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3章 第100話 君を知れたあの日から

 あれから色々考えたけど、結局自分に出来る事はそう多くないと分かった。やっぱりまだ未成年だから、金銭的な自由はそんなに無い。

 記念日だからと言っても、毎回特別な何かを用意するセンスも無い。悩みに悩んだ末に、俺に出来る数少ない選択肢を選んだ。


「あれ? (まこと)君ここって」


「そうだな、あの日友達から始めようって宣言した場所だ」


「何だか凄い昔みたいに感じちゃうけど、たった数ヶ月前なんだよね」


 俺達2人の思い出が、詰まっている場所を周っている。まだ付き合う前に行なった、初めてのデート。あの日行った場所、通った道を遡る様に歩んで行く。


「全然外食しないって言うから、オススメの店に連れて行ったんだよな」


「そうだったね。初めて入ったよ、あのラーメン屋」


「ちょうど良いし、昼飯がてら久しぶりに行くか」


 たまには行っていたけど、最近は駅前以外にも繰り出すから来れて居なかった。男連中だけでなら来る事もあったが、鏡花(きょうか)を連れて入るのは2ヶ月振りか。

 魚介豚骨の家系ラーメンが売りの、良くある普通のラーメン屋だ。この辺りのラーメンでは一番美味しいと思っている。


 あんまり外食をしない鏡花に、色々なオススメの店を教えるのは楽しかった。牛丼チェーン店なんて、入った事が無いと知った時は驚いたものだ。

 昼食を済ませたら、再び初デートの思い出を辿って行く。小春達と遭遇したビルの近くには、随分と久しぶりに来たな。

 あの頃の俺は、全然鏡花の事が理解出来て無かった。小春(こはる)のフォローのお陰で、仲良くなる機会を得られたんだ。


「頑張った結果がベルトの先だったんだよな」


「そ、その話はもう忘れようよ!」


「忘れないよ。鏡花なりに歩み寄ってくれた思い出なんだから」


「も、もう!!」


 ちょっとだけ怒りつつも、許容してくれた時のこんな表情も今では当たり前に見られる様になった。あの頃にはそんな関係になれるなんて、思っても居なかった。

 なりたいとは思っていたけど、好きになってくれるかは分からなかった。何とか好意を持って貰いたくて、まあ色々とやったもんだ。

 今考えたら馬鹿みたいな事もやっていたよな。出来る男っぽい喋り方をしようとか、小学生みたいな真似をしたり。何であれが行けると思ったのか、今となっては謎である。


「そう言えばあの時観た映画、続編やるらしいぞ」


「そうなんだ? じゃあまた観に行こうよ」


 流行りとか女性人気とか、調べて周って柄にもなく恋愛映画に誘ってみたんだったな。最近も何度かこの映画館に来たけど、初デートの時とは状況も心情も全然違う。

 薄暗い中で気になる女の子がすぐ隣に居る、その距離感をどうしても意識させられてしまった。必死に覚えていたシーンの話をして、さも動じていませんでした風を装ってみせた。

 あれも今考えたら、結構な綱渡りだった。何しろ内容は半分ぐらいしか覚えて居なかったから。続編を観る前にサブスク配信が始まれば良いんだが、駄目ならレンタルしてでも観直さないと。


「私の家の方まで行くの? 別に構わないけど」


「ちょっと行きたい所があるんだ」


「そうなんだ?」


 今度は鏡花の地元へと向かう。やっぱりあれから半年経つと言うからには、改めてお礼を言いたい。

 俺がやりたいだけの事であっても、感謝しているのは偽りじゃない。結局格好良くスマートになんて、そう簡単に上手く行く事は無かった。そうしたい気持ちはあるけど、まだまだ俺には課題だらけだな。


「ここって」


「そうだよ。あの日、鏡花と会った場所」


「懐かしいね」


 何もかもを諦めようとしていた時、全然接点がないクラスメイトに弱音を吐いて見せた。情けない男だと嗤ってくれて良かったのに、実際には温かい言葉を掛けてくれた。あの日、間違いなく俺を救ってくれたのは、今も隣に居るごく普通の女の子。


「改めてお礼が言いたくて。ありがとうな、鏡花が居てくれて良かった」


「い、いや、あの時は何か色々言っちゃてごめんね」


「謝る事なんてないさ。助かったのは間違いない」


 助かったのと同時に、こんなに可愛い子がすぐ近くに居た事を知れた。話してみれば意外と明るい面もあって、でも自分に自信が無くて。

 そのわりには前向きに考える勇気もあった。いざ頑張り始めると彼女なりの輝きが確かに存在していたから、どんどん興味が湧いて行った。


 たまに良く分からない積極性を発揮する、破天荒な所が面白い子だと思った。告白した時にも思った事だが、本当にいつから好きだったのか分からない。

 気が付いたらちょっと付き合ってみたいなんて、軽い興味程度では無くなっていた。気付けばこの子と、鏡花とずっと一緒に居たいと思う様になっていた。


「何だろうな、鏡花を好きになれて良かったよ」


「そ、そんな大層な人間じゃないけど」


「大層な女の子だよ、俺にとってはね。それとコレ」


「えっ? えっとこれは何?」


「開けてみてくれ」


 それは今の俺に出来る、多分一番じゃないかと言うお礼の気持ち。そしてこれからも宜しくな、そんな意味を込めたプレゼント。恋愛初心者なりに考えて、きっと喜ぶだろうなって思えた物。


「可愛い!! パピヨンのマグカップだ!!」


「サクラちゃんっぽいのを探して来たんだ」


「ありがとう!! でもどうして?」


「あの時から半年の節目だから、改めてお礼としてな。それとまあ、お揃いって言うか」


「え?」


 そう、これからも一緒に居る言う意味も込めて、ペアのマグカップとして。厳密にはペア商品じゃないんだけど、同じデザインでパピヨンの毛色が違うカップが俺の分。


「俺の分は黒い毛のパピヨンにしたんだ」


「な、なるほど! でも良く見付けたね?」


「犬関連の商品をネットで探しまくったさ」


 半日ネット通販を探して回って、やっと見付けられた。種類こそ色々あって豊富だったけど、サクラちゃんっぽい商品が簡単には見付からず。

 あちこち探し回って、漸く個人製作っぽいサイトに辿り着いた。それなりの出費にはなったが、その価値はあった。


「まあその、同じ家に居なくても一緒って言うかさ」


「良いね。ありがとう!」


 喜ぶ鏡花が見られたのだから、多少の苦労ぐらい安いものだ。決して華やかなイベントじゃ無かったかも知れないが、俺達はこれで良いんだよな。だって鏡花が、こんなにも笑ってくれているんだから。

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