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3章 第111話 絡まったり縺れたり

「えぇ? そんな事で葉山(はやま)君と喧嘩したの?」


「だって……変でしょ? 目玉焼きにソースなんて。普通はお醤油だよ」


 ちょっとしたすれ違いから、今朝の朝食で喧嘩してしまった(まこと)鏡花(きょうか)。その内容は、もう使い古されたド定番が如き内容。目玉焼きにソースか醤油か。からあげにレモンをかけるかかけないか。

 どこかで聞いたかの様な些細な問題でも、恋愛ではそれが喧嘩の原因になったりする。エアコンの温度が高いとか低いとか、傍から見たら物凄く小さな問題でも本人達にとっては重要だったりする。


 そしてそんな喧嘩の愚痴を聞かされるのは、いつだって仲の良い友人達。鏡花は佳奈(かな)に、真は小春(こはる)に当然ながら相談する。

 聞かされる側からすれば、そんなの話し合えば済むだろうと思う内容でしかない。けれども、それで解決しないのが恋する少年少女達。


「アンタねぇ、そこは意地張る所じゃないでしょうが」


「だって、変な人扱いだぞ? 流石にそれは嫌だろ」


「小学生じゃないんだからさぁ〜」


 鏡花も真も、お互いが始めての恋人故に上手な立ち回りなんて出来ない。ほんの僅かな認識の違いで、プチ喧嘩に発展する事がたまにある。

 どうしても意見がぶつかって、お互い譲れない点があると揉めてしまう。どちらかが早めに折れると言う、大人なら出来る選択が出来ない。

 最も、それは大人でも難しい事でもある。小さな事で夫婦喧嘩になるパターンも複数存在する。恋愛経験が豊富であろうと、出来ない人は少なくない。

 その積み重ねで、離婚にまで行く悲しい結末も実例が溢れ返っている。だから真や鏡花に出来ないとしても、それは仕方がない事だ。


「大体なんで今更になって目玉焼きなの? 鏡花ちゃん散々お弁当作ってるのに」


「それは…………簡単過ぎるから作って無かったの」


「そこで見栄を張っちゃうんだね」


 玉子焼きならばともかく、目玉焼きは卵を割るだけで誰にでも作れる。特に玉子焼きに関しては、様々なアレンジが可能だ。甘くしたり塩辛くしたり、出汁巻風にしたり野菜を入れたり。

 卵料理としては定番ながらも、奥深さが目玉焼きとは比較にならない。もちろん、目玉焼きとて拘ろうとすれば不可能ではない。

 卵そのものに拘って、黄身で卵かけご飯にするなどやり方はある。半熟にしたり固焼きにしたり、片面焼きと両面焼きの違いもある。ただ、調理方法が単純故に鏡花としてはあまり作りたくは無かった。


 なまじ料理が得意な鏡花だからこそ、目玉焼きを振る舞うのは極力避けたい事情があった。自炊のラインが人それぞれな様に、料理が得意な鏡花から見ればカップラーメンを出すに等しい。

 1人の女性として、唯一自信を持つ料理だからこそ頑張りたい。鏡花が自信を持って張る事が出来るただ一つの見栄だった。

 それ故に発生してしまったすれ違い。たまたま今朝は寝坊してしまった鏡花が、急いで用意出来た朝食がそれだった。


「てか、今朝ってアンタ。またキョウ泊めてたのね」


「それはまあ、そうなんだが」


「はぁ〜もう馬鹿らし。ただの痴話喧嘩じゃない」


「あっ! おい小春!!」


 今日は平日で昨日も平日。それにも関わらず、鏡花が今朝の朝食を真の家で作った。その理由は明らかで、一つしかない。

 小春の言う様に、実際ただの痴話喧嘩に過ぎない。そんな事にいちいち付き合ってられるかと、小春は早々に切り上げて友香(ともか)水樹(みずき)の席へと向かってしまった。一人残された真の虚しい呼び声だけがその場に残った。


「そんな事で喧嘩しちゃダメだよ?」


「分かってるけど……」


「お昼には謝りなよ、鏡花ちゃん?」


「……うん」


 好きな人だからこそ、意見が対立する時もある。どうでも良い相手なら、適当に頭を下げてしまえば良い。自分の意見を理解して貰う必要なんて無いのだから。

 心の中では全然納得していなくても、形だけの謝罪をすれば良い。それでそのどうでも良い相手との諍いは、そこで簡単に終了する。

 だがいつも一緒に居る人となれば違う。親友に家族、恋人と言った立場ならばお互いに納得する必要がある。

 どちらか片方が我慢し続ける関係では、いずれ破綻してしまう。しっかりとした話し合いが大切だ。それこそエアコンの設定温度や、湯船やシャワーの温度と言った些細な事まで。


 そう言った喧嘩は一切無いです。似たもの同士だから、全然気になった事は無いです。そんな風に発信している夫婦やカップルが居る。

 確かに存在はするけれど、そんなのは極々一部の少数派。大抵はどこかしらで意見がぶつかる。服の畳み方が違う、バスタオルの置き方が嫌。

 そんな喧嘩は世界中で起きている。それこそ今この瞬間も。恋愛する、恋人が出来る、結婚する。それらは全て尊くて、幸せで楽しいけれど全てがそうではない。乗り越えないといけない問題は、ほぼ必ずと言って良いほど発生する。


「葉山君が嫌いになった?」


「そんな事ないよ!? そうじゃなくて」


「じゃあさ、大丈夫じゃないかな」


 こうして喧嘩をする事があっても、互いを尊重する意志が有れば問題ない。ただ真っ直ぐに、ごめんなさいを言えば良い。

 言い過ぎた、やり過ぎた、感情的になってしまった。それを認めるのは、結構難しいのは間違いない。

 でもそれを、真と鏡花は出来るから。お互い初めての恋人と過ごす、1年目の冬がすぐそこまで来ている。

 冬休みにクリスマス、年末にお正月。そして、遂に東京から帰って来る真の両親。これから2人を待つイベントは、まだまだ沢山待ち受けている。

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