4章 第139話 ネットリテラシー
いやーここ最近の私はそれなりに頑張れたんじゃないかな。合唱部の成績も色んな人に褒められたからね。校長先生にまで褒められちゃったよ。
ただの帰宅部では得られなかった成果だよね。あんまり目立ちたくはないけど、こう言うのはたまになら良いかな。
幾ら一般モブBとは言えども、褒められて嫌な気分にはならないよ。でも、暫くは穏やかな日々が良いかな。静かで平和な日々を謳歌したいかな。
「ちょいちょい! 大変だよキョウ!」
「……えっ?」
「アンタら、記事にされてるよ!」
教室に駆け込んで来た小春ちゃんが見せてくれたのは、ネット記者を名乗る人物による隠し撮り記事だった。
つい先程投稿されたもので、まだそれほど拡散されてはいないけど、沢山の人が見ているのは間違いない。
『斎藤悠里の息子、スカイツリーデートか!?』そんなタイトルで投稿された記事には、私と真が写った写真が複数載せられていた。あまりにも身に覚えが有り過ぎる。
「ちょっ!? 何だよコレ!? 何で俺達を!?」
「な、なんで? どうして?」
「厄介な奴に目を付けられたのよ!」
小春ちゃんの話によると、度々行き過ぎた投稿を行い炎上しているインフルエンサーが書いた記事らしい。
隠し撮りや人権侵害等の迷惑行為スレスレな投稿を繰り返しており、裁判沙汰になる事もある厄介な人らしい。
最近はそのスタイルに飽きられて、昔ほど伸びなくなっていたそうな。恐らくはそれが原因で、今回の明らかにアウトな記事を書いたのではないかと言う話だった。
「どどどどど、どうしよう!? 私、石を投げられちゃうのかな!?」
「いや! 違う! 悪いのは迂闊だった俺だ!」
「違うでしょうが! こんなの普通に通報案件だから!」
そこからの流れはあっという間で、真の両親にはすぐ連絡を入れた。学校では教師達への連絡と事情説明。
話を聞いたクラスメイト達が、続々と投稿への違反報告を入れてくれた。同じ様に、一般人を晒し者にした事を怒った人達が通報したのだろう。その投稿は暫くしたら消えていた。
ただ、そう長くない時間とは言えネットで拡散されてしまった事実はどうやっても消えない。
私達が記事にされて、色んな人の目に触れた事は変わりない。こんなモブ生徒Bがネット記事なんて、意味が分からないよ。
「どうしよう!? ごめんね!?」
「鏡花は何も悪くない! 俺がもっと気をつけていたら!」
「だから! アンタら被害者だからね? 謝るのはアンタ達じゃないから」
そ、そっか、そうだよね。何かこう、反射的に謝ってしまった。まだまだ私は落ち着けていないのかも知れない。でもこれで落ち着ける人って居るのかな?
勝手にネットに晒されて、突然注目される事になった状況で。自分達で悪目立ちしに行ったのなら自業自得だと思うけど、真と私はただ東京観光をしただけ。
特に後ろめたい事はしていないし、人前で過激な行為に及んだりもしていない。あの日は、普通にスカイツリーを楽しんだだけ。何も悪い事はしていない、と思いたい。
「ホンマに最悪やな! コイツ捕まればエエのに」
「鏡花ちゃん、もし何かあったらすぐ連絡してね」
「こんな事する奴が居るなんてな! この辺りをウロついてたら抗議してやるぜ」
幸いにも、友人達に恵まれたお蔭で味方は多い。ただそれでも、私達は未成年の学生に過ぎない。出来る事なんてそう多くはない。
先程、阿坂先生が来て大人に任せておけと言ってくれた。だからそこは心配していないけど、世間からどう見られるのかとか考えてしまう。
冷静になって考えれば、私は一般生徒にも関わらず大女優の息子と付き合っている女。そんな存在が、世間から見たらどう見えるだろう。
またあの時みたいに、良く思わない人が出るんじゃないだろうか。
「駄目よキョウ、自分を責めないで。貴女は何も悪くない」
「でも……」
「大丈夫よ、悠里さんが認めてるんだから。誰もケチを付ける資格なんてない」
「そう、なのかな」
私には分からない、世の中の人々がどう思うかなんて。ただ、顔も知らない誰かの評価まで気にしていられないのも事実だ。
今東京で暮らしている名も知らぬ誰かが、何を思っているかなんて分からない。そもそも知りようがない。そう言う意味では、どこか平然としてる自分も居る。
ただ、急に思わぬ所から晒された恐怖心もあって。こんなのどうしたら良いか分からない。早々経験する事ではないだろうから、対処法も良く分からない。
そこにあるから何となく使っていた、インターネットの怖い部分を突然ぶつけられて困惑する他ない。
「キョウちゃん、無理しないでね」
「変な奴が居たら、僕達に相談するんだよ」
周りに居る人達が、頼もしくて非常に助かる。もし1人だったらこんな事になって、どうしたら良いか分からず混乱していただろう。
今だって軽いパニック状態だ。これまでも似たような状況を目にする事はあった。勝手に何も悪くない人をネットに晒す人を見た事がある。
全然理解出来ないし、私はネットで有名になりたい気持ちが分からない。その為になら、何でもやれちゃう人が理解出来ない。
私は自分の行動で、誰かに迷惑を掛けてしまうのが怖いぐらいなのに。
「ねぇ鏡花、これは良い機会かもしれないわよ」
「水樹ちゃん? どう言う事?」
「私に考えがあるわ」