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どこまで行っても冒険者

「ユリベラさん。胸を張ってゆっくり呼吸してください。ギルマスに飲まれないように意識をしっかり持てば大丈夫ですから」

「わ、分かった。···スー···ハー。······うんもう大丈夫そう」


 ユリベラが落ち着いたのを見て、ハザクがクスっと笑った。


「ユリベラくんはもう少し鍛練(たんれん)が必要だな。いやぁ申し訳ない、うちの冒険者を次々と倒す者がいると聞いてどれほどかと思いましてね。今の威圧にも顔色一つ変えないでいられるのだから、ただの旅人という訳ではありませんよね?」


 やはり、ギルマス相手に(うそ)は通じないか。


「始めまして、私はレンといいます。こんなんでもエルミナの冒険者ギルドのマスターをさせてもらっています。こっちはルカといって、うちに所属している冒険者です」

「えっ!? ギルドマスター? レンが?」

「ユリベラくん、ギルドマスターに対して呼び捨ては失礼だよ。レン殿、うちの者が申し訳ない」

「あ、も、申し訳ありません。レン様」

「いえ、気にしないでください。身分を隠していたのは私のほうなので。それよりも、こちらの勘違いでご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした」

「いや、冒険者は自己責任です。もし、ルカくんが本当の賊だったとしたら、とんだ大失態をさらしてるとこです。今回はそのことに気づかせてもらえて感謝しているくらいですよ」


 考え方が同じで助かった。ハザクの言ってることは正しい。冒険者はこと守ることに関して失敗は死を意味する。今回はルカが加減したから死人は出ていない。これが魔物だとしたら、加減などしてくれないだろう。冒険者は強くなくてはいけない。人を守る為に。


「それで、レン殿。うちの者の話だと、ルカくんは人(さら)いを追っていたみたいですが本当なのでしょうか?」

「それは、間違いありません。現に私たちの家族が賊に一人(さら)われたままです。逃がしてしまった馬車がパルティアの方角に向かったところまでは確認ができています」

「ふむ、レン殿。ここは腹を割って話しませんか? オクロス···聞いたことは?」


 まさかハザクからオクロスの話があがるとは思わなかった。信用して良いものか···。しかし、ここをごまかしたところで、ハザクは勝手に俺たちがオクロスを追っていると断定するだろう。なら、このまま話に乗っかってみよう。


「私たちはそのオクロスを追ってここに来ました。今はレザリア王国がオクロスと(つな)がっていると確信しています」

「なるほど、ずいぶんはっきり言いますね? 根拠はあるのですか?」

「冒険者ギルドのマスター代行マールムと言えば分かると思いますが」

「そこまで分かっているなら安心しました。レン殿の言ってる事に間違いはありません」

「「え!?」」


 あまりに早い展開にルカとユリベラは声をあげてしまった。ユリベラはハザクが誘拐事件について認識していることに(おどろ)いていた。冒険者ギルドはこの件に興味がないと思っていたからだ。


「ギルマスはなぜそのことを知っているのですか?」

「お互いギルマスだ、ハザクで構いません。

 私は個人的に王城の動きを探っていたんですよ。急に本部のギルマスと連絡が取れなくなりましてね。それで代行に選ばれたのがマールムだ。私にはまったく意味の分からない人選でした。本部は特に実力主義をうたっているからね。

 マールムは一応Sランク冒険者でしたが、他にも有能なSランク冒険者は沢山います。本部の人事に影響を与えることができるのは王族以外に考えられません」

「ギルマス! それではなぜ今まで私達に命令を出して下さらなかったのですか!」

「確証があるといっても証拠があるわけではない。こんな個人的な判断で反王国勢力(レジスタンス)を作るわけにはいかないだろう」

「うっ···」

(これは完全にバレてるな。)


 これ以上はやぶへびだと思ったのか、ユリベラは口をはさむのをやめた。

 話を聞いている限り、ハザクはマールムのことを良く思っていないのは確かだ。後はどうやってオクロスにたどりついかだ。


「ハザクさんはどこでオクロスの名を聞いたんですか?」

「伊達にギルドマスターを任されていませんよ。これぐらいの情報収集はできて当り前です。フィーリア入っておいで」


 ハザクの合図で部屋に女の子が入ってきた。メイド服を着た桃色の髪をした可愛い女の子だ。フィーリアには長い耳が付いていた。亜人だ。


「お呼びでしょうかハザク様」

「こちらは、エルミナの冒険者ギルドのマスター、レン殿だ。隣にいるのがルカくんで、ユリベラのことは知ってるね」

「フィーリアと言います。よろしくお願いします」

「私が一人で調査をしていたら、彼女が(さら)われて、王都に連れて来られていてね。王城に入る前に賊を捕まえたんですよ。その賊をしめあげて聞き出したのがオクロスという組織の名だった訳です。彼女を元の場所に帰そうと思ったのですが、妹が捕まっているらしく、ここに残ると言って聞かないのですよ。それで今はこのギルドの手伝いをしてもらっているんです」

「そうだったんすか···」


 もうハザクを疑う必要はなかった。目的は完全に一致している。俺達も持っている情報を全て話すことにした。




「なるほど。それでレン殿はパルティアに来たのですね。ルカさんは恋人を追いかけて···素晴らしい」

「からかわないでください!」

「それにしてもルカくん、君も相当に強いでしょ? 君に倒された冒険者の中にはSランク冒険者が一人混ざっていたんだよ。まさか、君のような少年に負けるとは思ってもいなかったみたいでね。彼にはBランクに降格してもらったよ」

「2ランクも!? なんでそんなに···ぼ、僕のせいで···」

「だって君Aランク冒険者なんでしょ?」

「「!?」」


 どうしてハザクがルカのランクを知っている。俺はまだ冒険者としか言っていない。俺が怪訝(けげん)な顔しているのに気づいてハザクがすぐにこたえてくれた。


「ビクターが倒された後、私はすぐに調査を始めました。前ギルマスが解任されたことは協会本部から知らされていましたからね。その後、エルミナの冒険者ギルドで大量解雇があったことも聞きました。うちにもエルミナから流れて来た冒険者も少なくなかったですよ。

 すぐにエルミナの冒険者ギルドに調査員を向かわせました。そこの冒険者一覧に名前があったので覚えていたんですよルカくんの名前を。そうそう、もう一人いましたね、今一緒に旅をしているお仲間にSランク冒険者が···たしか、イーファ・クレイラットだったかな? 興味がありますね。Aランクの冒険者のルカくんでこの強さだ。今のエルミナのSランク冒険者がどれほどのものなのか···」


 今目の前いるのはギルドマスターのハザクではなかった。強者を求める現役の目をした冒険者のハザクだった。


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