っても居ない。本当にどこまでも普通の人だった。
それこそ、私達と何も変わらない人。何が違うのか分からないぐらい、平凡な先輩がそこに居た。
どんな美人なんだろうと、期待していたけれど肩透かしを食らってしまった。ただあの葉山先輩が選んだ人なんだから、何かあるのではないかと言う意見が多かった。
それと同時に、ビジュアルで選ばない人だと言う認識も広がった。もしかしたら自分でもと、希望を持つ人も居た。
それから暫くは、特に何も無かった。再びその人が話題になったのは、文化祭の時だった。あの神田先輩がバンドをやると言うから、結構な注目が集まった。
「ねぇ聞いた? あの佐々木って先輩が一緒に出るらしいよ!」
「そうなの!?」
「うん、吹奏楽部の子が言ってた!」
そんな噂話があっという間に広がった。葉山先輩が選んだ人が、ステージに立つと言う。しかもただ立つだけではなく、神田先輩や水島先輩が一緒らしい。
あの2人は中学時代から有名だし、MIZUKI様とも友人だと言う。そんな凄い人達と、実は関係のある人なんだと知った。
もしかしたら、ただの平凡な人ではないのかも知れない。そんな風に認識を改め始めたのは、間違いでは無かった。
いつの間にか前より綺麗になっているし、ステージは凄い盛り上がった。それだけでは終わらず、合唱部に入って全国2位に導いて帰って来た。
そして年明けには、何故かファッション雑誌に載っていた。そして分かった。私達みたいな平凡な見た目の人間でも、輝けるチャンスはあるんだと。
佐々木先輩は、実際にやって見せてくれた。気付けば私達は、いつの間にか佐々木先輩を応援するファンになっていた。
「友梨佳、今日も先輩のとこ行こ!」
「昨日の投稿、感想言わなきゃ!」
後輩ちゃん達の話も書いておきたいなと思って書きました。