3章 第130話 募金の成果は?
今日は合唱部の皆で募金箱を回収する日。本大会は2月に開催だから、1月末には資金が無いと間に合わない。
幸いにも大型バスの予約費用は何とかなった。問題は東京での滞在費用の方で、足りなければホテルをキャンセルするしかない。
元々はこの時期じゃ無かったらしいんだけど、ここ数年の気候変動や物価の変化。そう言ったアレやコレやの関係で、寒い時期で良いんじゃない? と言う理由で開催時期が変わったらしい。
卒業シーズンにさえ被ら無ければ3年生も観覧出来るし、旅行が集中する時期でもないから宿も取りやすい。そう言う大人の事情等が絡んだ結果だとかどうとか。
ともかく何よりも、今はこの募金箱を学校に持って帰るのが最優先。合唱部じゃないから、無理に付き合わなくても良いのに真も一緒に来てくれている。
「ごめんね、付き合わせて」
「気にするなって。どうせ暇だしな」
そんな事はないのを知っている。合間を見ては勉強をしている彼が、暇な筈がないんだから。それでもこうして、一緒に来てくれる優しさが有り難い。
鈍臭い私だから、落としてしまったりコケてばら撒いたりし兼ねない。優しい人達が入れてくれたお金で、皆の為の募金だから大切にしないといけない。
その点を考えたら、体育会系の男の子は凄く安心出来る。スリとかそう言うのも、絶対に無いわけじゃないし。
「それにしても、結構集まったな」
「そうだよね! 何とかなるかな?」
「きっと他の場所も同じじゃないか?」
「そうだと良いんだけど……」
不足した遠征費用は50万円もある。少子化とか色々と理由があるらしいけど、部活動も結構色々と大変なんだね。とは言え、募金箱設置の結果は中々に上々。
全部の箱が8割ぐらいまで、ぎっしりとお金が入っていた。中には小銭だけじゃなく、5千円札まで入っている。誰か分からないけど、津田さんを有難うございます。凄く助かります本当に。
「なあ鏡花、東京行けたらちょっと観光しないか?」
「そんな時間あるかなぁ?」
「夜ちょっとだけとかさ、どうだ?」
コンクールに行っている間、ずっと会場に缶詰って事は無い。それこそ合間の空き時間とか、寝る前ちょっと出掛けるぐらいなら大丈夫かも?
それなら悪くないかも? ただ夜の東京って、何となく怖いイメージがある。勝手な偏見かも知れないけど、酔っ払いに絡まれるとかそんなイメージ。あと大阪や名古屋も同じ様な印象がある。
「夜に出掛けて大丈夫かな?」
「何回か行ったけど、大丈夫だぞ? 変な所さえ行かなければ」
「へ、変な所……」
きっと怪しいお兄さんが、違法な薬物を売っていたりするんだ。酔ったオジサンが喧嘩してたり、ホストに付きまとわれたり。
そして違法ギャンブルをしている、厳ついオジサン達に海外に売られてしまうんだ。こ、怖いよ東京、今更だけど私みたいなのが行って大丈夫かな?
「また変な想像してるな? 大丈夫だよ」
「ほ、本当に? 大丈夫? 売られない?」
「売られない売られない」
まだちょっと怖いけど、行った人が大丈夫だと言っているから信じよう。きっと会場から変に離れ無ければ大丈夫だよね。…………今これフラグ立ってないよね?
皆とはぐれて迷子になって、みたいな有りがちな展開にならないよね? うん、よし絶対に誰かと一緒に居よう。何か嫌な予感がするから。
「降りるぞ鏡花」
「あ、ごめん!」
考えているうちに駅に着いていたらしい。真が手を引いてくれなければ、乗り過ごしていたかも知れない。いけない、今は余計な考え事をしている場合じゃない。
そもそもまだ、行けると決まった訳じゃないんだ。募金の集まり方次第では、棄権の道も考えないといけないのだから。
「大丈夫、だよね。募金」
「信じようぜ、街の人達をさ」
「そう、だよね」
私の地元の人達は、沢山入れてくれたし真の町の人達もそう。きっと美羽市の優しい人達が、協力してくれたに違いない。
何か特徴がある街じゃないけど、変な事件も起きない穏やかな人々が暮らす土地。だからきっと、何とかなると信じたい。優しい大人達が、沢山居る街だと信じたい。
「佐々木さん! 葉山君!」
「中山さん! どう……だった?」
「見てよコレ! 凄いよ!」
「へぇ、凄いじゃないか」
中山さんが持っている募金箱も、私達の物と同じ様に沢山のお金が詰まっていた。と言うか、一瞬だけど渋沢さんが見えた様な気がする。
石油王でも旅行に来て居たのかな? 何にしろ、これは期待して良いかも知れない。続々と返って来る合唱部の部員達も、皆が笑顔を浮かべている。これなら行けるかも知れない、全国コンクールに。
「さあ皆! 部室に戻って数えるわよ! 先生呼んでくるわ!」
「「「おー!!」」」
こうして私達は、無事全国へ行く権利を本当の意味で得た。50万円の不足だったのに、結局70万円も集まってしまった。
残った分は大型バスに回した費用の、補填に回すとかどうとか。ご協力頂いた皆さん、ありがとうございました! 私達、頑張って来ます!
どこまでやれるか分からないけど、頂いた恩を仇で返す様な真似だけは絶対出来ないよね。
「佐々木さん、頑張ろうね」
「うん!」




