謎の少女
多くの冒険者が壁になってくれているおかげで城門までたどり着いた。しかし、イーファは応援に来た騎士たちにつかまっていた。
「ここは任せて先にそいつらを連れて行け」
「分かった。イーファも無理しないでタイミング見て逃げてきてね」
「倒した方が楽なのだが···分かった」
うわー頼もしい。焔じゃこうはかっこよくいかないな。
イーファが相手をしている騎士たちは旗を掲げていた。国王軍のどこかの部隊だろう。あの中に手練れがいる。気にはなったがイーファに任せておけば大丈夫だろう。パルテルとレオパルトの二人もついている。
俺たちは無事城門を抜けることができた。城の外にはマルクスが用意していた馬車があった。
「マルクスさんも来てくれたんですね」
「もちろんです。レンさんたちだけに任せて、待ってるだけなんて出来ませんよ。このままパルティアに向かいますので、みなさんつかまっていてください」
そう言ってマルクスは馬車を走らせた。マルクスの腕前はナーガキングから逃げている時に見ている。その時と同じようにもの凄い勢いで王城から離れていく。
追手も冒険者たちが足止めをしてくれていた。
パルティアへの道中、アルスが声をかけてきた。
「レンさん、王城に残ってくれた方は大丈夫なのでしょうか?」
アルスは、あとから現れた敵兵を見た時からずっと不安そうな顔をしていた。
「心配ですか?」
「はい。······あとから来た騎士が掲げていたあの旗はクラーク師団長のものです」
「師団長!?」
クラーク師団長はレザリア王国を守る三師団と言われている師団長の一人だという。クラークは一人で他国の一個師団を壊滅させたという噂があるらしい。
一個師団を一人でとはすごい。アルスは噂と言うが、ハウザーがそれを肯定した。
「その話は本当です。私が実際に目にしています。以前帝国が攻めてきた時に、国王の命令で一人で防衛を成功させていました」
「なぜそんな無茶な命令を?」
「国王は帝国を敵視していて、武力に関しても力を見せつけたかったようです」
そんなことで数千人の兵に一人で突っ込ませるってイカレた国王だ。一個師団か···。まあイーファが居れば問題ないか。
「たぶん大丈夫でしょう。きっと他の冒険者も無事に退避させてくれますよ。ご心配ありがとうございますアルスさん」
「そうですか。それだけあの方を信頼されているんですね」
「はい。本当に頼もしい味方です」
「いやあ本当に楽しみです」
横でハザクが笑っている。
お前が楽しみにしているのはイーファとの立ち合いだろ。どんだけ戦いが好きなんだよ。
俺たちの馬車は一度マルクスの店に向かうことにした。
マルクスの店の前にはパルティアの冒険者が護衛についていた。店にはルカが連れてきたエルフの女の子をかくまっているからだ。
「みなさん。ご苦労様です」
出迎えてくれたのは若い冒険者だった。彼の案内で中に入ると、ソファーに横になったエルフの子と、それを護衛する冒険者一人だけだった。ハザクが特別に手配してくれた冒険者だ。
名前は確かガルディストと言っていた気がする。彼はパルティア支部ではハザクの次に強いSランク冒険者らしい。
俺たちが帰ってきた来たのに気づいたガルディストが立ち上がり、ハザクに向かってお辞儀をした。
「ハザクさん、お疲れ様です」
「ガルディストも護衛、ご苦労様です。何か変わったことはありましたか?」
「いえ、とくに問題はありません···。私意外にもここを見守っている方がいるようでしたが···」
そう言ってガルディストは俺の方を見た。その視線を追ったハザクと目が合った。
「向かいの建物にいるのはレン殿のお仲間ですか?」
さすがレザリアの冒険者だ。月光の護衛に気づくとは思わなかった。
俺は事前に焔に頼んで、セリナの部隊を呼んでいた。今回の救出作戦が成功した後、拐われた子たちをエルミナに連れて行ってもらうためだった。
「はい。シャルたちを迎えに来てもらいました。きっと王国軍との戦いが起こると思ったので、事前に呼んでおいたんです」
「一人で迎えに来るとは···やはりレン殿の仲間は面白いですね」
一人? いやいや、セリナは月光部隊を引き連れて来ているはず···。もしかして、セリナたちには気づいてない?
言われてみると、確かに一人だけ気配の消し方が雑な奴がいた。
「ルカ、悪いんだけどセリナさんを呼んできてもらっていい?」
「分かりました」
ルカはそう言って、いつの間にか背中で寝ていたシャルティアをソファーに置いてセリナを呼びにいった。
王城を出てからやっと落ち着くことができた。とりあえず脱出が最優先だったから、拐われていた人たちのことはまだ何も確認していなかった。
今マルクスの店の中には、今回オクロスに拐われたとされる人も集まっていた。これからの対応について一緒に話を聞いてもらう為だった。
軽く見るだけだと、獣人とエルフが目についた。この中にセリナが探している子もいるかもしれない。
先に偵察に入っていた月光の報告によると、すでに実験の被害にあって亡くなっている人もいるようだった。
とりあえずは、体を休めてもらってからエルミナに移送しようと思う。
「マルクスさん、一晩泊めてもらうことは可能ですか?」
「もちろん構いません。しかし、国王軍のほうは大丈夫でしょうか?」
確かに国王軍の動きも心配だが、いきなり全軍でパルティアに来ることはないだろう。冒険者ギルド本部もハザクが機能停止状態にしてしまったようだから、状況の確認に時間がかかるはずだ。
「一晩なら何とかなります。それまでの間はハザクさんと協力して周辺の警戒に努めます。
ハザクさん、申し訳ないですが付き合ってもらってもいいですか?」
「分かりました。これもギルドの依頼として動きましょう」
ハザクは素早く部下に指示を出していった。
マルクスの店の従業員が、助けてきた人たちを部屋に案内してくれていた。
残った主要メンバーで今後のことについて話し合うことになった。テーブルには俺、ハザク、ハウザー、アルスが着いた。
そしてそれぞれの後ろには側近の者が立っていた。今この場にいる唯一の側近であるシャルティアとメルは一緒に爆睡している。ルカとイーファも出払っていて俺一人だけになってしまった。自然と全員の視線が俺に集まった。
なぜかというと俺の膝の上にちんまりと獣人の女の子が座っていたからだ。
·········誰この子。
俺に変な趣味はないが、みんなの視線が痛い。女の子はみんなの視線が自分に集まっていることに気づき首をかしげて「ん?」と可愛らしく声をあげていた。
全員の視線が再度俺に集まった。
······頼む、誰か早く帰って来てくれーーー。




