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3章 第135話 届けたいモノ

「続きまして、京都府代表、山城女学園(やましろじょがくえん)


 遂に始まった全国合唱コンクールの本戦。今日この会場で、日本一の合唱部が決まる。そして私達美羽(みう)高校の、今期最後の成績が決まる。

 見守っている3年生に、最高の結果を見せる事が出来るのかはまだ分からない。去年の夏は、残念ながら山城女学園に敗れ4位で終了したらしい。

 ギリギリ銅メダルを逃した先輩達。その因縁の相手が、今ステージに立っている。


 ここからでも分かる、稲森(いなもり)さんの存在感。間違いない、あの人も小春(こはる)ちゃんと同種の人間だ。こうやって離れて居ても、オーラを感じさせる美しさ。

 水樹(みずき)ちゃんの様にモデルをやって居ても不思議ではない。一挙手一投足に、まるで無駄がなく優雅だ。

 つまり私は、小春ちゃんみたいな人と競い合う。天守閣に住まうお姫様と、ただの小間使いの戦い。その戦いに勝つか、最低でも拮抗する必要がある。


 歴然とした戦力差が私と稲森さんにはある。確かに競い合うのは歌だけど、見栄えと言うのも大事だ。容姿で評価はされないけど、全体の見栄え自体は影響する。

 お嬢様学校に通う、本物のお姫様達は皆が美しく優雅だ。礼節と言うのは、大事な要素だろう。その点に於いては、先ず間違いなくトップだろう。


「嘘でしょ!? 夏よりまだ上手くなってる!?」


「確かに、上手いね」


 控室のモニターで見ている私達に、降り掛かるプレッシャー。この次に歌うのだから、かなりハードルが高い。高い歌唱力と自信故か、ソロパートも所々に挟まる。

 これだけ華やかなで歌も上手ければ、あれだけの態度で居られるのも納得が行く。勝ちを確信した圧倒的強者の態度。

 こんなのもう、アイドルか歌手にでもなった方が良い。高校生の枠に収まって良い人じゃない。中山(なかやま)さん達が勝てなかったのも理解出来た。


「佐々木さん、大丈夫?」


「大丈夫、だと思う」


 昨日皆で話し合って決めた、方向性の転換。プランとしては元々あったけど、ギリギリまで私が渋ったから出来なかった事。

 やるかも知れないからと、練習だけはしていた。それを昨日、私が自分からやると決めた。もうどうせならと、真に貰った勇気に乗っかる事にした。


「私達の番ね、皆! 行きましょう!」


「うん!」


 控室を出て、ステージへと向かう。綺麗に並んで通路を歩く私達の向かい側から、稲森さん達が歩いてくる。やり切った顔の女子達が、誇らしげに優雅に歩を進めていた。


「今回もウチが頂きましたな」


「まだ決まってないでしょ」


 リーダー2人の熱い視線がバチバチと交差する。これで勝ちは頂いたと誇る稲森さんと、今回は負けないと反骨精神に溢れた中山さん。

 部長同士の譲れない戦いがそこには合った。本戦が始まる前よりも激しい、気持ちのぶつかり合い。


「あら? 貴女それは?」


「? なんでしょう?」


「ふふ、ここはグラウンドじゃないんやで?」


 確かに、ミサンガは不釣り合いかも知れない。合唱部と何ら関わりの無いアイテムだ。皆の願い事を込めて、そんな意味で使う場合もあるかも知れない。

 だけどそれは、大体スポーツの場合が殆どだろう。でも私のこれは、そう言う理由で付けた物ではない。


「良いんですよ、私はこれで」


「…………ふぅん。ほな、表彰台で待ってます」


 稲森さん達と別れて、遂にステージに上がった私達。沢山の観客が居て、いつもの私なら萎縮してしまったと思う。でも今日の私だけはいつもと違う。

 今日まで重ねて来た、楽しい日々。大変だった事や、嬉しかった事。その全ての経験を、気持ちをここで形にしよう。


 大好きな彼に貰った勇気で、私はここに立っている。これは今日来てくれた、真と小春ちゃんに向けた歌。

 学校の皆に、ありがとうを伝える歌。そして、中山さん達の気持ちに報いたいと言う意思。

 その為なら私は、恥ずかしいなんて気持ちを封印出来る。当初から望まれていた、ソロパートもこなして見せよう。皆に届け、私のこの、ありがとうと言う気持ち。


「♪〜〜〜」


 私は覚えている、あの日真を介抱した日の事を。次の日から、急に声を掛けられ始めて戸惑って。友達に相談したけど、結局意味は無かった。

 どんどん距離を詰めて来るから、目立ちたくないって後ろ向きになって。それでも彼は付き合ってくれて、陰気な所を治したい私の都合に合わせてくれた。

 そんな事をしていたら、小春ちゃんが現れた。好きにして良いって、自由に過ごせと教えてくれた。こんな私を好きになってくれた男の子と、距離感が分からない私。


 そんな曖昧な日々の中で、色んな事があった。辛い事もあったけど、友達が増えて楽しい毎日を送れた。今の私は、小春ちゃんのお陰でメイクが出来て爪も綺麗だ。

 真の好きと言う気持ちが、左手の薬指にある。そして、自分が着いていると昨日くれたミサンガが右手にある。

 私は優しい2人の温もりに包まれている。そんな2人や友人達のお陰で、今私はここに居る。こんな華やかな舞台で、歌わせて貰えている。

 孤独から逃げていた、あの頃とはもう違う。こうして居られるのは、皆が居たから。優しい人達に囲まれたから、こんな風に私は変われた。だから皆、ありがとう!!

もう少しだけ合唱部編が続きます。

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