1章 第10話 陰キャ♀に優しいギャル
連投しているのでご注意下さい。
葉山君との初デート中、クラスの陽キャグループと遭遇した。私の様なモブ女なんかと一緒に居たのを見られてしまったと、気落ちしていたら突然現れた神田さんに連れ出された。
今は皆と、ちょっと離れたビルの陰に2人で移動している。
「ごめんね~急に」
「い、いえ」
終わった。アンタみたいなクソド陰キャモブ女が、葉山君と一緒なんて調子に乗んなよ的な事を言われるのだろうか。これがケジメとか、ヤキ入れとかそう言うヤツなんだ。
神田さんがそういう事をするイメージは、特にこれと言ってないけれど。そんなイジメみたいな事をする様な人かなぁ?
ちょっとそういう風には見えないかも。どっちかと言えば、卑怯な事とか嫌っていそうなイメージがあるけど。
「佐々木さんって~友達にはなんて呼ばれてんの?」
「えっ? その、鏡花とか、キョウとか」
「お~じゃあアタシもキョウって呼ぶね」
距離の詰め方がエグい! めちゃくちゃ爆速で近付いて来る! これが陽キャの距離感!!
何をされるの!? この後私はどうなるの!? 妙にフレンドリーなのが余計に怖い!! も、もしかして、闇バイトとか、やらされる!?
そんな風に身構えていると、神田さんが笑い出した。
「アハハハハ! そんな緊張しないで良いって~。あ、アタシは小春でいいからね」
「えと、あの……」
あれ? 何か普通にフレンドリー? 怒らる感じでは無さそうな空気感だ。あくまで私の判断だけど。
「アタシはキョウに感謝してんだ~」
「………………えっ?」
きゅ急に何だろう? 私なんか、お礼言われる事したかな? ……うーん……えと…………………全然思い当たる事がないんだけど!?
「マコの事。立ち直らせたのキョウなんでしょ? マコに聞いたよ」
「えぁっ!? その、あの」
立ち直らせたというか、そんな大層な事は何もしていない。ただお話を聞いてあげて、自分なりに思う事を伝えただけだ。
何故か葉山君はあれから感謝してくれているし、こうしてデートにまで誘ってくれた。それだけでも謎が多いのに、神田さんにまで感謝されるのはもっと分からない。
「アイツ不器用で面倒で馬鹿だからさ」
「そう、なんですか?」
滅茶苦茶ストレートに罵倒しますね!? そこまで言わなくても良い様な……。
「そうだよ。だからアタシでは助けてやれなかった」
「……そんな事は」
「そんな事あるんだって。実際ダメだったから」
そう言う神田さんは、何だか悲しそうに見えた。いつも明るい神田さんも、こんな雰囲気を見せる事があるんだ。
「私は、あれは、たまたまで……」
私なんかに出来た事が、神田さんに出来ないなんて有り得ない。あんなのはたまたま偶然で、二度も出来る事じゃないよ。
どうやら葉山君はそれから好意的に見てくれているけど、その内きっと気付く筈だ。こんなモブ女なんて、つまらないって。
「違うよ。あれはキョウだから出来たんだ」
「……そうでしょうか?」
「そうなんだって! アイツはそんな偶然とかで、どうにかなるほど簡単じゃないんよ。面倒臭いよ~アイツ」
面倒くさい? 葉山君が? 全然これまでの印象から、思い浮かぶイメージを合わない。むしろ爽やかな男子だなぁと感じている。
「面倒、なんですか?」
私はまだそれほど葉山君と一緒に居たわけじゃないから、全然分からないけど。付き合いの長い幼馴染と言う関係性がないと、分からない何かがあるのかも知れない。
「そそ。って今はそれはどうでも良くてさ」
「はい?」
遂に本題が始まる? 何を私は言われてしまうのだろうか? 全然想像が出来なくて、困惑してしまう。悪い想像なら幾らでも出来るのだけど。
「キョウ、気にしてるんでしょ? 自分なんかがって」
「うっっっ」
だってそうじゃないか。私みたいな冴えないモブと、あんなにカッコイイ男の子じゃあ差が有り過ぎる。隣に居て良い存在じゃない。
でも親交を深めようとしている葉山君を、拒否するのも失礼だし。どうするのが正解か分からなくて、悩んでいる内に浮かれてこうなってしまった。
やっぱり私なんかが、葉山君と一緒に居るのは間違いなんだ。どう見ても、同じ世界に住む存在じゃないよ。
「だろうと思った。ちょっとマコにも聞いてたからね」
「だ、だって……」
誰だって私の立場だったら、きっと考える筈だよ。私なんて、葉山君の足下にも及ばない存在でしかないと。
「まあそうよね~マコはモテるからね~。狙ってる女子も多いし」
「ひぇっ」
知ってはいるけど、改めて言われると怖い話だ。廊下ですれ違う時に、舌打ちされたり睨まれたり、これからするんだろうか。……今のところはそう言った何かしらを、受けた事はないけれど。
「でも周りが何と言おうが、マコが選んだ女の子はキョウなんだよ」
「………………えっと、う、うっそ~とか?」
「今嘘つく意味ある?」
そ、それはそうですけど。じゃ、じゃあじゃあ。
「ドッキリ大成功~とか?」
「アタシ1人でドッキリする意味なくない?」
うーん……それも確かにそうですよねぇ。だったら、だったらですよ?
「ら、Loveじゃなくて、Likeですよね?」
「Likeじゃなくて、Loveなんだって」
今ここで神田さんが嘘や適当な事を、言う必要性なんて無い。幼馴染である彼女が、真面目にこう言っている以上は本当なのだろう。
「…………やっぱり、そうなんですか。でもなんで私なんかを」
「そんな自信無さげにしなくても良くな~い? 恋愛なんて選ばれたヤツが勝者なんよ?」
何とも強者らしい発言が飛び出した。私にはとても出来ない考え方だ。神田さんみたいに、超絶美人で明るくて可愛い人が言うと、凄い説得力がある。
でも私みたいな陰キャモブが、そんな事を言ったら大炎上してしまう。身の程を弁えろと、批判が殺到するに決まっている。
「……恋愛経験ないので」
「まあ、キョウは恋愛経験無さそうだもんね」
何をされてるんだろうコレ? 公開処刑の一種か何かですか? 恋愛弱者への折檻なんですか??
「……よし! じゃあこうしよう! アタシ公認だ!」
「か、かんださ………………こ、小春さん、公認、ですか?」
神田さんと呼ぼうとしたら睨まれたので、陰キャモブ最後の抵抗として小春さん呼びである。……いやまあ、何の抵抗なのかも分からないけど。
「そう! マコ本人が選んで、幼馴染のアタシが公認。これで文句言う資格あるヤツ居る?」
「それは……」
権利的な話で言えば、確かにその通りではある。だって葉山君が決める事で、外野が決める事じゃない。確かにそうなんだけど……。
「ま、親ぐらいよね。これで文句言えるの。他人には口出す資格なし!」
「……」
それはそうだ。この状況で、認めないと言える権利があるのは両親だ。うちの息子をこんな陰キャにはやらん! と言われたら終わりだね。
でも葉山君を見ていると、きっとご両親も良い人なのだろうなとも思う。そんな事を言う様な親の元で育った人が、あんな良い人に育つとは思えない。
「だからさ、キョウは堂々とマコと一緒に居れば良い」
「えっ」
居ても良い? 私なんかが、葉山君と? 堂々とっていうのは、ちょっと分からないけど。
「それにさ~アイツ、本当はお昼休みとかもさ、キョウと一緒に居たいんだよ」
それは……考えた事が無かった。…………いや違う、考えない様にしていたんだ。私なんかと一緒に居たら迷惑だろうって、それを理由に遠ざけたから。
だからその事からは、目を逸らしたんだ。葉山君の意志はどうなのかを無視していたんだ。自分の立場を理由に、彼の意思を捻じ曲げた。
あれだって良く考えたら、何様のつもりだって話じゃないか。何故私なんかが、葉山君の行動を制限する様な言動を取ったのか。そんな権利が私にあるの?
「だからさ、関係ない連中は放っておいてさ、自由にしなよ」
「……良いん、でしょうか? 私なんかが」
自由にしろって言われても、どうするのが良いのか良く分からない。居ても良いっていう事までは、一応分かったけれど。
「良いんだって! あとこれから『私なんか』は禁止ね! アタシ公認忘れんな~?」
「うっ……ハイ」
だって、だって…………私は私に自身を持つ事が出来ない。だけどそんな言い方をされてしまうと、困ってしまうよね。
私が私なんてというたびに、かん……小春さんを無視する事になってしまう。そんな大それた事を、私に出来る筈も無い。
「キョウはさ~マコの事好き?」
「………………分かんない、です」
好きかどうかは、正直良く分かっていない。そもそも好きってどういう感情? さっき観た映画だけでは、まだ理解まで及んでいない。
恋愛ビギナー過ぎて、先ず好きになるという事自体がいまいちピンと来ていない。
「じゃあさ、一緒に居るのつまんない?」
「それは…………楽しい、です」
そうなのだ。彼と一緒に居る時間を私は楽しいと感じている。イケメンで陽キャな真君と、平凡で地味でモブな私。
正反対な私達なのに、何故か同じ時間を共有出来ている。何気ない日常を楽しめている。
今の私がギリギリまで校舎に残っている理由が、家に居たくないからなのか、それとも2人の時間を求めているからなのか、もう分からなくなって来ている。
「ハイ決まり~! じゃあ一緒に居れば良いっしょ!」
「いや、でも私な……」
あっ……また癖として言い掛けた言葉。今さっき禁止だと言われた言い方。
「禁止って言ったっしょ? 良いんだよ。一緒に居て」
「……はい」
前半は厳しい視線が伴ったけど、後半はとても優しい言い方で伝えてくれた。
「あとさ、出来ればキョウがマコの事を好きになってくれたら、アタシは嬉しいかな」
「……どうして、そこまで」
この人は本当にどうして、ここまでしてくれるのだろうか。最近まで殆ど話した事が無かったのに。挨拶すら交わした事があったか分からない。
「ん~まあ理由は色々あるけど……キョウってめっちゃ普通じゃん?」
「ゔっっっ、そう、ですね」
ハイ、それはもう自分でも痛い程に理解しておりますとも。平凡オブ平凡な陰キャでございますとも。モブAにすらなれないモブBな私です。
あれ? あんな奴クラスに居たっけ? とか思われるのが相応しいタイプの人間ですよ。集合写真じゃあモブ過ぎて、居たかどうかも分からない人。
「そんな女の子が一番アイツに合うんだなって、最近2人を見てて思った。」
実はマコには内緒なんだけど、放課後の2人の事隠れて見守ってたんだ~と笑う小春さん。
「……そんな風に見え、ます?」
「めっちゃ見えたよアタシには。…………ほら、芸能人って皆が芸能人同士で結婚しないじゃん?」
「? まあ、そうですね」
それはそうだけど。だからって、私と葉山君の話とはまた違う様な気がするんだけどなぁ。
「スポーツ選手が女子アナと結婚とかもあるけどさ、それもやっぱり全員じゃない」
「そうですけど、それとこれとは」
「うん、同じじゃないだろうね。でもさ、めっちゃ凄い人が、案外普通の人と結ばれたりする」
恋愛弱者の私にはちょっと難しいけれど、言いたい事は何となく分かった。
「誰が誰を選ぶか、なんてのは本人が決める事で、他人が決める事じゃない。お似合いかどうかなんて他人にゃ関係ないの。週刊誌かよ! ってね」
「……うん」
「だからさ、長くなっちゃったけど、キョウは気にせず自由にすれば良いんだよ」
学校で一番人気のギャル系女子高生。陽キャグループのトップ。それぐらいしか知らなかったけれど、かんださ……小春さんって今見せてくれている物凄く優しくて、周りの事も見ていてしっかりした考えを持っている。この姿こそが、彼女の本質なんじゃないかと思った。
ここまで言って貰っておいて目立つのが嫌とか葉山君に迷惑が、とかもう言うつもりはない。
だってそれは、葉山君が向けてくれた好意を無下にするから。これで逃げる方がよっぽど迷惑だ。こうして話してくれている小春さんにも失礼だし。
葉山君とちゃんと向き合って、その気持ちへの誠意を見せないといけない。ただのド陰キャモブ女Bだけれど、それは不誠実である事の免罪符にはならない。
「まだ全然慣れないけれど、頑張ってみよう、かな」
少なくとも一度は、葉山君の気持ちを蔑ろにしてしまったんだ。そんな事をいつまでも続けていたらダメだよね。
「良いじゃ~ん! その調子でよろ~!」
「う、うん」
今すぐ私が堂々と、葉山君と接する事は難しい。どうしても、今まで持っていた意識がリセットされる訳じゃ無い。
私の頭や心は、ゲームみたいにボタン1つで切り替える事なんて出来ないから。だけど、こうして応援してくれる人が居る。
カナちゃんや麻衣も、頑張れって言ってくれている。私がこんな優しい人達の、好意を足蹴にして良い筈がない。
「そんじゃアタシらも友達って事で! グルチャやってる~? 交換しよ~」
「え!? は、はい」
何だか勢いに流された感も否めないが、チャットアプリのIDを教え合った。ほんの数日で学校で人気のイケメンと、学校一の美人と連絡先を交換する事になった。ちょっと前までの私が聞いたら、何を馬鹿なと笑っていた様な状況だ。
でも、陰キャ気質を改善し、脱陰キャを目指す私にとって、これは新たな一歩になると思う。葉山君が言っていた様に、小春さんの友人や葉山君の友人とも普通に会話出来る私になれる様に、これから頑張ってみよう。
「じゃあキョウ、アタシの幼馴染をよろしくって事で!」
「……はい!」
どこかで本文に入れるかも知れませんが、小春が真をマコと呼ぶのは、小さい頃の名残と弟みたいに見ているからです。
その大事な弟分マコの相手になるかもしれない相手だからキョウ呼びをします。
義妹みたいに見てる故の扱いですね。