国家反逆罪
俺とメルはルカの後を追って地下に入っていた。
「これ···全部ルカがやったのかな?」
「こんなことするのルカさんしかいないよ」
今回は敵兵でも職務を全うしているだけの兵もいるはずだから、なるべく被害を抑えるようにと伝えてあった。何を勘違いしたのか、気絶した兵士が壁に綺麗に並べられていた。
素晴らしいと思うがかなり気味が悪かった。
「音がすごいね。最初の音と関係があるのかな?」
進んでいる方向から壁が響く音が聞こえてきていた。
ルカが敵兵を掃討してくれてたおかげで、どんどん奥に進むことができた。前方からルカの気配を感じた。かなり魔力を練り込んでいるようだった。直後、爆裂音が聞こえた。たぶん烈火を使用したのだろう。
ルカの気配が近づくと、開けた場所に出た。中はひどく荒れていて、敵兵もかなり倒れていた。一番目を引いたのは大きなムカデが倒れていたことだ。その奥には生き残った集団がかたまっていた。
「いやーでっかいねー。あの音の正体はこれだったんだー」
「師匠!? なんでここに?」
「大きな音が気になってね。みんな無事?」
「はい。でもシャルが足を痛めてしまって」
ルカの背中にはシャルティアが背負われていた。申し訳なさそうな顔をしている。
「シャル? 大丈夫だった?」
「···はい。若様···何度も何度も申し訳ありません」
「シャルは何か悪いことしたの? わざと拐われたのなら別だけど、そうじゃないんでしょ? それに怪我をしたってことはみんなを助けて頑張ってたんじゃないの? 一人でよく頑張ったね」
「わ···若様···」
「はいはい。泣かない泣かない。あとはルカの背中で休んでなさい」
シャルティアの報告だと、拐われた子は全て連れてきているとのことだった。残念なことは助けられなかった命もあったという事だった。
アルスとハウザーのことも紹介された。シャルティアは誰かを探しているようだった。
「あれ? 月光の子がいない」
先に潜入していた月光は、既に報告書を俺に渡して姿を消していた。もともと人前では姿を見せないようにしていたのだが、今回はシャルティアがいたから手を貸してくれたのだろう。
答えてあげようと思ったが他の人もいたのでスルーした。
とりあえず全員の無事が確認できたので、地上に戻ることにした。
外に出るとイーファたちが防衛戦を続けていた。
「イーファお待たせ」
「ちょうど良かった、早くしろ。何かくるぞ」
「そうだね」
場内の奥から、こちらに向かっている気配があった。先に対峙していた隊長格とは比べものにならなかった。早くここから脱出した方がいいかもしれない。
うーん。さすがにこの人数を守りながらの脱出は難しいかな。
ここで守り続けることは簡単だが、これだけ敵兵が多い中、戦うことができない人達を連れて行くのは無理があった。敵兵を全滅することが許されるのなら可能だが。
そう思っていたら城門側の敵兵が慌てだした。どうやらこっちの応援が到着した様だ。敵兵を抜けて飛び出してきたのはハザクだった。
「お待たせしましたレン殿。ここは我々に任せて早く脱出してください」
「ハザクさん! タイミングばっちりです」
「救出は無事成功したのですね。さすがです」
「救出したのは僕じゃなくて、ほとんどルカたちのおかげですけどね」
ハザクと話しているとハウザーが驚いた様子で近づいてきた。
「ハザク···お前どうしてここに?」
「お久しぶりです。パルティア支部の冒険者ギルドはレン殿に依頼されて、みなさんの護衛をさせて頂きます」
「まったくお前ってやつは···これは国家反逆罪だぞ」
「はっはっはっ。そちらの方がいればそうはならないでしょ?」
ハザクはアルスの方を見ながらそう言った。シャルティアに紹介された時は忘れていたが、アルスはオルクライン家の公爵令嬢だった。この人さえ連れて帰れば王国の罪が公にされ、現国王の断罪も可能だ。
ハウザーはあきれ顔でハザクに言う。
「まったくお前ってやつは、昔から変わらないな。それがどういう意味か分かっていて言っているのか?」
「もちろんですよ」
現国王の断罪となれば、相手も黙っている訳にはいかないだろう。国王派と反国王派との全面戦争に発展するだろう。
「お二人とも、その話は後でにしなさい。今はこの方々を助けることが一番重要です」
アルスがハザクとハウザーの話に割って入った。
「お任せ下さい。我々パルティア支部の冒険者全員で必ずここから連れ出してみせましょう」
そう言ってハザクが冒険者に合図を出した。冒険者たちが城門に向けて道を作り始めた。
思ったより冒険者の人数が多かった。それよりも気になることがあったのでハザクに聞いてみた。
「ハザクさん。本部の冒険者ギルドはどうしたんですか?」
「ふっふっふ。本物のギルドマスターがいないギルドを潰すことなど容易いことです」
(潰したんかい)
その言葉を聞いてハザクはハウザーに殴られていた。
「い、痛いですよ。大丈夫、ちゃんとマールムの悪事を知っていた冒険者は一緒についてきていますから」
「それならいいが、お前はいつも力に頼るのはやめろ」
「あなたには言われたくないですね」
「まあまあ、お二人とも、今は急いでここを出ましょう」
ほっとくとまた話が始まりそうだった。早くしないと敵の応援が到着してしまう。ハザクを先頭に城門に向かうことにした。
敵のしんがりはイーファに任せた。ずっと防衛をしていたパルテルとレオパルトも一緒だ。
今回は俺の出番は全くなかった。脱出もこのまま行けば順調に城門を抜けられれば良かったがそうはいかなかった。先ほどから感じていた敵兵の応援がすぐ近くまで来ていたのだ。
やはりそう簡単にはいかないか···。
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