1章 第11話 先ずはお友達から
3話連投しています。夜にまた続きも投稿します。
小春さんとの2人だけの秘密の? 話し合いを終えた私たちは、皆が待っているハズの場所まで戻って来た。どうやらずっと待っていたのは葉山君1人だけみたいだ。
「随分長かったな」
「すまんね~アンタのキョウを独り占めしちゃって」
ちょっと不満そうな葉山君が、新鮮な感じで少し面白かった。
「……キョウ?」
フレンドリーに名前を呼ぶ小春さんを見て、葉山君は怪訝そうな表情で見ている。
「アタシら今日から親友だからさ~いぇ~い!」
「い、いぇ~い!」
超絶ぎこちないハイタッチを交わす私。よ、陽キャって難しい。
「……随分仲良くなったんだな」
「だしょ~羨ましいか~?」
「……別に」
あれ? 葉山君が今までに見た事も無い反応をしている。なんだろう?
「見た~キョウ? マコ嫉妬してんよ~可愛いかよ~」
「うっせ」
そっか……今のは嫉妬の感情だったのか。葉山君でもそんな風に感じるんだなぁ。2人のコミカルなやり取りに、思わず笑ってしまう。
「フフフ」
小春さんのお陰で、葉山君の前でもまた自然に笑える。心理的な葉山君との距離が近付いたみたい。……いや、私が勝手に離れてただけか。
「……お~これがキョウの笑顔か~確かに味があるかも」
「え???」
私の笑顔? 一体何の話をしているのだろう? 小春さんは楽しそうだけど、葉山君は焦っている様子だ。
「あ、聞いてないの? マコのヤツがさ~」
「もう良いだろ! アイツらあそこで休憩してるから!」
小春さんが何かを言い掛けたみたいだけど、葉山君が近くにあるコーヒーチェーン店に強引に連れて行った。あそこにクラスの陽キャグループが居るのだろう。
それから数分で、小春さんを連れて行った葉山君が戻って来た。
「ごめんね佐々木さん。小春が迷惑掛けなかった?」
「大丈夫だよ。小春さん良い人だって分かったから」
「……ホントに仲良くなったんだ」
とても不思議そうに葉山君が驚いている。うんまあ、そうだろうねぇ。私と小春さんでは、あまりにもタイプが違うもの。
「この前よりは、話しやすくなったと思う」
「そっか。アイツは騒がしいけど、悪い奴じゃないから。もし良かったら、このまま仲良くしてやってくれ」
「うん!」
幼馴染って言う特別な関係性を持つ葉山君と小春さん。この2人と仲良くなれたのは、きっと私の人生にプラスとなってくれると思う。
それは打算的な意味ではなくて、純粋に友人として日々の生活が楽しくなりそうだと思えた。
「じゃあ、俺達も行こう」
「うん!」
いつまでも道端で話し込んでいる訳にはいかないし、普通に通行の邪魔だ。私達は再び2人で歩き出す。
(あっ…………)
多分先程のクラスメイトとの邂逅で、私があんな態度を見せたからだろう。葉山君は気を使って今度は手を繋がずに歩いている。
(違う、あれは嫌だったから手を離したんじゃない。)
目立ちたくないと言う、私の意思に配慮してくれた結果だろう。ちょっと前までの私なら、ここで安堵していただろうけど今は違う。
小春さんに背中を押して貰って、幼馴染公認って言う最強のお墨付きを貰ったんだ。
私はまだ自分が葉山君を好きなのかは分からないけど、私を好きで居てくれる葉山君の気持ちには、出来る限り誠実でありたい。
さっき私が後ろ向きにならなければ、また手を繋いだハズだ。それはきっと、葉山君が望んでいる事に違いない。
だから、今だ!! 行け!! 自分から手を繋ぐんだ!! こう、スッと。さり気なくスッと行けば多分後は流れで何とかなる……知らんけど!!
さぁ行け私! ちょっと一皮向けた新たなモブBとして、進化した私を今こそ披露する時!! 行けーーー!! 掴めーーー!!
ちょん
「うん?」
はい、日和ました。全然自然じゃないしスマートさの欠片もなく、葉山君が腰に付けたベルトの先っちょを物凄くじみーーに摘まんだ。
か、可愛くねぇ!! ダサい! と言うかちょっとキモくない? ベルトの先って。せめて服の裾とかじゃない?
何でジャケットの内側に手を入れる勇気がある割に、手は無理なんだよ? 意味不明だろ何だコイツ??……………………まあそれが私なんだけども。
「佐々木さん?」
そうだよね! 意味分かんないよね! 私も分かんないよ! 女子にベルトを掴まれ時はこうしようみたいなテンプレ、絶対に存在しないよね! ごめんね!
「……えと、その。恥ずかしいのは、まだそう、だけど、手。……繋ぐのは嫌じゃ、ない、から」
何とか伝えたい事を絞り出す事に成功したが、途切れ途切れにも程があるだろう。カタコトの外国人じゃないんだから。違う意味で恥ずかしさを覚えてしまう。
「……そっか!」
嬉しそうに葉山君は笑ってくれた。彼は謎にベルトの先を摘まんだ私の手をスムーズに取ると、ごく自然な形で手を繋いだ。
「行こうか」
「……うん」
今度こそ一緒に歩き出した私達の物理的な距離は、クラスメイト達と出会う前よりも少しだけ近付いたと思う。
手を繋いだまま私達は服を見てみたりゲームセンターに入ってみたり、学生らしいデートの時間を堪能しながら、ちょっとずつお互いの心の距離を縮めていった。
空が暗くなり始めたのを見て飲食店を数件吟味した後、自分からは滅多に入らないラーメン屋で夕飯を済ます。そろそろお開きの時間だ。
「あの、葉山君」
「なに?」
私から出来る限り、歩み寄れる限りは頑張っておきたい。葉山君が私を好きでいてくれるなら、仲良くなりたいと思ってくれているのなら。
「さっきのなんだけど……」
「うん?」
全然スマートに出来ない私でも、勇気が持てない私でも、これぐらいなら出来る筈だから。
1歩もない半歩の歩み寄りかも知れないけど。ちょっとでも近くに行こう。
「お昼ぐらいに、小春さんが、その、名前で呼んでたでしょ?」
「あぁ、あれか」
「そう。……も、もう葉山君も友達だと思うし、その、友達は皆、鏡花かキョウって呼ぶ、から、えっと……」
葉山君がちょっと驚いた顔をしている。気にしてたみたいだから、提案してみたんだけど。
……何でか分からないけど、名前で呼んでいーよって言うだけの事が、物凄く難しいと言うか恥ずかしいと言うか。
あっ……良く考えたら、小学校卒業以降で男子に名前呼ばれるの、初めてじゃない?
「じゃあ、鏡花でも良い?」
おっふ……イケメン男子に名前呼びされるってやべーぜよ。これ小春さんいつも平然としてるけど凄くない? 鋼の精神?
「う、うん大丈夫。」
「なら俺も真で良いよ」
あっ……………そ、そうだよね流れ的にそうなるよね。何も考えて無かったよ。男の子を名前で呼ぶとかいつ以来だろう? 小学生? 幼稚園か??
でも、これも脱陰キャの一環でもある。仲の良い男子を名前で呼ぶ、実に陽なイベントではなかろうか?
これを達成すれば私はもうハイパーモブになれるんでは? ハイパーだからね、ただのモブではないのだ。モブの中でも一步先に進んだ存在なのだ。
うん、はい。早く答えろってね。待たせちゃうからね。ほら、名前呼ぶだけだから。ちょっと呼ぶだけだから。
「ま、真……くん」
「うん、改めてよろしくね鏡花」
うほーーーーーナニコレ恥ずかしーーーーーぎょえーーーーーーー。こ、こんなイケメン様のお口から鏡花なんて単語が出てしまって良いのか?
日本国憲法に違反してない?? 基本的人権に違反してない?? ぜ、税金とか納めた方が良い?? 何税か分かんないけど。
「今日は楽しかったよ。何か久しぶりだよこんなの」
「そ、そう? 私なんか一緒で良かった?」
あ、ヤバい『私なんか』は小春さんに禁止されてたんだ。癖になってるなぁ。
「鏡花が一緒だったから楽しかったんだよ」
「えっ……」
……そっか。……向き合うって決めたからには、私もちゃんとしないと行けない。何て言えば良いか分からないけど、恋愛経験ゼロな私に出来るだけの誠意は見せよう。
いきなりこんな事言われていたら、多分逃げ出していたと思う。でも、小春さんが先に覚悟を決める時間をくれたから。葉山君にも小春さんにも、不誠実な事だけはしたくない。
「えっと、あのね。真君がそう言う風に思ってくれるのは、うん、嬉しい」
「……」
この感想は本当で、心から嬉しいと思った。私と居て楽しいって言ってくれた、初めての男の子だから余計にね。
「それは、全然嫌じゃない。ただ、私も真くんを好きになれるかは、その、まだ分かんないんだよ。ごめんね中途半端で」
「いや、そんな事は……」
私の恋愛経験があまりにも無さ過ぎて、ゼロを突き破ってマイナスにまで突入している。
ここでじゃあ付き合おうとか、言える人なら良かったのかも知れない。でも私はそれが出来る程の経験がない。
「だからね、今私が言えるのは、えっと。……一緒に居て楽しいって思える男の子は、真君が初めてだよって、事、かな」
「……え?」
「そう言う意味では結構、好き、かも。男の子の友達って、意味、では」
それが今の私のホントの気持ち。恋愛的な好きでは、多分ない。キスしたいな~とかそう言う気分になったりはまだしてないし、これから先もならないかも知れない。
ただこの男の子に対しては、嘘をつきたくない。だから周りの目がどうとかを理由にせず、ただの佐々木鏡花個人としての意思ぐらいは、ちゃんと見せておきたかった。
一緒に居たら目立つから嫌なんて、好意への返答としては最悪の部類だと思うから。だからこれだけは伝えたかった。
「ごめん!」
「えっ?」
真君が凄い綺麗なお辞儀で頭を下げる。いきなりどうしたのだろうか?
「ホントなら俺がちゃんと、自分から言わなきゃ行けない事なんだけど、ちょっと理由があって」
「理由?」
それは、自分から告白するという事だろうか? 多分流れ的にはそういうニュアンスだよね。
「そう。あの日からだいぶ良くなったんだけどさ、まだ完全に復活した訳じゃなくて」
「そ、そうなの?」
何かもう、普通の真君に戻ったと思っていたけど違ったらしい。いつも楽しそうだけど、そういうではないのかな?
「そう。今の俺がやりたい事、目指す目標が出来たら、本当の意味で元通りになるから」
「目標?」
「あぁ。サッカーに変わる何かが出来た時、その時はちゃんと俺から言葉にするから、少しだけ時間を貰えないか? 気持ちの整理って言うか、鏡花を依存先にしたくないから」
私の早く独り立ちがしたいとか、そういう何かの話かな? 芯とか核とか、そういう何かって事だよね。
「ぜ、全然良いよ! わ、私だってハッキリした事は、分からないし。……どうしたいかも含めて」
「別に都合良くキープしようとか、そう言うのではないって事だけは、ハッキリさせないと俺も嫌だからさ」
「そんな風には思ってないよ!?」
真君がそんな不誠実な事を、平気でする人だとは思わない。彼の何を知っているんだと言われたら、答えられる程の付き合いはない。
だけど今日までの日々で、とても優しい人だというのは十分伝わっているから。
「うん、でもこれだけは言いたいんだ。…………俺は鏡花しか見てないから」
「っ!?」
あの……多分本人的には、まだこれは告白じゃないつもりなんだよね? ストレート過ぎて殆ど告白みたいになっているけど。
これ、真君の準備が整ったたら何を言われてしまうのだろう? その時、私の心臓は止まらずに済むだろうか?
「だから今はまだ友達として」
「……う、うん。と、友達として」
「「よろしくお願いします」」
こうして私の初めてのデートは無事に終わる事が出来た。だけどもうこれより後の記憶は、正直もう殆ど残ってはいないけどね。