3章 第107話 日焼けの影響を舐めてはいけない
真と鏡花達が密かに屋上を昼食の会場にし始めてから、持ち込まれた数々の品々がある。その内の一つがビーチパラソルとそのスタンドだ。
流石に春ごろは丁度良い場所だったが、暑くなり始めてからはそうは行かない。ギラギラと照りつける太陽光を防ぐ為に、4セット設置してある。これなら大所帯でも問題なく日陰で過ごせる。
ここを使うと言い出したのは自分だからと、小春が代表して用意したのだ。ちなみに隠れて喫煙している阿坂燈子も、小春を真似て自分専用の日傘を持ち込んでいた。
そんな外にしては幾らか快適な環境下で、男女9人の生徒達が何を話しているかと言うと。
「え!? この日焼け止めヤバいやん!」
「でしょ〜アタシが見付けて参りました」
「伸びが良いわね」
女3人寄れば姦しいとは言うが今まさに小春と友香、そして水樹の美少女3人組が盛り上がっていた。そしてここに居る女子は3人だけではない。
「え、すご! 見てよ鏡花ちゃん!」
「ほんとだ! サラサラだね」
「私も見せて〜」
当然ながら鏡花に佳奈、そして麻衣達モブ3人組も反応する。3人どころか倍の6人も女子が居る空間で、彼女達がワイワイと盛り上がる。
もはや姦しいどころでは無い騒ぎに発展している。一方、その半分しか居ない男子陣はと言うと。
「なあ真、アレ何が凄いんだ?」
「さあ〜? 俺にはさっぱり」
「君達はもうちょっと興味持ちなよ」
体育会系仲良しトリオ、真と翔太と恭二は若干蚊帳の外気味だ。女子の話題になると、大体はこうなるパターンが多い。
しかし、必ずしもそうとは限らない男が1人だけ居る。こう言った話題でも、女子について行ける唯一の存在。
「日焼け止めは僕らも使った方が良いよ」
「は? 翔太お前、使ってるのか?」
中学時代からの付き合いである翔太の発言に、そんな事は知りもしなかった真は驚愕していた。
当然ながら真は日焼け止めなんて使っていない。この時期は、ガッツリ日に焼けた体を晒すのが普通の生活をして来た。
それが普通だと真は考えて居たし、周囲のチームメイト達もそうだった。日焼け止めは女子が使う代物。それが真にとっての、当たり前で常識だった。だからこそ、付き合いの長い真には尚更衝撃的であった。
「何か変わるのか?」
「全然違うよ。当然でしょ?」
「お前、何時からそんな事してたんだよ?」
「去年からだよ」
いまいちピンと来て居ない恭二と、驚きが隠せない真の質問を翔太は次々と捌いて行く。
ギリギリ170cmに届かない彼だからこそ、他の様々な要素で男を磨いて来た。ワイルドと言う名のガサツな男と、サッカーバカな男達とは一味違う。
「大体、男性用化粧品が世に出て何年経つと思ってるの?」
「さあ? 真は知ってるか?」
「聞いた事はあるな。良く知らないが」
「はぁ。君らはさぁ〜」
ファッションになら気を遣っても、男性向けメイクとなると理解者は少ない。一切そんな事に気を遣って来なかった2人と、ちゃんと勉強していた翔太には明確な違いが存在していた。
「言われてみたら、白いな」
「当たり前でしょ、気を付けてるんだから」
「え、じゃあそれ、メイクしてるのか?」
「そうだよ」
基本体育館で練習をするバレー部でも、走り込みの様な基礎トレーニングは屋外だ。恭二の肌には所々に日焼け跡がある。
真は部活をしなくなったので、昔ほどガッツリ日焼けはしていない。そして本来屋外で活動する筈の翔太が、3人の中で一番肌が白いのが現状だ。
最も日焼け跡が少ない翔太の体は綺麗なもので、顔にもしっかりUVカットのクリームが使用されている。
「あんたら、考えが古いんとちゃうか?」
「そうよ。モテる男はちゃんとしてるんだぞ〜」
「ま、マジか……」
一軍女子達の証言により、自分の考え方が古かった事を知った真は衝撃で固まっていた。体格に顔立ち、モテに必要な要素をなまじ最初から持ち合わせていただけに、そんな影の努力を知る機会が無かった。
モテる為の努力と言うのは、常に最新の情報を仕入れるのが何よりも大事だ。リサーチと研究を怠った者から、順番に脱落して行く。
世間にはただしイケメンに限ると言う言葉があるが、実際にはそんな簡単な話ではない。イケメンとて、間違えば非モテへと簡単に転落してしまう。
そんな厳しい競争を生き抜いた者こそが、本当にモテる男になれる。真と恭二は、持ち前のビジュアルに溺れなかったからこそ、こうしてやって来れただけだ。もし彼らに慢心や奢りが存在していれば、今の立ち位置には居られなかっただろう。
「なあ麻衣、俺もした方が良いのか?」
「ん〜? 別に要らないかなぁ〜」
「きょ、鏡花! 俺はどうだ!?」
「私も気にはならないかなぁ。あ、でも日焼け止めは使う方が良いよ?」
それから暫く、日焼けによる皮膚ガンの危険性など、様々な知識を教えられたのうきn……体育会系の2人。
それぞれお互いの彼女に、塗り方を教えて貰う事となった。更にその上、小春と言う厳しい教官による指導も入るのだった。
「今時の学生はこうなのか」
紫煙を燻らせた養護教諭の呟きが、風と共に秋空へと消えて行くのだった。
中学生の従妹がいるんですけど、もうメイクしてるんですよね。小学生でもするらしいですね。今の子って本当にこう、色々と違う。