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シオンとレオン

 昼食が終わり、話し合いに参加するメンバーが広間に集まった。炎帝の民からは族長のエルグ、緑色の髪の子ミリア、村の戦士長のナバルとその部下数名が、獣族(じゅうぞく)からは、セリナ、ギルティ、おまけでトゥカが、最後に俺、(ほむら)、シュリが同席した。


「早速ですが、昨晩(さくばん)話にあがった、同族の救出について話をしていきたいと思います」


 エルグが話を切り出し、話し合いが始まった。


「昨日は我々の同族の話だけになってしまいましたが、賊の調査をされているという事は、セリナ殿の同族も、賊に(さら)われているという認識で宜しいですか?」

「はい。私たちの同族も子供を中心に拐われております。王都で獣人(じゅうじん)売買が行なわれているという(うわさ)を聞き、王都へ調査に来たのですが、恥ずかしながら私と、このトゥカが人拐いの標的になってしまいました」

「俺とシュリも王都から連れてこられたみたいです。残念ながら捕まった時の記憶がなく、これといった情報はありません」


 一通り情報を共有し、分かったことは王都で賊が拐った子を集めて、炎帝(えんてい)の森を使ってどこかに運ぼうとしていたようだ。


 王都からいったいどこに連れて行こうとしていたのか話をしている時に、ナバルの部下が広間の中に入ってきた。


「報告します。賊の残党から行き先がスイグルだということが分かりました」


 賊の残党とは、昨日の段階で炎帝の民の戦士たちに、俺らが逃げ出してきた馬車に、賊の残党が倒れていることを伝えたら、すぐに確認しに向かってくれたのだ。賊の仲間はまだ現れていなく、俺が倒した御者(ぎょしゃ)二人は気絶したままだったらしい。夜中のうちに村まで連れてきて、先ほどまで尋問(じんもん)していたそうだ。


 スイブルとは南にあるレザリア王国の小さい町だ。俺たちが拐われたとされるのが北側にあるエルミナ王国である。炎帝の森は両国の東側に広がる大森林だ。


 エルミナ王国からレザリア王国に行くには国境を越えなけれならないが、国境の入り口には両国の検問所がある。不正に入国するには監視のない炎帝の森を通らなければならない。スイブルはレザリア王国の国境付近に位置し、炎帝の森のそばにあるため、賊が使うにはもってこいの町である。


 エルミナ王国であった事件を、国境を越えたレザリア王国で調査をするのは中々難しいのだろう。賊のほうもそれを利用しているに違いない。エルミナ王国にも賊の拠点があるだろうが、今回は俺達の関係者がいる可能性が高いスイグルに向かうほうが得策だろう。


 本来であれば炎帝の森を使用しての越境(えっきょう)は困難であるが、こちらにはその大森林の主がいるから問題ない。


 話し合いの結果、準備が整い次第スイブルに向かうことに決定した。


 ギルティは王都で待機させている調査団と合流し、この作戦に参加するとのことだったので、それを待ってから出発することにした。


 ギルティはエルグより炎帝の民である証の首飾りをもらった。これがあれば迷わず村を見つけることができるという。ギルティは「感謝します」と言って王都に向かった。


「ギルティ殿が戻るまで三日あります。必要なものがあればこちらで用意致しますので何なりとお申し付けください」


 今回の救出作戦では武器があったほうがいいので鍛冶(かじ)職人を紹介してもらった。その他にも衣服なども一通りお願いした。


 話し合いが終わり。解散しようとしたらエルグが話をかけてきた。


「レン殿でしたかな。昨晩はありがとうございました。まさかこのような若者に大切なことを気づかされるとは思いませんでした。あの言葉で私は、炎帝様の眷属(けんぞく)としての(ほこ)りを取り戻すことができました。本当にありがとうございます」


 エルグは深々と頭を下げた。それに習ってナバルとその部下も頭を下げる。


「いえいえ、気になさらないでください。僕も言い過ぎました。生意気言ってしまって申し訳ありません」

「炎···焔様はレン殿とはどのような関係なのでしょうか」


 もう焔が炎帝なのはバレバレなんだね。


「レンはワラワに名を(さず)けてくれての。レンの強さに興味が()いてこれからも行動を共にしようと思っておる」

「名受けをなされたのですか!?」


 一同が(おど)いている。セリナさんも困った顔で「うんうん」と同意している。


「焔様。それがどういうこと分かっておられるのですか?」

「もちろんじゃ。そなたらもそのうち分かるだじゃろ」

「···」

「なんじゃ、不服か?」

「いえ。それが焔様のご意志であれば何も言いません」


 エルグ達は俺に向き直り、再び頭を下げる。


「レン様、今後とも我ら炎帝の民を宜しくお願いいたします」


 ん、どうした? レン様? 焔、何をニヤニヤしている?


 俺はこの時、この世界での名受(なう)けが何を意味するのか分かっていなかった。


「おお、そうだ。大切なことを忘れておりました。焔様に会いたがっていたもの達がいるのですがここに通してもよろしいですか?」

「うむ。かまわんよ」

「ピューィ!」


 エルグの独特な口笛が鳴ると、扉の外から走ってくる音が聞こえて来た。扉が開くと思いきや、突き破って入ってきた。


「「くぅおーん!」」


 入って来たのは二匹の白い狼? だった。聞くところによると、この世界ではフェンリルと呼ばれる聖獣(せいじゅう)に分類されるみたいだ。


「おぉ! シオンとレオンではないか! 久しぶりじゃのぉ。レンよ。ワラワの分体のようなものじゃ。かわいいじゃろ」

「うわー、大きいな。俺ぐらいの大きさなら背中に乗れそうだね」

「レンなら、ワラワの加護を持っておるから、喜んで乗せてくれると思うぞ」

「ほんとに? よろしくね、シオン、レオン」


「「くぅおーん!」」


「レオン様もシオン様も久しぶりに焔様に(・・・)会えて喜んでおりますなー。はっはっはっ」


 もう焔が炎帝だということを確信してやってるよね。焔なんか「久しぶり」なんて言っちゃってるもん。おバカだなぁ。明日はレオンとシオンの背中に乗せてもらおうかな。


 そんなこんなで今日の話し合いは終わった。俺は焔と紹介してもらった鍛冶(かじ)師の元へ向かった。


 鍛冶師はベンという。村の工具や武器を一人で製作している。


「焔様。お久しぶりです。今日は何かお探しのものがあるとか聞いておりますが」

「久しいなベン。今日はここにおるレンが、武器を探していてな。少し話を聞いてくれぬか」


 俺は刀について説明した。現世で日本刀を扱う者として、刀匠の元で作業工程を見学していた時があったので、詳しく説明ができた。


 ベンは今までやったことのない製法なので出来るか分からないがやってみると了承してくれた。それまでの代用品としてサーベルをくれた。剣よりは刀に近いので、しばらくはこれを使うことにした。


「ねえ、焔。戦闘用魔法使えるよね? 魔法の戦いに()れておきたいから少し付き合ってくれない?」

「良いぞ。その代わりワラワにも何か伝授してくれぬか?」

「そうだね。サーベルもあるし、一つぐらいは出来るかな。じゃー行こうか」


 レンと焔は、初めて対峙した炎帝の碑石(ひせき)に向かう。そしてこの日、炎帝の森で、謎の大災害が発生したとの(うわさ)が、周辺諸国で広まることになった。




 翌日緊急の話があるとエルグに呼び出された。


「昨夜、炎帝様の碑石(ひせき)周辺で激しい戦闘があったと報告がありました。今現地に調査隊を向かわせておりますが、かなりの被害が出ているようです。賊の可能性も考えられるので、その対応も含めお二方の意見をお伺いしたく、お集まりして頂いた次第です」


「「······」」


 ガラガラガラ!


「報告します! 炎帝様の碑石(ひせき)周辺の森一キロほどが焼失していることが分かりました。また半分の木は何かで切り落とされておりました」


 調査隊の報告で全容が明らかになった。セリナとシュリがあきれたという顔でため息をついてる。


「レン様。焔様。昨晩はどちらに?」


 終わった。俺と焔は無言で土下座した。焔には昨日うちに土下座を教えておいた。ごめんねエルグ。ごめんねみんな。

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