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真骨頂

 イーファを先頭に俺達は王城の入口に向かって走り出した。すぐに見張りの二人が気づいて両サイドから攻撃を仕掛けてきた。

 しかし、その攻撃をパルテルとレオパルトが防いでくれた。


「なぜお前らがここにいる。パルテル」

「それはこっちのセリフだ。お前らがなんで王国軍の味方をしているのか不思議でしょうがないね」


「···レオパルト。俺たちと敵対する意味を分かっているのか?」

「問答は無用です。冒険者が行動する理由はいつもひとつです」


 二人の様子を見るに相手はどちらとも冒険者なのだろう。しかも、二人とやり合えるという事は同格のSランク冒険者なのだろう。

 見張り役の相手は二人に任せて俺たちは城門から中に突入した。先頭のイーファが衛兵をあっさり倒し、俺達は難なく中に入ることができた。


 場内は想像以上の騒ぎになっていた。衛兵だけではなく確実に国王軍の兵士も集まってきている。そして、月光(げっこう)から聞いていた目的の場所に兵士が集中していた。


「ルカ! あそこの兵士が集まってるところに入口があるから、そこから入って! 俺たちがここで時間を稼ぐからシャルたちを頼んだよ!」

「はい! 任せて下さい!」


「な、なんだお前たちは! う、うわぁぁぁ!!」


 俺たちは入り口周辺の兵士を蹴散(けち)らし、俺とイーファとメルで地下への入り口をふさいだ。俺たちの乱入に更に兵士たちが騒ぎ出した。


「レンさん、敵自体は大したことないんですけど、こう数が多いと、さすがに···」

「弱音を吐かない! ほらそっちにまた集まってきたぞー!」


 少し辛そうなメルを見たイーファが彼女の前に氷の壁を作った。その壁のおかげでメルは一息つくことが出来た。


「イーファさんありがとうございます!」

「······夜は長い、少しやすんでいろ」


 く、なんというジェントルな男なんだ。これでは俺がただの鬼教官になってしまうではないか···。まぁ否定は出来ないが。

 俺は八つ当たり的に兵士を吹き飛ばしていた。ただ、俺の持っている武器は木刀だった。今回の救出が始まる前に「死人を出したくなければ、レンはこれを使え」と言ってイーファに渡されたのだ。いったい俺を何だと思っているんだ。


「おい! 俺たちじゃ無理だ! 隊長たちを呼んで来い!」


 ようやく俺たちに(かな)わないことに気づいたのか、兵士が俺たちから距離を取るようになった。次第に陣形が出来るようになり、応援に魔導士も加わってきた。

 最初は少数だと思って接近戦で攻めてきていたが、それが難しいと分かり、遠距離攻撃が可能な魔導士兵を連れてきたのだ。

 だがそれだけではまだ甘い。こちらにはイーファがいる。魔法なら(ほむら)にも引けをとらないだろう。


 相手の魔導士が魔法を放つが、それに被せるようにイーファの氷魔法がさくれつした。


「な、なんなんだこいつらは···」


 王国の兵士たちは、魔導士兵でも太刀打ちできないと分かり動きが止まってしまっていた。その時、兵士たちの後方が開けていくのが見えた。


「お前たち何をやっている?」

「た、隊長!」


 どうやら隊長格が駆けつけたようだ。そいつが他の兵士に指示を出し始めた。動きを止めていた兵士たちが一斉に攻めてきた。

 今まで無秩序に攻めてきていたが、俺とイーファに兵士が集中しているように思える。てっきりメルの方から崩してくると思っていた。

 俺とイーファは変わらず、防衛を続けていた。メルも自分の場所が崩れないように必死に戦っていた。

 この間まで孤児院で過ごしていた子とは思えないほどの戦いぶりだった。どう見たって普通の女の子にしか見えない。それは敵が一番感じているはずだ。


 メルの様子を見ながら戦っていたら、敵の隊長格がメルの方にいたのが見えた。気づいた時には隊長格が剣を抜いてメルに攻撃を仕掛けていた。


「メル!」


 まずい、隊長と呼ばれていた奴がどれくらい強いか分からない。疲弊(ひへい)しているメルを助けに行きたかったが、敵の量が多すぎて、今ここを離れれば、一気に流れ込んできてしまう。なるほど、それを見越して俺とイーファに攻撃を偏らせていたのか。


 隊長格がメルの目の前で剣を振り上げていた。メルとの隊格差はかなりあった。隊長格は振り上げた剣を一気に振り下ろした。

 メルは他の兵士の対応もしていたので隊長の剣に気づいていない様子だった。振り下ろされた剣がメルの頭上にきた瞬間、メルの体が半歩横にずれ、体の向きも隊長格に向いていた。メルの動きに対応できず、隊長格の剣はそのまま地面に突き刺さっていた。

 次は隊長格が狙われる番だった。(かわ)されたことに気づいた時には、すでにメルの刀が隊長格の首に叩きつけられていた。本来なら首が飛んでいたところだろう。隊長格を見下ろすメルから「みね打ちじゃ安心せい」とでも聞こえてきそうだった。


 素晴らしい! 気づいていることを気づかせないのが光月(こうづき)流の真骨頂(しんこっちょう)だ。叫んでしまった自分が恥ずかしい。


 自分たちの隊長が一撃で沈められて、戦意が一気にそがれたようだ。攻撃は続くもののさっきまでの勢いがまったくなくなった。


 隊長格を倒すことが出来たが、もう体力の限界が近づいてきたようだった。


「メル、少しの間、中に入って休んでおいで、こっちは何とかしとくから」

「ごめんなさい。ちょっとだけ休ませてもらいます。イーファさんもごめんね」

「気にするな」


 地下へと通じる入り口は外から見張っていれば大丈夫だろう。中はルカが掃討しているはずだ。こっちも騒ぎにはなっているが王国軍の本体はまだ動いていないらしい。隊長格ぐらいなら、何時間でも相手にできそうだ。それまでにルカが救出に成功すれば難なく脱出できるだろう。


 安心したのも束の間だった。城門前で戦っていたはずのパルテルとレオパルトがこちらにやってきたのだ。


「え!? どうしたんですか二人とも?」

「いや、二人のうち一人はやっつけたんだが、逃げられちまって···。それより王城の外に兵が集まってきたぞ。今陣形を整えている最中だ」


 城の外かーい。どうりでこっちの数が思っていたよりも少ないはずだよ。

 こうなると囚人(しゅうじん)たちを連れて脱出するのが難しくなってきた。今すぐにでも城から脱出したいところだ。


 その時だった。


 地面の方からズンと|響くような音が聞こえた。間違いなく地下で何か起こっている。すぐにメルが飛び出してきた。


「レンさん下の方からすごい音が聞こえたよ!」

「うん、こっちにも聞こえたよ。すぐに行く。

 イーファ、三人でここを防衛できる?」

「愚問だな」

「ちょっと待て。俺らには聞かないのかよ!」

「メルはさっきまでやってましたよ。出来ませんか?」

「ぐ、愚問だな···」

「似合いませんよ···」

「うるせい!」

「とにかく、俺とメルでルカの応援に向かいます。それまで二人もお願いしますね」

「あいよ!」「分かりました」


 俺はパルテルをからかった後、メルと一緒にルカの元に向かった。


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