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4章 第143話 もうすぐ3年生

 春休みだからと、遊び呆けるわけには行かない。だからと言って、(まこと)と2人の時間を作らないのも変な話。

 あんまり遠くまで行かない様にして、近場にある大きな公園にお花見に来ている。


「少し早いかと思ったけど、結構咲いてるな」


「うん、綺麗だね」


 私達の他にも、お花見客は沢山来ていた。この辺でお花見となればここしかないから、どうしても人が集中してしまう。

 ただもう少し遠くに行けば、桜の名所があるので大半の人はそっちに行っている。ここに居るのは、近所で良いかなと判断したタイプの人間。

 つまり私達みたいな人達だ。名所の方だと朝早くから場所取りをしないと、ろくに座る事も出来ない。

 けどこの公園は設置されているテーブルや、ベンチを狙わなければ普通に座れる。私達はレジャーシートを桜の樹の近くに敷いて、2人並んで座っている。


「今日のお弁当だよ」


「お、サンドイッチか。良いね」


「ツナと卵とハムがあるから、好きなの食べてね」


 ホットサンドにしようかと思ったけど、久し振りに取り出したホットサンドメーカーは壊れていた。

 仕方がないので、ごく普通のサンドイッチにしました。ホットサンドメーカーは、そのうち買い直しておこうかな。

 そんなに高いのじゃなくても十分だし。夏の暑い時期じゃなくて、今みたいな涼しい時期だとたまに食べたくなるんだよね。


「美味い! やっぱ料理は鏡花(きょうか)のが一番だな」


「サンドイッチはそんなに変わらないよ?」


「そうか? 味付けの違いかな?」


 それは多少あるかも知れない。真の好みは大体把握済みだから、苦手なモノは入れないし使わない。

 味付けは特に気を付けている。この料理は甘めの方が好きとか、こっちはお酢多めが良いとか。

 その時々の感想や反応に合わせて、経験値を積み重ねて来たから。彼の好きなモノなら、大体何でも作れる。

 悠里(ゆうり)さんにも色々と教えて貰えたから、その辺りも反映させている。自惚れではなく、彼の好みな味を一番知っているのは私だ。


「真に合わせて作ってるからかな」


「そりゃ美味いに決まってる」


 破壊力の高い笑顔をありがとうございます。暫く忘れないと思います。真の笑った顔には、未だにドキドキしてしまう。

 元々カッコいい人だけど、こう言う何気ない時に見せる瞬間が、一番破壊力が高い。今までに心臓が何個破壊されたか分からない。

 いい加減慣れないと、とは思っているけど成果は無し。朝起きた時にこの顔が目の前にあって、心臓が無くなる日が続いている。私は成人式まで生きられるだろうか。


「そう言えば、卓也(たくや)達旅行に行ったらしいな」


(あずさ)先輩のお祝いらしいね」


 今月の始め、3年生は卒業式を終えて学校を去って行った。先輩方とは、ちゃんとお別れをして来た。

 皆それぞれ、自分達の未来へと向かって羽ばたいて行った。梓先輩を始め、何人かは大学で再会出来るけれど。


 そんな梓先輩の卒業旅行を、霧島(きりしま)君と2人で行っているらしいのは私も聞いたから知っている。

 是非とも2人の時間を満喫して来て下さい先輩。そして監視の任務もお任せ下さい。


「俺達もさ、来年一緒に行こう。皆でさ」


「うん! 楽しそうだねそれ!」


小春(こはる)にはもう相談しといたからさ」


 いつもの皆で、卒業旅行。きっとそれは、とても楽しいに違いない。大学入試と言う重荷から解放されて、自由な旅に出掛ける。

 私達は1年の時に修学旅行を終えてしまっているので、是非とも今のメンバーで行きたい。

 色んな思い出を、最後に残しておきたい。そこから先は、バラバラになってしまうから。


「風が気持ち良いな」


「そうだね、丁度良い感じ」


「たまにはこんな日も良いな」


 どこかに遊びに行くのも嫌いじゃないけど、こうして2人並んで自然を眺めるのも悪くないかな。

 自然と言う程の大自然の中には居ないけれど、緑が周りにある事に違いはない。都市部ならではのデートも良いけど、穏やかな時間を満喫するのも結構良い。

 誰かが言っていたけど、何処に行くかではなく誰と行くか。本当にそれが大事だと思う。真となら、何処に行ったとしても良い想い出になるから。


「ん? どうした?」


「もうちょっとだけ、こうしてても良い?」


「構わないぞ」


 真の肩にちょっとだけ頭を預けさせて貰う。私に出来る精一杯のアピール。自分から出来る、最大限の接触。

 真の優しい手が、私の髪を撫でて行く。この時間が、私は凄く好きだ。積極的になれない私の、構って欲しい気持ちを満たす時間。

 穏やかな空気と、程よい暖かさの中で過ごす2人の時間。僅かな接触に過ぎないけれど、私はそれでも満たされる。

 キスとかそう言う行為だけが愛情ではないから。ただこうして、触れて貰うだけでも凄く嬉しい。


「俺達も遂に3年か……」


「早いよね、もうすぐ1年だよ」


「そうだな」


 私達がこうなる切っ掛け、話をする様になった日からもうすぐ1年経つ事になる。あれから色々あったけど、もうそんなに経つなんて。

 私から見れば、ほぼジェットコースターだった。教室の隅っこでひっそりと過ごす筈だった未来は、もうどこかへ行ってしまった。


「3年の間も、宜しくな鏡花」


「うん、真もね」


 もうすぐ進級して、私達は3年生になる。この1年で、私達の未来が決まる。真と2人で、皆と一緒に楽しい日々を過ごしたいな。

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