表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/129

【別視点】桜火と狐月② 呉越同舟

 桜火(おうか)の周りには小さな鳥が飛んでいた。小鳥は彼女に止まろうとしていたが、近づくとヒュッと逃げてしまう。狐月(こげつ)がその光景を見つめているとその状態が続いた。何をしているか分からないと思っていたらマダムが口を開く。


「あの鳥はセキレインと言って魔力を嫌うの。魔力が体に流れているうちは絶対に近づく事はないわ。セキレインが体に止まらないうちは何も進まわないわね」


 そう言うとマダムは立って「パンパン」と手を叩いた。今日の稽古は終わりということだろう。狐月は桜火を見つめた。いっこうに稽古を止める気配がなかった。

 マダムは「はぁ···」とため息をついて席を立ち、その場から姿を消した。気づくと桜火の横に立っていて彼女の頭を叩いていた。


「痛ぁーい!」

「今日はおしまい。お客さんよ」


 マダムは体を狐月のほうに向けた。桜火はそれを目で追うと、狐月がいることに気づいた。


「狐月さん···? 狐月さん! 狐月さんだぁ!!」


 桜火は飛び上がって狐月のところに向かっていった。

 狐月に抱きつき始めは喜んでいるように見えていたが、狐月の腕の中にいる彼女の体は震えていた。


「ごめんなさい。私···何も知らなくて···。狐月さんだけずっと辛い思いをしていたのに気づくことができなくて···。本当にごめんなさい」

(桜火さんもマダムに聞いたのね···)


 桜火はマダムから、狐月の出生の秘密と、未来の話を聞かされていた。その未来でレンが死ぬというこを···。

 マダムには未来を見る力があった。彼女はその力を使って、アールスフォード帝国の聖女として君臨(くんりん)している。しかし、彼女を聖女と呼ぶようになったのは帝国の民ではなく、他国の民がそう呼ぶようになったのだ。

 マダムはその力を使い、帝国が他国に侵略しようとしたのをことごとく妨害(ぼうがい)した。それを知った他国の民が彼女を帝国の聖女と(あが)めるようになったのだ。今では帝国で彼女に逆らうものはいない。アールスフォード帝国では現皇帝の次に権力を持っていた。


「あなた達、(なぐさ)めあってないで早く来なさい。今日はキティが来て料理を作ってくれるの。遅れたくないわ」


「桜火さんも辛かったでしょう···。でもまだ希望はあるようです。だからマダムは私を若様と引き合わせたのですから。きっと桜火さんが若様と出会ったのも全て天啓(てんけい)によるものだと思いますよ」

「てん···けい?」

「そう、マダムの未来覗(みらいし)の力によって選択された決められた未来、それが天啓(てんけい)です。桜火さんも気づいてると思いますが、マダムは若様を助けようとしているんだと思います。その理由は分かりませんが···」

「私···分かるかもしれない···」


 桜火と狐月が話していると「二人とも···人の話を聞いていますか?」と、マダムが声をかける。


「桜火さん一つだけ言えることがあります」

「な、何···?」

「マダムは怒らせると誰よりも怖いです」

「······急ごっか」


 二人は急いでマダムの後を追った。




 孤児院の食堂にみんなが集まっていた。意識を取り戻したパルク達もそこにいた。全員同じ食卓に桜火と狐月がいることに気まずくなっていた。桜火と狐月にとって、パルク達はレンを傷つけた敵だったからだ。

 ちなみにパルク達は桜火に盛大に報復を受けていた。殺されかけたところをマダムに止められたのだ。今回の狐月と同じである。


「あんたらの若だかなんだか知らないけど、うちのじいさんだって腕を無くしてんだ。許せないのは一緒だからな」

「はぁ? パルク。あなた若様にあんなことしておいて何を言っているの? 本当に死にたいわけ? それに、私が怒っているのは若様を本当の意味で傷つけたからよ。若様だって自分が受けた傷の事なんて気にも()めていないわ」


 今にも喧嘩(けんか)が始まりそうだった。しかし、すぐにその場の空気は一人の女の出現によって静まりかえることになる。


「あらあら、みなさん。今日も元気いっぱいね」

「キティ、待ってましたよ。今日は何をいただけるのかしら?」


 食堂に現れたのはアールスフォード帝国の教会の最高位、キティ枢機卿(すうききょう)だった。マダムとキティは古くからの知り合いらしい。

 狐月とパルクが黙ったことには理由がある。マダムはキティに迷惑をかけるのをものすごく嫌うのだ。その証拠にマダムはキティの言う事に対して逆らったことがない。小さい頃にマダムがキティに怒られているの見て、キティ最強説が生まれたぐらいだった。それ以降、キティの前では誰もが行儀よく振る舞うようになった。


「今日はお姉ちゃんが大好きなグラタンです。みんなでいただきましょう」

「それは嬉しいわ」


 いつもの冷めた感じのマダムが少しウキウキしているように見える。


(狐月さんなんで、キティ枢機卿(すうききょう)はマダムのことお姉ちゃんって呼んでるの? キティ枢機卿(すうききょう)の方がかなり年上に見えるんだけど)

(キティ様はマダムよりだいぶ年下なんです。マダムには不死の力があると聞きます。そのせいでエルフよりも長命だという話もあるくらいで···。実際にいくつなのかはキティ様と数人ほどしか知らないようです)


「あなたが桜火ちゃん? 会いたかったわ。お兄さんとお友達のこと本当にごめんなさいね。この子達もやりたくないと思っていたはずよ」

((約一名ノリノリだったけど···))

 桜火と狐月がパルクを見ると、パルクは「なんだよ!」と言った。


「獣族のお嬢さんにはかわいそうなことになりましたが、それも大丈夫。あなた達のお兄さんが全て受け止めてくれるでしょう。そういうすてきな人なのでしょう?」


 そう言ってキティは桜火達とマダムを見る。みんな自分達が()められているみたいに顔がにやけていた。


「き、キティ、料理を早く」

「はいはい分かりましたよ。パルク、手伝ってくれる?」

「は、はい!」


 キティのおかげで喧嘩(けんか)になりそうな雰囲気がなくなった。キティとパルクが準備をしている間に、マダムが話し始めた。


「ロエナ村の件は私からも謝ります。本当にごめんなさい。あの獣族の子供には悪いことをしたと思っているわ。それと、この子達は天啓(てんけい)に従ったまで···。許してあげて」


 マダムがそう言うと、ネム、ドム、マーレが頭を下げて二人に謝る。


「私たちは大丈夫ですが、トゥカさんが心配です···。若様もそれを一番気にしておりましたので」

「お兄ちゃん···自分のことは何言われても平気だけど、他の人の事になると我慢できなくなるからなぁ···」

「そういう人なのよ。大丈夫。最悪ルーカスが殺さるだけですから」

「ま、マダム! 何とかならないの? じいさんだって十分罰は受けてるのに···」


 途中から話しを聞いていたパルクが泣きそうになりながら言った。


「ルーカスのことはあなた達次第です。あとは子猫ちゃんと狐月がどれだけ成長できるか···」

(((子猫って···トラの間違いだろ···)))


 桜火はその意味を理解していた。マダムが言っていた1カ月の猶予と強くなる意味、全てはレンを救うことに(つな)がっているという事を。


「それで、狐月はこれからどうするの? 最初は子猫を引き取りに来たみたいだけど」

「愚問では? マダムには全てお分かりなのですから···。私は桜火さんを手伝います」

「狐月さん!」

「そう···。それじゃパルク、あなた達も付き合ってあげなさい」

「え!? 私達もですか?」

「負けっぱなしで悔しくないの? 私は悔しいわ···教え子が他の教え子に負けるなんて···ねぇ?」


 パルク含める4人がブルブルっと震えた。表情は変わらないがマダムの師としてのプライドが威圧となって4人に伝わった。


「さあさあ、これから一緒に頑張る者同士、仲良くお食事にしましょう」


 キティが綺麗(きれい)にその場をしめて、夕食が始まった。


 それから数週間、孤児院の闘技場で桜火達の稽古が続くことになった。


いつも読んで頂きありがとうございます。


マダムの誕生が分かる短編を書きました。よかったらご覧下さい。


下の方にリンクが貼ってあります。


追放された忌み子は転生した女子中学生~追放した帝国に圧力かけまくって他国から聖女と呼ばれるようになった件~https://ncode.syosetu.com/n0175ir/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ