3章 第113話 独占欲と嫉妬心
今日は真君の所でまったりお家デート。11月になってから少し、急に寒くなって来たのでコタツがリビングに登場している。
大家族用なの? 3人家族なのに6人ぐらい入れるサイズなんだけど? と言うツッコミはギリギリ飲み込んだ。
今更だよね、流石大女優の家と言う事でしょう。お鍋とかしたら、土鍋が2つは並べられそうだなとか考えたりして。
長方形で大きいお陰から、コタツでも2人で横並びに入れる。おコタでぬくぬくしつつ、真君の隣で映画のサブスクを堪能中。あ、そうだ今度みかん持って来よう。
「なあ鏡花、その、ちょっと聴きたいんだけどな」
「うん? 何かな?」
「その、俺がモテるとかそう言うの、やっぱ気になるのか?」
「うーん……まあ、それなりには」
もちろんそれは、浮気を疑うと言う意味ではない。ただやっぱり、自分への自信の無さとかそっちの方向で気になる。
色々と小春ちゃん達に教えて貰って、変われたのは間違いない。どう見ても釣り合わないジャガイモでは無くなった。それでも、奪われるかも知れないと言う不安を感じない筈もない。
「やっぱり、可愛い人が多いから」
「鏡花だってそうじゃないか」
「そう言う事じゃねくてね? 例えば、私じゃ小春ちゃんには勝てないでしょ?」
「小春かぁ? 全然鏡花の勝ちだけどな」
あ、駄目だコレ。例えが悪過ぎたかも知れない。幼馴染補正で、そもそも異性としての扱いが違い過ぎる。距離が近過ぎてそう言う感覚が無いんだよ。もうちょっと、何か分かり易い例えは無いかなぁ?
「あ〜えっと、真君よりカッコイイ人が、私の傍に居たら嫌じゃない?」
「……なるほど、そう言う意味か。嫌だな確かに」
良かった、ちゃんと伝わった。ここを分かって貰わないと話が通じない。正直な話、私の中では未だに竹原さんへの嫉妬心は残っている。
頼れる大人のお姉さんだけど、幼い憧れとは言え真君の初恋の人であるのは変わり無い。そう言うちょっとだけ、ちょっとだけチクッとした痛みを感じる部分はやっぱりある。そもそも竹原さんが、そう言う対象として見ていない事も知っている。
もちろん真君を信じていないわけじゃ無い。これだけ真っ直ぐ好意をぶつけて来る人が、今更浮気をするとは思わない。思わないけど、絶対じゃない。
他の誰かに気持ちが移る可能性はある。別れ話とか、世間には一杯あるんだから。うちの両親みたいなパターンだってある。
「不安と言えば不安だよ。他の誰かに取られちゃうかもって」
「そんな事ないって」
「分かってるけどね、絶対は無いから」
「それは……そうかもだけど」
ここで絶対だ、なんて言わないのが真君の誠実な所だと思う。絶対なんて、断言しちゃう方が逆に胡散臭い。それに私だっていつか、真君以外を好きになる可能性はある。
そんなつもりは無いし、ずっと真君と一緒が良い。でも、恋は熱病みたいなモノだって言う。熱病に浮かれて居ただけで、ふと冷静になったら全然好きなんかじゃない。
一時の気の迷いだったんだ、そんな悲しい終わりもある。私達はまだ、先の長い長い恋物語が滑り出しただけに過ぎない。未来なんて、どうなるかは分からない。
「でもやっぱり、俺は鏡花を選び続けたいし、選び続けて貰いたい」
「それは私もそうだよ」
「その、ごめん。俺はこう言う時、どうするのが正しいのか分からない」
私だってそうだよ。こんな時に、彼女として正しい行為が分からない。何と言えば良いのだろうか?
人間の心なんて、数学の数式みたいに一つの答えしか無い訳じゃない。色んな答えがあって、正解は人それぞれで。
後になってから、あの時こうして居れば良かったって後悔する。未来を知れたり、過去をやり直したり出来たら良いのに。
そんな事は、きっと誰もが思う事だと思う。誰か、私と真君の未来を教えてくれない? 正解を選び続けるルートを教えて欲しい。
「だけど、後悔だけはしない様にしよう」
「あっ……」
「こうするの、好きなんだよな」
一緒にお風呂に入ると必ずやる、後ろから抱きしめる座り方。私はこれが凄く安心する。ちゃんと真君が居る、そう実感出来る座り方。
真君のいい匂いがして、心が落ち着いて行く。最初はドキドキして居たけど、今では精神安定剤の様な効力がある。私の帰る場所はここなんだって、そう心から思える。
「うん、そうだね。後悔だけはしたくないな」
「そう言えば、ちゃんと好きって口にするのが良いとか、結構昔に聞いたな」
「そうなんだ?」
そう言うテクニックみたいな部分は、本当に分からない。いつも小春ちゃん達に聞いてばかりだ。
ネットで調べようかとも思ったけど、デタラメも多いからオススメしないって小春ちゃんが言っていた。
何を信じたら良いのか、何を参考にしたら良いのか分からない。難しいなぁ、恋愛ってこんなにも思い悩むものなんだね。
「俺は鏡花が好きだよ」
「私も、その、真君が好き」
やっぱりちゃんと好きって言うのは恥ずかしい。未だに照れてしまう自分が情けない。それとは比べ物にならない行為を、もう何度も重ねたけど全然慣れる気配はない。だけど、こうしてちゃんと言い合うのは確かに良いかも。
「お年寄りになっても、こうだったら良いね」
「ああ、そうなれたら幸せだよ」
分からない事だらけだけど、それが私の嘘偽りない本音。孫に囲まれる私達になれる様に、真君の一番であり続けたいな。