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3章 第127話 特別な貴方へ

 1月10日、それは私にとって特別な日となった。それは恋人の、(まこと)君の誕生日だから。去年まではただの普通の1日だったけど、今の私にはそうじゃない。

 忘れてはいけない、大切な人が生まれた日。彼が早生まれだから私とは一時的に歳の差が生まれて、それが埋まる日。


 去年の内から何を贈るか考えて、アドバイスも貰って来た。買うべきものは買ったし、ちゃんと持って来た。

 学校で皆とお祝いもしたけど、本番はこれから。もう両親が東京に帰ってしまった、真君の家で2人きりのお祝いをする。


「出来たよー! さ、食べよう」


「おお! 凄いな! 全部美味そう」


 今日の晩御飯は、真君が好きな物全部盛りだよ。全てのおかずが、真君の好きな物ばかり。お金持ちだけど、庶民的な食べ物が好きな彼に合わせた普通の食卓。

 見た目は派手ではないけれど、注いだ想いは過去一番。全力で作ったから好きなだけ食べて欲しい。何なら明日も食べられるぐらい、沢山作ったからね。


「うめぇ! やっぱ鏡花(きょうか)のご飯が一番だ」


「そ、そう? 良かったよ。エヘヘ」


 喜んで貰えたみたいで私も満足だ。私が作った物を、美味しそうに食べてくれる彼を見るのが私の幸せ。今はもう、それが一番嬉しい事になった。

 ただの義務になっていた料理が、いつの間にか幸せに変わっていた。そうなったのは、この男の子のお陰。顔が良いとか、そんな理由じゃなくてこの人が好き。

 例え太って別人の様な姿になっても、私はこの男の子が良いと断言出来る。だから私は、こうしてプレゼントを用意して来た。


「ご馳走様! すまん、食べ切れなかった」


「そのつもりで作ってないよ。明日も食べてね」


「そうだな、そうする!」


 残ったおかずにラップを掛けて冷蔵庫へ。空いたお皿は洗って片付ける。料理は出来ない真君だけど、そう言った作業は一緒にやってくれる。

 私の体調が悪い日なんて、全部やってくれたりする。大丈夫だと言っても、無理矢理ベッドに押し込まれる。

 語彙力が足りないかも知れないけど、良い人だなって心から思う。そんな彼に贈る贈り物、先ずその1つ目。


「これ、プレゼントだよ」


「えっ? 料理だけじゃないのか? 悪いなそんなに貰って」


「良いんだよ、それだけ感謝してるから」


「おっ! 財布か! 助かるよ、今使ってるの端が破れててさ」


 そう、ここ最近の真君を見ていて気付いた事。それは財布が傷んで来ていたと言う事。どうせ贈るなら実用的で、日常的に使用する物が良いかなって。

 だから真君が良く買いに行くブランドの、好きそうなデザインの長財布にしました。バイトをしてるから、資金はそれなりにあったからね。


「ありがとうな!」


「あっ、えっと。その……まだあるの」


「えっ? これ以上貰ったら貰い過ぎだぞ」


 そうじゃない、私が貰い過ぎてるんだよ。だから少しずつ返したくて、でも出来なかったお返し。残りのプレゼントは、普段からのありがとうなんだ。

 どうしても恥ずかしくて、慣れなくて出来なかった私からのお返し。小春ち(こはる)ゃんに言われて、覚悟を決めた本日最後のプレゼント。

 きっと恋愛に慣れた人達なら、当たり前に出来ちゃうんだろうけど。私には難しいから、だからこそ意味がある事。


「あの、ね。私はこれまで、男の子を呼捨てで呼んだ事が無くて」


「うん? 確かに、そうだな?」


「だから、これからもこれまでも、ま……()が初めてで唯一の人だよ」


「……え?」


 小春ちゃんに教えて貰った事。男の子は自分だけとか、自分にしかしない事が好きらしい。女の子からの、特別扱いが嬉しいらしい。

 だから今まで恥ずかしくて出来なかった、名前で呼捨てを始める事にした。私にとってあなたは、特別な存在なんだよって意味を込めて。

 私なりの、好きな気持ちの象徴として。他の男の子には絶対やらない、貴方だけの特別な呼び方なんだよ。


「そ、そうか!」


「うん。その、改めて宜しくね、真」


 このまま彼だけが、こうして名前で呼ぶただ1人の男性であって欲しい。次の新しい誰かは、私の人生に必要ない。

 そう思うから、名前で呼び合う関係を続けて行きたいな。いつまでもこうして、笑っていられたら良いな。


「ああ! 宜しくな」


「うん!」


 これからの私には、様々な困難が待ち受けている。合唱コンクールの、全国本戦。そして、そもそも足りない部費問題。

 それを乗り越えても、大学受験と言う大きな壁が立ちはだかる。殆どの学生がライバルとなる、高校最後の大勝負。

 勉強は得意だからって、油断していると危険だ。インフルエンザ等の流行り病に、コロッと倒れてしまえば全てが台無しになる。


 この1年は、私にとって凄く大変な年になると思う。だけど、この人となら乗り越えて行ける。こうして繋いだ手から伝わる、温かさを知っているから。

 私は1人じゃないって、教えてくれる指輪も貰った。だから絶対に負けられない。私は気が小さいけど、負ける事を良しとしている訳じゃない。

 だから絶対、真と2人で未来へ進む! 2人で幸せな明日を過ごすんだ!



 鏡花は着実に成長していた。元々前向きに生きられる素質があったから。その素質が活かされる環境に居れば、こうして前に進む事が出来る。

 ここから鏡花の、波乱と挑戦の日々が始まる。平凡と言うのは、案外色々あるものだから。思ったよりも、山も谷もそれなりに待ち受けている。

 それらを乗り越えて人は、大人になって行く。鏡花と真とて、それは避けられない。頑張る若者たちの、新たなステージがもうすぐ始まる。

前フリの121話で、カクヨムの方でアメリカ人読者の方から、裸エプロンだろこれ!!って感想が来て困りましたよね(笑)

裸エプロンは言う程日本人はやらないんだって説明をする日曜の朝は何だったんだろう。

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