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3章 第132話 第いざ参ろう東京へ

 2台の大型バスが、東京方面へと向かう高速道路を走る。美羽(みう)高校合唱部のメンバーが乗る1台と、教師や引退した3年生を始めとしたスタッフ用車両。

 高校野球等と違い、荷物自体はそう多くない。しかし2泊3日スケジュールなので、宿泊用の荷物は必要になる。

 土曜の昼から祝日の月曜日に掛けて、彼女達は東京に滞在する。大会に向けて移動する車内は、緊張に包まれていたり……はしなかった。


「良いなー! 葉山君ってそんな事もしてくれるの?」


「え、普通じゃないの? 珍しい事なの?」


「全然だよー私の彼氏なんて何もしないよ?」


「そ、そうなんだ……」


 ほぼ女子しか居ない空間で、行われているのは所謂恋バナ。恋人が居る女子メンバーを中心に、高校生のリアルな恋が語られていた。

 僅かに居る男子メンバーは、居心地が悪そうに端の席で小さく纏まっていた。こう言う時には悲しいかな、男子達に発言権は存在しないのだ。大人しく嵐が過ぎ去るのを待ち続けるしかない。


「て言うか家で一緒に料理とか、もう同棲じゃない?」


「え、え? そうかな? たまにだよ?」


「その頻度はたまにじゃないよー」


 如何せん話題のカップルであるだけに、(まこと)鏡花(きょうか)の関係性に興味のある者は多い。特にここ合唱部では、突如現れたエースの日常は皆が知りたい情報だった。

 小心者なだけで、人当たりが悪い訳ではない鏡花は既に合唱部に馴染みきっている。だからこそ聞ける、2人の恋の話。

 一度も誰の手を取らなかった学校で話題のイケメンが、付き合うとどんな風に振る舞うのか知りたい女子は多い。


「良いなー! そんな風に言ってくれる人に出会いてぇー!」


「見た目だけじゃないんだね〜中身もイケメンとかズルい」


「それは私も良く思うよ。何なら毎日思ってる」


 これから全国へと進出して来た、強豪校達と相見えると言うのに随分と明るい空気に包まれている。と言うよりも、そもそも緊張感がまるでない。

 今から東京観光に行くかの様に、軽やかな雰囲気がある。そしてそれは、部長の中山里香(なかやまりか)とて代わりは無かった。


「葉山君も応援来るんでしょ?」


「そうだよ、新幹線で小春(こはる)ちゃんと一緒に」


「……神田(かんだ)さんと一緒って、不安じゃないの?」


「え? あ〜〜〜。あの2人はそんな関係じゃないから大丈夫」


 真が鏡花に惚れ込む前から、周囲が何となく持っていた誤解。真には小春が居るから、他の女子を選ばないと言う噂。

 小春が面倒な相手を振る時に使う嘘が、その噂を後押ししていた。両者共にその噂を利用していた面もあるので、ある意味仕方ない誤解でもある。

 2人を良く知らない生徒であれば、大体は持っている認識だ。それでも向かって行く女子生徒達は、ある意味で物凄い勇気の持ち主である。

 決まった相手の居る異性に告白するのが、褒められた行為かはともかく。


「2人は姉弟って感じかな。それが一番近いよ」


「そ、そうだったのね。てっきりバチバチしてたのかと」


「私と小春ちゃんが? そんなの有り得ないよ」


 ごく一部で発生していた、小春と鏡花のライバル関係説。学校と言う限られた空間では、様々な憶測が飛び交う事も珍しくない。

 まるでラスボスに立ち向かう勇者であるかの様に、鏡花と小春を見ていた者達も少なからず居た。実際はただの友人で、結構一緒に遊ぶ事が多い関係なのだが。

 真が弟だとしたら、鏡花の扱いは義妹になる。実際小春の認識では、その関係性が最も近い。


「なんだぁ〜葉山君を賭けての勝負はして無かったんだ」


「そんなのやらないよ!?」


 噂と言うのは、大体そう言う物だ。当人達の事情や心情などお構い無しに、周囲の憶測で形作られて行く。

 とんでもない妄想だったり、案外的を得た内容だったり。時には内情をリークした何者かが原因だったりして。

 インターネットが定着した事で、根も葉もない噂がさも真実として扱われたりもする。それは学校と言う限られたコミュニティ内であっても変わらない。

 クラス内のグループだけじゃない、別の何かだけで交わされる噂話は尽きる事が無い。噂話が好きな人間は一定数どこにでも居る。


「私達は普通の友達だよ。小春ちゃんも彼氏居るし」


「なんだぁ~全然嘘じゃない! 誰よあんな噂流したの!」


 変な噂が流れる事は良くある事。特に学校はこれが多い。噂好きの何者かが、好き勝手な話を言い触らす事がままある。

 誰が聞いても嘘と分かる事もあれば、妙に信憑性をもった話題だったり。人は人生経験を積む過程で、胡散臭い話を信用しなくなっていく。

 しかし未成年の間は、これが中々難しい。だからこそ、流行ってしまう憶測が無くならない。最も鏡花と小春の間には、そんな噂では揺らぐ事のない友情が既に構築されている。


「あれ? 佐々木さん? ()()、珍しいね?」


「あ、これ? ちょっとね。友達との約束だから」


 鏡花の爪には、今までして居なかったネイルチップが付けられていた。シンプルな薄ピンクの、さほど目立たない代物。

 先日大切な友人に教えて貰った、新しい扉を開いた結果。少しずつでも、貰ったモノに応える為に。ちょっとした事からでも、前へ進もうとする鏡花の気持ちの現れ。


 目指すは東京、上野にある東京文化会館。決戦の地まで、2台のバスは順調に走り続けている。

こっからちょっと長いです。

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