救出作戦開始
俺達は急遽レザリアの王都に向かっていた。
ルカの報告により、シャルティアがベレンから渡されたアイテムボックスを持っていることが分かったからだ。それにはシャルティア専用の武器などが収納されている。
シャルティアもれっきとした光月旅団の一員だ。何回も誘拐されていたこともあり、ルカと一緒に稽古を続けていた。冒険者登録はしていないが、決して弱い訳ではない。逆になぜ今回も拐われたのか不思議なくらいだった。
問題はベレンにもらった専用武器を持っているということだ。拐われた先で大人しくしている保証は一切ない。間違いなく俺達が救出に向かう前に騒ぎを起こすだろう。そうなった場合、王国軍との戦闘は避けることはできない。ことは急を要していた。
王都には、俺を含めた旅団員4人、反王国勢力のメンバー3人、パルティア支部の冒険者3人が先行隊として向かうことになった。
パルティア支部の冒険者からは、ギルドマスターのハザクと、Sランク冒険者の2人だけだ。二人はレオパルトとパンテルという。
「あの···、パンテルさん···。本当にごめんなさい。顔大丈夫ですか?」
「もういい。気にするな」
俺たちの隣を並走しているパルテルの顔はかなり腫れていた。
***
数十分前
「レン殿、この二人はパルティア支部のトップランカーのパルテルとレオパルトです。先行隊として同行させたいと思います」
「それは心強いです。お二人ともよろしくお願いします」
二人の冒険者は返事することもなく俺を見下ろしていた。
「ハザクさん、本当にこの子がエルミナのギルマスなんすか?」
「ええ、だから失礼のないように···」
ハザクが喋っている途中でハザクの後ろに立っていたパルテルが姿を消し、次の瞬間には「バコッ!」っという音と同時に地面にパルテルが転がっていた。
「おやおや、だから言ったのに。レン殿、お手を煩わせてしまいすみません」
「いえいえ。この見た目なのでこういうのには慣れていますが···。でも、ちょっとやり過ぎてしまいましたかね?」
パルテルは腕試しのつもりか知らないが、俺に殴りかかってきた。もちろん俺は躱したのだが、今はあまり構っている時間がなかったので、攻撃に合わせてカウンターを入れてしまったのだ。
それが見事に顔に決まってしまい、そのまま床に倒れてしまっている。
逆に時間がかかってしまった···。
***
意識を取り戻したパルテルの顔がみるみる腫れていき、今にいたるのだ。
「いやぁ、まさかあれをまともにくらうとは思わなかったので···」
「お前それで謝ってるつもりか!」
パルテルはプルプルしながら怒っていた。ビクターもそうだが、こういう手合いを見ると、なぜかからかいたくなってしまう。
「パルテルいい加減にしないか、今は時間がない。それにレン殿に無礼をはたらいたのは君だ」
「···はい。すみません」
ハザクが言っているように今は時間がない。一刻も早く王城に向かわなければならない。
「レン殿、私はギルドの本部に寄ってマールムをおさえに行きます。王城にはパルテルとレオパルトを連れて行ってください。二人とも分かっているね? くれぐれもギルドの看板を背負っていることを忘れないように」
「「はい!」」
王都に入る直前でハザクは一人、冒険者ギルドの本部に向かった。
「よし、ギルドはハザクさんに任せて、俺達は王城に向かおう。王城までは何があっても足を止めないように、衛兵に出くわしても無視してください」
各々が返事し、俺達は王都に入った。
王都の入り口で衛兵に止められそうになったが、イーファが氷の魔法で衛兵の足元を固めた。
「おいおい、いいのか? 後で問題になるぞ」
「どちらにしても、問題になります。遅いか早いかの問題です。先ほども説明しましたが、王城の地下で僕の仲間が捕まっています。それが問題なんです」
「何が問題なんだ」
「パルテルさんと同じように無鉄砲なんですよ」
「···お前やっぱり俺のことばかにしれるだろ」
「パルテルさん、もしあなたが囚われの身だとして、一人で脱出できるとしたらどうします?」
「そりゃ脱出するだろ」
「もし他に囚人がいたら?」
「見捨てることはできないな」
「つまりそういう事です。王城の地下でまさしくそれが行われようとしています」
「はあ? だって拐われたのって女の子だろ? さすがにそんな無茶はしないだろ?」
「「「······」」」
「おいおい、お前らなんて顔してやがる」
俺たちシャルティアを知っている者はみんな遠い目をしていた。
そうこうしているうちに王城の見える位置に着いた。
「おい、なんか中が騒がしくないか?」
嫌な予感が当たっていた。すでに騒動が起きていた。王城の衛兵も慌しく出入りしている。
それよりも、気になることが他にも見つかった。
「みんな気づいてる?」
「あぁ、誰かに見張られているな」
パルテルが最初に応えた。さすがSランク冒険者。衛兵たちとは明らかに違う気配が王城を見張っている気配がした。
「彼らは僕らが相手をしましょう。みなさんは先を急いでください」
見張りの相手を買って出たのはレオパルトだった。パルテルとは違って終始落ち着いた雰囲気をもっていた。
「分かりました。それでは見張りの相手はお任せします。ルカ、君は王城に入り次第一人で地下に向かってシャルと合流してくれる?」
「はい!」
「イーファとメルは俺と、ルカ達が脱出してくるまで国王軍の足止めね」
「分かった」「はい!」
「おいおい···そのお嬢ちゃん戦えるのか?」
「パルテル。先日ビクターを一撃で倒した冒険者は彼女だよ」
「おいおい、まじかよ」
(今気づいたがこいつおいおい多いな···)
打ち合わせを終えた俺達は行動に移すことにした。救出作戦の始まりだ。