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3章 第125話 恋人が居る年の瀬

 12月31日、それは日本だけに限らず全世界で特別な日。今も世界中で新たな年を迎える瞬間を、今か今かと待ち構えている。そんな中で俺は、両親や彼女と一緒にその瞬間を待っている。


「あ、あの、本当に良いんですか?」


「良いの良いの! 未来の()()が遠慮しないの」


「え、えと、ハイ」


 最初はかなり渋った鏡花(きょうか)だったが、母さんのゴリ押しでこの状況が生まれた。葉山家の3人に、鏡花と言う組み合わせ。4人で鍋を囲みながら、年末特有のゆったりとした時間を過ごしている。

 親戚のお陰で、格安で手に入るらしいズワイガニを中心としたカニ鍋。我が家では定番となっている、12月31日の過ごし方。

 そこに鏡花が呼ばれているのだから、歓迎されている証拠なんだけどな。他の国はどうか分からないけど、普通大晦日に招く客は家族に認められた相手だけじゃないか?  

 あんまり知らない他人を呼んだりしないだろう。だから、鏡花は自信を持ってここに居れば良いんだけどな。


「わ、凄く美味しいです!」


「でしょ〜良いカニなのよコレ」


「カニもですけど、お出汁の味が良いですよ。どうしてるんですか?」


「それはね〜」


 料理の話題で盛り上がる女性陣。残念ながら、俺には全く理解出来ない会話だ。母さんはちょっと、鏡花を独占し過ぎなんじゃないか?

 そりゃあ結婚したら家族になるし、義娘になるんだけどさ。幾ら女の子が欲しかったからって、鏡花を可愛がり過ぎてると思うぞ。その子、俺の彼女なんだけど。


「はあ、何で母さんはいつもこうなんだ」


「慣れろ。それが俺達に出せる唯一の答えだ」


「そんな身も蓋もない事を言われてもな」


 小春(こはる)に対してもそうだが、母さんは女の子をやたら可愛がる。俺と遊びに来たのか母さんと遊びに来たのか、どっちか分からない事が昔から良くあった。

 小春は小春で、それで構わないと満喫して帰っていたっけな。父親はこの通りで、いつも寡黙なマイペースだし。

 俺ってどっちに似たんだろうか? たまに分からなくなる時がある。


「えっ!? そんな作り方するんですか?」


「そうなのよ〜これは九州の調理法なんだけどね」


 うん、まあ仲良くなれそうなのは良い。それは良いんだがな、母さんよ。そろそろ俺に鏡花を返してくれないかな? 俺も鏡花と喋りたいんだけど。

 その話題だと、俺は一切混ざれる余地が無いんだよ。料理なんて全く出来ないし、せいぜい調理実習で学ぶ程度が限界だ。

 卵焼きとチャーハンとレトルト、後はカップ麺がせいぜいの俺には着いて行けない。女性同士の会話って、俺みたいなタイプには入り辛い。

 翔太の様になれたら良いんだが、中々そうは行かない。難しいよ、女性って。


(まこと)って焼くと食べないのよ〜困るわよね」


「えっ!? そうなんですか!?」


「あら? 貴女の前では違うのかしら?」


「ちょおい!! 母さん!」


 辞めろよ俺がナスは煮るのが好きで、焼きナスはあんまり好きじゃないとバラすの。嫌いなんじゃないんだよ。

 ただ食感の好みと言うか、それだけでしかない。鏡花が作ってくれたのなら、焼きナスでも食べるよ。


「ご、ごめん真君。気付かなくて」


「いや、違うんだ。嫌いじゃないからな? 鏡花が作るなら食べるから」


「あらまあ〜。真がそんな事言うなんてね」


「母さんは黙っててくれないか!?」


 厄介過ぎるなこの状況! 鏡花を知って貰う良い機会かと思ったら、俺のアレコレを暴露する会になってるじゃないか。

 これじゃさや姉が居るのと変わらないじゃないぞ。母さん、俺が初めて彼女を連れて来たから舞い上がってるな!? 言わなくて良い事は黙っててくれ頼むから!


 思ってたより親に彼女を紹介するのって厄介だな。母親と彼女って、所謂嫁姑ってヤツで拗れるんじゃないのか? めちゃくちゃ良好な関係性なんだけど。

 もちろん両者共に、性格が悪くないのは分かっているけど。それにしても馴染むスピードが早すぎないか。


「息子は見栄を張りがちだからな」


「父さんまで!?」


 味方だと思っていた父親に、背後から刺されてしまった。え、何? 全然分からなかったけど、父さんも舞い上がってる感じ?

 アンタ普段そんなに会話しないよな? 珍しくやたらと会話に参加してくるけど、やっぱそうなのか?

 辞めてくれないか、こっちが恥ずかしいよ舞い上がってる両親を見る息子としては。新手の拷問なのかコレは?


「そ、そうなんですね」


「見た目ほど大人にはなれてないんだ」


「そうよ〜まだまだ全然子供なんだから」


「もう辞めてくれ!?」


 何故に年の瀬に俺はこんな目に遭ってるんだよ? 俺が何かしましたか? 彼女作って親に紹介しただけなんだけど。

 何なの一体、そんな羞恥プレイは望んでいませんけどねぇ! まあでも、鏡花が馴染めたみたいだから良いのか? …………いや良くねぇよ!?


「2人共良い加減にしてくれ!?」


「あら〜良いじゃないの。息子の事を良く知って貰うだけよ」


「そうだな」


「良くないよ!」


 これは今まで、恋人を作らなかった俺が悪いのか? 両親がこんな風になるなんて知らなかったよ。

 父さんなんて、酒も飲んでないのに明らかにテンションが高い。息子がサッカーでレギュラー入りした時より、遥かに嬉しそうなのは何だ? アンタそれで良いのか? 男親としてそれで。


「な、なるほど。そうなんですね」


「鏡花! ほら、そんな話はもう良いから!」


 12月31日の大晦日、それは普通和やかに過ごす年の終わり。大体の人は、穏やかな1日になるだろう。

 だと言うのに、どうして俺はこんな目に遭っているんだろうな!?

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