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3章 第122話 聖なる夜に

 12月24日と25日は、子供達が楽しみにしている日。そして恋人達にとっても、大切な2日間。

 逆算するとクリスマス近辺で出来た子供が、かなり多いのは有名な話。とは言っても、クリスマスは大体平日である事が多い。

 実際には明日も仕事や学校が待っている。夜通しで子作りに励むなんて、あまり現実的ではない。ただ、一切出来ないかと言えばそうでもないが。


 鏡花(きょうか)(まこと)もまた、世の恋人達と同じ様に2人だけの夜を楽しんでいた。もちろん子供を作る目的ではなく、微笑ましい恋愛初心者達のクリスマスと言う意味で。


「え、えっと。出来ました。真君……食べ切れる?」


「これぐらいなら大丈夫だ! 任せろ!」


 クリスマスらしくローストチキンや、グラタン等を作ってみた鏡花。2人だけなのに少し作り過ぎた感も否めないが、冬を感じさせる手作りの料理がテーブルに並んでいる。

 流石にクリスマスケーキを1ホール作るのは、鏡花としても憚られたので市販の品だ。作る労力もそうだが、2人ともそれほど甘党ではない。

 嫌いではないが、1ホールを2人で食べ切るのは厳しい。1人用に切り分けられたケーキが2つ入った、如何にも恋人向けなソレを洋菓子店で購入済み。


「鏡花って何でも作れるな? 出来ない料理ってあるのか?」


「え、どうかな? 考えた事無かったし」


「いつも大体手作りだから、そう思ったんだけどな」


「作った事がない料理なら結構あるかも。でも一回作れば、多分大丈夫だと思う」


 鏡花の家事スキルはかなり高い。祖母に花嫁修行として仕込まれた、数々の調理法を鏡花はマスターしている。

 例えば味噌汁一つをとっても、鏡花は一手間掛けている。現代の家庭料理では、味噌汁は簡単な部類に入る。何なら市販品でも十分な美味しさがある。

 そんな中で鏡花は、出汁からちゃんと取っている。鰹節と煮干しを先ずは煮込む。その手間を挟んでから、味噌汁作りが本格的に始まる。


 鏡花の祖母は長野出身だった為、西日本の人間からすれば少し濃い目の味付けだ。良くうどんの出汁が話のネタになるが、東に向かう程濃いのは事実だ。

 鏡花達が住むこの街は、東寄りの中間地点になる為少し濃い。大阪出身の友香(ともか)は、始めて美羽(みう)市でうどんを食べた時に驚いた過去がある。

 それでもやはり長野式の味噌汁は、まだまだ濃い方になる。だがそれは逆に真の口に合い、最早鏡花の作る味噌汁でしか満足出来ない体になっていた。

 似た話題で言うなら、味が濃い目の卵焼きも真好みだった。この男、完全に胃袋を掌握されている。


「うまっ!! 店で買うのと変わらないぞこのチキン」


「あ、それはネットで見たレシピだよ」


「見て出来たのがコレなら、十分凄いぞ」


 見たら出来た、この言葉は出来る人間だから言える言葉だ。出来ない人間からすれば、作り方を見ても全然理解出来ない。

 それに鏡花は、見た上でアレンジを加えている。火を通す時間を工夫する事で、肉のジューシーさをより高い領域に上げていた。

 これは普段から料理をしているから、レシピを見てすぐ反映させられる。素人の勝手なアレンジは事故の元だが、熟練者のアレンジはしっかり結果が出る。


「グラタンも美味いな〜。鏡花の料理は全部美味しい」


「い、言い過ぎだよ! そんな事無いよ」


「いやマジだって! 毎日鏡花のご飯が良いな」


「だ、だから! もう!」


 良い加減に鏡花も認めれば良いのだが、そこはやはり自信の無さが勝ってしまう。結果無駄に恥ずかしい思いをする事になっている。

 小春(こはる)の様に自分が出来るのは当然と、(うそぶ)ける様になれれば違うのだが。そんな日はいつになるのやら。

 こんなやり取りを何時までも続けている未来が、容易に想像出来てしまう。それがこの2人にとっては、一番良い未来なのかも知れない。





「じゃあ、そろそろやるか」


「うん、良いよ!」


 夕飯も終わり、片付けて入浴。クリスマスの夜に彼氏の家で、ここまで来たらやる事は決まっている。

 2人だけの世界で、特別な夜を過ごすのがクリスマス。聖なる夜ではなく、性なる夜だなんて言われたりもする。そんな夜に真の自室で行うのは、当然ながら聖夜に相応しい行為。


「俺のは、コレ!」


「私はコレだよ!」


「じゃあ、せーので開けるぞ! せーの!」


 ……………………プレゼント交換。確かに聖夜に相応しくはある。そう言う意味では、非常に健全と言える。今時の高校生は、ちょっとやらないかも知れないけれど。

 クリスマスとしては、綺麗で爽やかな一夜だと言えるだろう。普段はあんまり健全じゃない2人だけれど。


「これ、マフラーか? 鏡花が作ったのか?」


「う、うん。変、かな?」


「逆だよ! すげぇな、売ってても不思議じゃないぞ」


 恋愛は不器用でも手先は器用な鏡花が、1人黙々と編み続けたマフラー。薄い茶色と濃い茶色を使い分けて、チェック柄を作っている。

 他にも青や赤い毛糸を交えた、市販品の様な仕上がり。器用だからこそ出来る、鏡花渾身の一品だった。


「良く作る時間あったな?」


「結構前から作ってたんだよ」


 実は夏頃からひっそりと、この日の為に鏡花は夜な夜な編んでいた。そう言うものかな、定番なんじゃないかなと制作開始。

 いざ作り始めたら、拘りたいポイントが後から続々と顔を出し始める。お陰でつい最近まで完成しなかった、超大作になってしまっていた。

 良く考えたらまあまあ重いマフラーだが、それはこの男には関係ない。今日からこのマフラーは、真にとっての宝物になるのだから。


「真君がくれた手袋、高いんじゃない?」


「あ〜〜いや、まあ普通だよ」


「でもコレ、結構有名なブランド……」


「良いから良いから! ほら、この前片方破れてたからさ」


 真は真で、結構名の知れたブランド物の手袋を渡していた。鏡花がブランドに拘るタイプでは無いと分かっている。お金じゃないのも、もちろん分かっている。

 ただ鏡花の様に、何かを作ったり出来ないから。そんな自分が出来る拘りは、良い物を贈る事だけ。

 それなりの値段をする代わり、その分長く使えるだけの耐久性がある。最近まで鏡花が使用していた、お手頃価格の手袋とは出来が違う。


 ファッションとして、と言う意味でも見栄えが良い。鏡花が入れたインナーカラーに合わせた、淡いブルーの手袋。

 そう言ったコーディネートを意識したチョイスは、ファッションデザイナーをやっている父親の影響だろう。


「大事にするね!」


「俺もさ、大人になってもコレ使うよ」


「流石にそれは無理じゃないかなぁ?」


 鏡花と真の、初めてのクリスマス。驚く様なハプニング等もなく、目を引く様なイベントも無い。でもそんなクリスマスが、2人には合っているのだろう。

 もうすぐ冬休みが始まる。そしてそれは、鏡花と葉山夫妻の初顔合わせが近いと言う事。その時が、着実に迫っていた。

私の中の2人がプレゼント交換始めたので、結果こうなりました。

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