4章 第140話 対抗策
水樹ちゃんの考えとは、どうせ拡散されたのならそれを逆手に取ってしまえば良いと言うもの。
普段から顔出しで色々とやっている、彼女らしい発想と言えるかも知れない。ただ、それがこんな風に繋がるとは思いもしなかったけど。
「いやー助かるよ佐々木ちゃん」
「あの、本当に私で良いんですか?」
「前にも言ったでしょ? 貴女が良いのよ」
私は竹原さんを中心としたファッション雑誌の担当者と、カメラマンやメイクさんに囲まれていた。去年に会った時に言われた、学生向けメイク講座のモデル役。
その企画が、本当に進行していた。水樹ちゃんのプランは、もういっそ芸能関係者と思わせてしまえば良いと言うもの。
そうすれば、一定数の人々は納得して勝手に消えて行く。あとは人の噂も七十五日の精神で、放置してしまえば良いだろうと言う考えだった。
正直、私も自分の事をエゴサする事は無い。いちいちどうなったか、調べに行こうとは思わない。
ここまでやっても尚納得行かない人にまで、理解して貰おうとは思わない。そもそもの話、関係無い人だもんね。
ちょっとは小春ちゃんの精神にあやかっても良いかなって。だって、今回の件は私の手に余る。それならもういっそ、やれる事を全部やってしまえば良い。
「もう少し顔をあげて下さい」
「は、はい!」
こんなに本格的な写真撮影は初めてだ。プロに写真を撮って貰うなんて、数え切れる程度の回数しかない。
もう殆ど覚えていない七五三の時と、卒業アルバム用に撮って貰った程度だ。そして中学の集合写真は、あまり思い出したくない。
半目で非常に残念な感じになっていた自分が、バッチリ写っているから。後で卒業アルバムを見た時の絶望感と来たら。
あの私を持っている人が、世界に数十人居ると言う事実が恐ろしい。全て焼却処分してしまいたい。
「もう少しそのままで」
「はいぃ」
もしかして早まっただろうか。こんなに何枚も写真を撮られるなんて。ちょっとぐらいなら、そんな風に考えたのは甘かった。めちゃくちゃ本格的な撮影だった。
もちろん、私がメインではない。水樹ちゃんの様なモデルさん達の撮影がメインで、私の撮影はオマケみたいなもの。
それは最初から聞いていたから、何の不満もない。むしろ美人に混じって私が居る事に、ただただ申し訳ない気持ちで一杯だ。
水樹ちゃんのモデル仲間は、皆が超絶美人の集団だった。高級なスーパーに並ぶカップラーメンになったみたいだ。何か、すいません混ざってしまって。
「思ったより良いわねー」
「……そうですか? 全然そんな気しないですけど」
「貴女はもうちょっと、自信を持った方が良いわよ?」
良く言われるワード1位を、竹原さんにも言われてしまいました。そんな事を言われてもなぁ〜。これでもかなり自信を持てた方じゃないかな。
ミジンコレベルだった自尊心が、漸く人並み程度のサイズにアップしたんですけどね。それもすぐに、ミジンコレベルに縮んでしまうんだけど。
普通の人達は、どうやって自己肯定感を上げているんだろうか。私はすぐ自分の駄目な所が気になってしまって、秒速で自虐モードに入ってしまう。
最近はやっと、秒速から時速ぐらいには落ちたけれど。私が私を自虐したら、褒めてくれた人達に失礼なんだと学べた結果だ。
…………うん、まだね、辞めれてはいないの。駄目なのは理解出来たんだけど。
「最近活躍もしたんでしょ? 自信持ちなさい」
「それは……そうなんですけど」
「上ばっかり見てても疲れるだけよ? 気にせず好きに生きなさい」
「はい……」
どうなんだろう? 私が気にし過ぎなんだろうか。世の中の人達は、もっと気楽に日々を過ごしているんだろうか。
誰かに迷惑を掛けるかも知れない、誰かが不快に思うかも知れない。そうやって、影に隠れるみたいな生き方をしないのだろうか?
陽の当たる場所に居ても良いんだろうか? 皆が居るから、私も居させて貰ってるだけだと思っている。
でも、実はそうじゃないのかな? 最近のアレコレは、偶然とかたまたまの産物じゃないの?
小春ちゃんに言われた、自分の為に生きなさいって言うのと同じなのだろうか。私は自分達と、友人達の事だけ考えていたら良いのかな?
「女の子はね、先ずそれだけで可愛いのよ」
「は、はぁ」
「どう活かすか、どう見せるかが難しいだけでね」
そう、なのかな? ファッション雑誌の編集者をやっている人だからこその視点なのかな。私には無い考え方だった。
色んな女の子を沢山見て来た、竹原さんならではの価値観。私の様な学生では、辿り着けない境地。そう言う何かが、きっとあるんだろう。
「だから貴女が良いのよ。自信を持って欲しくて」
「自信、ですか?」
「そう! 自分なんて、そんな風に思う子達にね」
そっか。竹原さんがこう言う人だから、小春ちゃんもそうなんだ。こんな人が昔から近くに居たから、小春ちゃんもあんなに優しい女の子なんだ。
あれだけ綺麗な女の子なのに、嫌味な所も無くて押しつけがましくもない。その理由が分かった気がする。
竹原さんもきっと、苦労はして来た筈だ。嫉妬、やっかみ、妬み僻み。そう言う悪意は、きっと沢山受けて来ただろう。
それでもこんな風に言える人だから、きっと真も憧れたんだと思う。私もこんな風になりたいなって、心から思えたから。