【別視点】 シャルティア➀
【別視点】 シャルティア
「ねえ。あなた。大丈夫? ねえ。聞こえてる?」
「···んっんー。······あれ? ···ここどこ?」
誰かに起こされ目を覚ますと私は牢屋に入れられていた。今まで見たいに馬車の檻ではなく、完全な牢屋だった。
石造りの壁に、太い鉄格子、以前捕まっていたスイブルの町よりも環境が悪い。
どうして私はこんなところにいるのだろう。
隣を見ると、先ほど声をかけてきた女の人がいた。青い髪をした綺麗な女の人だった。来ている服を見て明らかに高貴な人だと分かる。
「あなた、大丈夫? 怪我とかしていない?」
「はい大丈夫です。···あのー、私なんでここにいるのでしょうか?」
「あなた、拐われてここに来たのよ」
思い出した。またやってしまった···。これで3回目だ。わ、若様に怒られる···。
***
数時間前 エルミナ王国
私が孤児院横にある店舗で店番をしていたら、見慣れない男が入って来た。商品を見るわけでもなく真っ直ぐ私のところへやってきた。
男は何も言わず、私の目の前に何かを置いた。見覚えのあるペンダントだった。私がお姉ちゃんにあげたものだった。
「これは···?」
私が怪訝そうな顔をすると、男は私にしか聞こえないような小さな声でこう言った。
「持ち主を死なせたくなかったら黙ってついてこい···」
持ち主。お姉ちゃんのことだ。私は焦ってしまって考えることが出来なかった。ルカ様がいればすぐに助けを求めることが出来たけど、今は冒険者ギルドに顔を出していて頼ることもできなかった。
きっと後で怒られるだろうけど、お姉ちゃんの命には代えられない。私はロイドに店番を頼んで男について行った。
「お前の姉はあの馬車の中にいる。会ってこい」
会ってこい? 会えるんだ。また前みたいに拐われるのかと思った。
私が扉の開いた馬車に近づき中を覗くと誰も乗っていなかった。
ドンッ!
「キャー!」
バタン! ···ガチャンッ!
(あ······)
やってしまった。この状況は身に覚えがある。誘拐だ。
当然のごとく馬車が荒っぽく走り出した。何とかしないといけないと思うがなぜか頭が働かない。
何だろうこの甘い匂い。
馬車の中で何かお香のようなものが焚かれていて、だんだん眠気もさしてきた。
「ルカ···様に······伝え···な···い······と·········」
私の意識はそこで途切れてしまった。
***
現在 某牢屋
「思い出した···」
「そう、それは良かった。私はアルス・オルクラインと言います。あなたは?」
「私はシャルティアと言います。エルミナ王国にいたんですけど拐われてきてしまったみたいです。ここはどこなのですか?」
「ここはレザリア王国よ。あなた、もしかてエルフ?」
「はい。エルフだけど今はエルミナの王都で、武器や道具の販売をしているお店の店員をやってます」
私は髪の毛をあげて自慢の耳を見せてあげた。
「綺麗な耳ね。本物のエルフに会うのは初めてだわ。まさかこんなところで会えるなんて」
「お姉さんはなぜこんなところにいるの?」
「私は大切な人を助けたかっただけなのだけど、それを望まない人に邪魔されてしまったの。今はこうして祈ることしかできなの」
そう言ってアルスは胸の前で手を組み目を瞑って祈りを始めた。改めて見てもとても綺麗な人だった。私も大きくなったらこんな風になりたいと思った。
「お姉さんの大切な人は、お姉さんのことを待ってるの?」
「そうね。そうだといいわ」
「ならここから出ないとね」
私はベレンからもらったブレスレットに魔力を込めた。光るブレスレットの中から自分用の武器を取り出した。長い棒の先に反り返った刃がついていた。若様が言うには薙刀というらしい。大人用は長かったので私専用のサイズに調整してある。もちろん刃の根元には漢字が刻まれている。一部の光月旅団員が所持する武器には、旅団の証である『光』という文字が刻まれていた。
「あなたいったいどこから出したの? それに変わった形の武器ね···」
「ふふん。私専用の武器」
そう言って、牢屋の檻にむかって薙刀を振り上げた。そのまま何度か切りつけると、「カランカラン」と音を鳴らして切られた鉄格子が床に転がっていた。
「あなた、本当にただのお店の店員さん?」
「はい! エルミナの王都に来た際はぜひ寄っていってください。さあ、お姉さん、一緒にここを出よう」
「あのー、シャルティアさん。一緒に助けてもらいたい人がいるの。力を貸してくれない?」
「いいよ。どこに行けばいいか分かります?」
「それが···。ごめんなさい。分からないの」
「そっかぁ。それじゃ、一緒に探そう!」
スパーンッ!
「イタッ!」
私が一人で勝手に盛り上がっていたら何かでいきなり頭部を殴られた。振り返ると見慣れた武器を手にした人が立っていた。口から上が狐のお面をしていた。武器はいつも特別稽古で使用している者だった。腕には光月旅団の証がつけられていた。月光だ。
「何すんのよ!」
月光の人は喋らずに何かに文字を書き始めた。
『なにやってんの? ばかなの?』
「ばかって何よばかって! あんたこそこんなとこでいったい何してるのよ!」
『若様の命令。ばかには関係ない』
くー!こいつむかつくー!
私が怒っているとアルスになだめられた。私の代わりにアルスが月光と話し始めた。
「申し訳ありません。どなたか分かりませんがここから出るのに力を貸して頂けませんか?」
『いいよ』
「なんで私と態度が違うのよ!」
『3回も拐われるばかは知らん』
「くぅううう!」
「落ち着いてくださいシャルティアさん。警備兵に気づかれてしまいます」
アルスの言葉を聞いて月光が通路を指さした。私とアルスは顔を出して通路を覗いた。通路の奥の方で警備兵が倒れていた。
『ばかのせいで若様の計画が台無し』
「う···」
それを言われると何も言えなくなる。しかも若様の計画を台無しにしてしまったらしい。どうしよう。
「シャルティアさん。この方に案内していただけないですか?」
「うん、たぶんしてくれる···。でも頼むのは私のプライドが···」
「お願いします」
「うぅ···」
しかたない。アルスの想い人の為だ。ここは私が折れよう。
「ごめんなさい。もう2度と拐われませんので道案内をお願いします」
『はぁ~』
ため息ぐらい書かないで普通にしろ! なんなのこいつ! 初めて会ったのに何でこんなに喧嘩腰なの!
『若様がきっと来る。それまでに囚われた人を開放する。手伝え』
それを見て、私とアルスは目を合わせて笑った。
「もちろん! このミスを挽回しなくちゃね! そうそう私はこのためにわざとここに来たのよ」
「二人ともよろしくお願いしますね」
アルスは可愛く笑ってくれたが、月光はばかにしたポーズをとっている。ここを出たら覚えておきなさい。
「あの、ここに来るまでに髪の長い男の人はいませんでしたか?」
『一人いた。金髪の男』
「その人のところへ案内して頂けませんか?」
『ついてきて』
アルスには素直な月光は通路を進み始めた。