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3章 第99話 記念日の重要性

 9月もそろそろ終わりになる頃、(まこと)は元相棒の霧島卓也(きりしまたくや)を呼び出して相談をしていた。部活終わりの時間帯とは言え、まだまだ気温は夏と変わらない。日陰になっている中庭のベンチに座り、彼女持ちとしての先輩にレクチャーを求めた。


「で、話ってなんだよ」


「やっぱさ、記念日って大事だよな?」


「あぁ、そう言う話か」


 付き合い始めて間もないカップルが陥りがちな、付き合って何ヶ月目と言う記念日問題。祝うのを忘れた事が切っ掛けで、喧嘩になって破局も珍しくない。

 しかしだからと言って、毎月祝うのが中々大変なのは事実。1ヶ月毎に、毎回違う何かを用意するのは難しい。


「佐々木さんはどうなんだ? 気にしてるのか?」


「どう、だろうな。一応当日は通話したり、デートしたりはしたんだが」


「口に出さなくても、気にしてるタイプも居るしなぁ」


 恋人を作った事が無かった真にとっては、非常に難しい問題だった。実際、人による所ではあるものの、一般的には記念日を祝うカップルや夫婦は多い。

 しかし、都度祝うのは面倒臭いと考える女性も居るのが実情だ。そんな事をただの高校生に理解しろと言うのは厳しい。

 けれども、それを求められるのが恋愛の難しい所。最初から正解を選び続けるのは、中々出来る事ではない。

 どれだけ考えても、失敗する事だって多々ある。だからこそ恋愛相談と言うのは、常にどこかでされている。


「喜んではくれてるから、多分やる方が良いとは思うんだけどな」


「まあ〜難しい所だな。忘れたからって怒りそうには見えないが」


「そうなんだよ。短気な子ではないからな」


「いっそ聞いてみたらどうだ?」


 最も最適な手段は、本人に確認だろう。お互いに確認して決めるカップルだっている。彼の提案は、実に合理的であるのだが。真にとっては、少々気が引けるやり方なのが問題をややこしくしていた。


「それって何か、スマートじゃないよな?」


「お前な……そこ気にする程の経験値ないだろ」


「だって、そう言うのは察するのが出来る男なんだろ? 小春(こはる)が言ってたし」


 なまじ色々と教えてくれる存在が、すぐ近くに居たから。こうして真の恋愛に、余計な見栄を張らせてしまっていた。

 もちろん小春本人が聞けば、無駄な格好を付けるなと怒られる。しかし残念ながら、今この場には男2人だけ。


「相手を考えろよ。佐々木さんは神田(かんだ)とは違うんだから」


「けどさ、格好良く決めたいだろ」


「いやそれは分かるがなぁ」


 まだまだ恋愛経験が少ないからこそ、どうしても見栄を張ろうしてしまう男心。その是非は成功と失敗を重ねて、大人になるに連れて学ぶ事だ。

 もし真が誰彼構わず付き合う様な男であれば、経験だけは重ねていたかも知れない。そうでは無かったからこそ、まだまだ幼い恋愛観が邪魔をする。


「てか、何の記念なんだ?」


「来月で付き合って4ヶ月なんだが、切っ掛けになった日から計算すると半年なんだ」


「ああ、例の日な。話に聞いてた」


 鏡花(きょうか)と真が交際を開始したのは、6月の2週目。10月の2週目に4ヶ月記念日だが、さしてキリの良い数字ではない。

 しかし、真が鏡花に立ち直る切っ掛けを貰った日からは、半年と言う節目を迎える。真から見たら記念すべき日だが、鏡花にとってはそれほど重要ではない。

 鏡花にとって想い出の日ではあるけれど、真ほど深い思い入れはない。そこがまた難しい部分でもあった。改めて感謝をしたいのは、真の都合と言ってしまえばその通りだ。


「ならそれは一旦やるとして、その後で聞いたらどうだ?」


「……まあ、それなら悪くない、か?」


「それなりに格好はついて、良い妥協ラインじゃないか?」


 元相棒の思い付きが、そう悪くはない結論に辿り着く。とりあえず来月の記念日を祝っておき、その後で鏡花が記念日を毎月祝いたいのか問う。格好を付けたい真の望みを叶えつつ、現実的な解決策に導く。


「後は、鏡花と何をするかだよな」


「変な小細工は要らないんじゃないか?」


 実際の所鏡花は、それ程サプライズを求めるタイプではない。察しが良いとも言えない女の子だから、どちらかと言えば分かり易いストレートな方向性が向いている。

 複雑なアレコレを用意しても気付かないし、オシャレなディナーは逆効果。そんな所に行くぐらいならファミレスや牛丼チェーン店に行く方が喜ぶまである。庶民的な日々を送りたい鏡花に、無駄に華やかな演出は要らない。


「無理せず普通に過ごすのはどうだ?」


「それは流石に手抜きじゃないか?」


 体育会系男子2人だけの恋愛相談は続く。どうするのが正解なのか、その答えは未だに出ないままだが時間だけは無情にも過ぎて行く。

 カッコイイ演出はしつつも、ただの高校生に出来る範囲内。そんな都合の良いやり方があれば誰も苦労はしない。


 記念日まで残された時間はそう長くない。真が鏡花とどんな記念日を迎えるのか。その日はもうすぐやって来る。

 真にとって、佐々木鏡花と言う女の子は本当に特別で大切な存在。その彼女に何を送れるのか、どんなお返しが出来るのだろうか。

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