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4章 第152話 どんな大人になりたいか

鏡花(きょうか)の自己アピールかぁ」


「うん、何を言えば良いか分からなくて」


 いつもの様に俺の家で鏡花と2人で勉強をしていた最中、鏡花から面接に関する相談を受けていた。

 俺はそれほど苦労はしなかったけど、鏡花はかなり苦戦している様だ。俺が進むのは教育学部で、鏡花は経済学部の予定だ。

 確かに経済学部に進む上で、鏡花の得意分野はあまり役に立つ部類では無かった。料理も歌も、経済学とはあまり関係性はない。

 食品関係の話から、どうにか持って行く事も出来なくはないかも知れない。しかし鏡花は、飲食店を経営したいと言った夢を持ってはいない。


「努力家な所……明確な実績がないか」


「そうなんだよね。それに皆言うかなって」


「まあ〜〜俺も言うしなぁ」


 何をどれだけ頑張りました! それを言うのは簡単で、体育会系なら大半の人間が面接で答えるだろう。

 俺の偏見かも知れないが。ただ実際、俺もサッカーを続けていた事や、怪我で引退したとは言え特待生だった事はアピールに使える。

 教育学部に行きたい理由だって、自分が教えて貰えた様にサッカーを教えたいからだ。だけど鏡花には、そう言った明確な理由がない。

 大人になりたい、自立した人間になりたい。その考えは立派なんだけど、何になりたいかがまだ定まっていない。


「やっぱり、飲食関係か?」


「それしかないのかなぁ?」


 非常に難しい問題だった。鏡花の悩みは、言ってしまえばどんな大人になりたいかと言う事。そして同時に、鏡花のアイデンティティを明確にする事。

 この2点が中心となっている。正直、高校生の間からそこを明確にするのは難しい。俺は怪我で夢を絶たれたからこそ持てたモノ。

 今も続けていたならば、何も考えずに適当な進路を選んだかも知れない。水樹の様に、プロとして仕事にしている訳でもないのに。

 夢と憧れに縋って、猛進していた可能性が高い。何も変わらない毎日に染まって、気付けずに居ただろう。


「鏡花は何か、やりたい仕事とかあるの?」


「うーん…………何でも良いかなって」


「職種に拘りがないのか。難しいなぁ」


 企業側からしたら、何でも良いからやりますってのは有り難いのかも知れない。実際鏡花は、バイトで滅茶苦茶地味な作業も平気でやっている。

 どんな部署でも文句を言わずにやります、と言う方向性も有りなのかも知れない。しかしそれは、やはり経済学部とは関係がない。

 先ず入学しないとその話は出来ないので、今はあまり意味がない考えだろう。


「とりあえずは、なりたい職業をある程度固めないか?」


「先にそっちを決めるの?」


「就きたい職業によっては、学部も変わるかも知れないし」


 多分鏡花は、そっちを決めた方が良い。人前に立つのが嫌だから、広報はやりたくないとか。裏方に徹する為に、商品開発部とかそう言った仕事がしたいとか。

 大人になって働きたい、その意思は既にしっかりあるのだからそこは既にクリアしている。

 とりあえず皆が行くから大学に行く。そんなタイプも中には居るけれど、鏡花はそうじゃない。

 既に働く意思が固まっている。だからもうワンステップ上に行けば良いんじゃないだろうか。


「じゃあ、(まこと)と一緒に先生でもやる?」


「嬉しいけど、それは辞めよう」


「どうして?」


「鏡花の人生なんだ。鏡花が心からやりたい事を選んで欲しい」


 もちろん本音を言えば、滅茶苦茶嬉しい。俺に合わせて自分も先生になる。そんなの、嬉しくない訳がない。

 2人で教師になって、同じ学校に赴任して。暫く経って金銭的余裕が出来たら、その時点で結婚。学校の子供達に祝って貰ったりして。

 そんな未来も、俺はあっても良いのかなと思う。理想的だとすら思いもする。だけど、それは俺の都合でしかない。

 俺は鏡花を所有物にしたいんじゃない。何でも俺の言う通りにする、そんなラジコンみたいな彼女は要らない。想像もしない未来へと進む、そんな自由な鏡花を見ていたいんだ。


「私の、やりたい事」


「そうだ。それが何であろうと俺は応援する」


「あんまり、考えた事無かったな」


「まだ時間はある。考えてみないか?」


 いつまでもゆっくりとはして居られない。もう7月に入って、夏に突入している。とりあえずは経済学部に進む方向にしておいて、勉強だけは進めておけば良い。

 まず目指すのは就職と言う方向である以上は、勉強する科目に大きな変更は出ないだろう。学者になりたいとか、そう言う方向ではないから。


 あとで突然ロボット工学部に入りたい! とか唐突過ぎる路線変更でもしない限りは大丈夫だろう。………………いや、鏡花なら有り得るのか?

 何でまたそんな道へ? なんて未来も普通に有り得てしまうのが不安要素か。鏡花もなぁ、さや姉とは別方向に破天荒な所があるんだよな。大丈夫か?


「分かった、ちょっと考えてみる」


「あ、その、常識の範囲でな? 普通で良いからな?」


「? 普通じゃない事なんて出来ないよ」


 いや、そんな何を言ってるんだって顔で見ないで欲しい。結構普通じゃないんだけどね? 貴女わりと滅茶苦茶してるからね?

 普通の人はカラオケ動画をアップしたって、数万再生行ったりしないからね。たった5本だけとは言え。本当に大丈夫かなぁ?

高校生の時点で将来設計決められる人と、定められない人で分かれますよね

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