【別視点】シャルティア③ 僕の〇〇
【別視点】 シャルティア
みんで地下を脱出しようとしたら、牢屋から逃げたのがバレたようで、追手が次々とやってきた。先頭をいくハウザーが敵兵を次々と倒していく。
「あの方お強いですね」
「ふふふ。ハウザーはね、王都の冒険者ギルドのマスターなのですよ。弱っていたとしても簡単には負けませんよ」
これなら無事に脱出できそうだ。
それからも私たちは敵を倒しながら迷路のような通路を進んでいた。順調だと思っていたら、大きな音と共に地下が大きく揺れた。
「な、何いまの?」
あきらかに周囲の雰囲気が変わった気がする。何がと聞かれると分からないが、何かの縄張り入ってしまったというような感覚になった。
月光から筆談の紙が飛んできた。
『嫌な気配がする。油断するな。』
嫌な奴だが今回ばかりは同じ意見だ。月光に向かってうなずいた。
「シャルティアさん、今のは···?」
「アルスさん、私から絶対離れないでくださいね」
「わ、分かりました」
他の人達も怖がっていた。無理もない。嫌な気配はどんどん大きくなっている。
急いで通路を進んでいたら少し広い空間に出た。今までは前方と後方で守っていたが、ここで襲われたら、横からの守りが弱くなる。通路では壁が守りになっていたからだ。
その広い空間の奥に続く通路から兵士が続々と現れた。だが、様子が少し変だった。私たちを追っているというよりも何かから逃げているように思えた。逃げ道は私たちが今来た通路だけだった。
兵士が私たちの目の前まで来た時だった。横の壁を突き破り、現れた生き物に目の前にいた兵士たちが巻き込まれていった。
「む、ムカデ?」
ムカデにしてはでかすぎる。口の部分に大きなカマのような牙がついている。足は体が続く限りついていて、その全てが凶器のように尖っていた。
巻き込まれた兵士は口についた牙で胴体が切り裂かれていた。
ハウザーがムカデに斬りかかっていった。
「くッ! こいつかなり固いな」
ハウザーが持っていた剣が折れていた。すぐに他の兵士が落としていった剣を拾い、次の攻撃の体勢に入った。ハウザーの持った剣が光を帯びていく。
「雷光斬」
ハウザーが剣を振ると、稲妻のような一撃が放たれた。それがムカデに直撃するとムカデが声とは言えないようなうめき声をあげた。
しかし、ムカデは少しひるんだだけで、倒すことはできなかった。どうやら、本調子ではないようだ。
今の一撃で標的が兵士から私たちの方に向いたみたいだっだ。全体凶器みたいなのがこっちに来たら、全員を守るこは難しい。
「おい後ろだ!」
ハウザーが叫ぶ。
前にいた本体の後ろの胴体がいつの間にか私たちの後ろ側に回りこんでいた。後ろは月光が守ってくれてるが相手がでかすぎる。
しかし、月光は持っていた刀で次々とムカデの足を斬り落としていた。信じられなかった。背格好は私と変わらないのにあんなに大きな相手でもひるまず戦っている。私もそれなりに稽古を行ってはいたが、今の私にはこのムカデと戦う力はない。これが若様直属の隠密部隊月光の実力なのか···。私はまた守られる立場になってしまう···。
「おい!」
(え!?)
一瞬集中を切らしていたら、聞き覚えのある声が、仮面を付けた月光から聞こえた。油断していた。私の目の前にムカデの足が近づいていた。すぐに薙刀を振り下ろすが間に合わず、柄の部分が当たってしまった。私はそのまま壁に吹き飛ばされてしまう。
私が吹き飛ばされたせいで、アルスたちを守る壁に穴が開いてしまった。ハウザーと月光がすぐにフォーローに入るが、今度は本体がフリーになってしまった。
「シャルティアくん! すぐに逃げるんだ!」
「は、はい! 痛ッ···」
逃げようとしたら足に痛みが走った。本体はすでに私に気づき向かって来た。大きな口が開き、両側に広がっている牙が私の逃げる道をふさいでいた。
こんなとこで死にたくない。もう一度ルカ様に会いたい。もう終わりだと思ったらあること思い出した。
その瞬間ムカデの口についているカマのような牙が私を狙って閉じた。
「シャルティアさん!!」
アルスの声が響いた。ハウザーも月光も全員を守るのに手一杯だったので助けに来ることも出来なかった。
誰もが間に合わないと思ってだろう。しかし、私を狙って閉じたはずの牙が開いた状態で止まっていた。
「ま、間に合った」
私はベレンから持たされていた絶対障壁を使ったのだ。しかし、喜んでもいられない。効果は10秒ほどと言っていた。そんなんじゃ何もできない。わたしの命は10秒間延長された。
その間もムカデはガンガンと牙をぶつけてくる。さすがは焔さんたちが作ってくれた絶対障壁だ。びくともしない。今のうちに私もみんなのところに逃げよう。
ガン!
「あ、あれ?」
ガン!
「······」
ガンガンガンガン!
なにーーーー!! これって内側からも出れないの!?
てっきり内側から逃げ出せると思っていたら鉄壁は内側も鉄壁だった。予想が外れて、まるで死の宣告を受けた状態になった。そして絶対障壁の効果が切れた。
ムカデの攻撃が再度私を襲った。
「る、ルカ様···」
私は思わず声に出してしまっていた。人生最後に思い浮かんだ人はやはりルカ様だった。
幻なのか、ムカデの頭上にいるはずもないルカ様の姿を見た気がした。幻でも構わない。最後の時までその姿見れるなら本望だ。私はその幻を見続けた。ルカ様は刀を振り上げていた。その刀には炎が宿っていた。全てがゆっくりと動き、涙で視界もぼやけてきた。
ムカデの牙がもうそこまで来ていた。本当にこれで最後だと思った。
「烈火!」
私はおかしくなったのか、幻聴まで聞こえてきた。
2度目に拐われたあの時もそうだった。馬車の外から聞こえた言葉。今でもはっきりと覚えている。その時のルカ様の姿が忘れられない。その時と同じ言葉が今はっきりと聞こえた気がした。
「ズドン」と激しい爆発音がして意識がはっきりした。襲いかかってきていたムカデの頭が斬り落とされていた。目の前にいる人が誰だかはっきり分かるのに涙で前が全く見えなかった。
その人は近づいて優しく私を包んでくれた。
「待たせてごめんね。シャル」
「うっ···うっ···。はい···ルカ様···」
ムカデはルカの一撃で頭がはねられて、アルスたちを攻撃していた胴体も動かなくなっていた。
「シャルティアさん! 大丈夫ですか!?」
「は、はい。ご心配おかけしました」
ムカデが動かなくなった隙に、追手の兵士をハウザーと月光が掃討していた。正面の通路から兵士が逃げてきていたのはルカ様から逃げてきたらしい。
「あのムカデを一撃で倒すとは···君はいったい···」
「始めまして。エルミナの冒険者ギルドから来ましたルカといいます。僕のシャルが拐われてしまって···」
(((僕の······?)))
ムカデの出現により一時はどうなることかと思ったが、けが人は一人もいなかった。私をのぞいて。そんな私をルカ様がじっと見ていた。
「シャル乗って」
「え?」
ルカ様は私に背を向けてしゃがんでいた。
「足、痛めてるんしょ?」
キュン。やっぱりルカ様は私の勇者様だ。
「はい。ありがとうございます」
私はルカ様に背負ってもらって、ここから出ることにした。