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【別視点】桜火と狐月➀ 再開

【別視点 桜火(おうか)狐月(こげつ)


光月(こうづき)村を出てからだいぶ時間がかかってしまった。若様も桜火さんの帰りを待っているはず。早く連れ戻さなくてはいけないのに···)


 狐月はアールスフォード帝国の端にある孤児院の手前まで来ていた。目的地は目の前だが、狐月の前には(なつ)かしい顔ぶれが揃っていた。レンに桜火を連れ去った者達の話を聞いた時に思い浮かんだ顔ぶれと一緒だった。


「桜火さんを連れて行ったのはあなた達で間違いない?」

「おいおい。久しぶり会ったって言うのに第一声がそれかよ化け狐(ばけぎつね)


(相変わらず口の悪い女。名前は確かパルクだったかしら···)


「質問に応えてもらえませんか?」

「相変わらず(くれ)え性格してんな。お前、いったい何しに戻ってきたの?」

「パルク、あんまり挑発しないで。マダムに言われてるでしょ。ばかなの?」

「何だと! ネムお前はいつもばかにし過ぎだからな!」

「本当のこと。目の前の···。パルクのせいだから」


(この子達は若様を傷付けた。そしてトゥカさんも。許す必要はありませんでしたね)


 狐月は(おさ)えることなく気を開放していた。レンの前では一度も開放したことがなかった。なぜなら解放したその姿は、世界から()み嫌われた存在を連想させる姿だったからだ。

 黒いオーラのようなものを(まと)い狐月の背後には九つの尻尾(しっぽ)がゆらゆらと()れていた。


「おいおい。本当に化け狐(ばけぎつね)になってんじゃねーかよ···」

「パルク責任とって」

「無理に決まってんだろ。あんなの」

「おい二人とも集中しろ。一瞬でも気を抜いたら本当に死ぬぞ」

「言い残すことはありませんか? マーレはもう無いみたですが···」

「「「え?」」」


 マーレは狐月の殺気に当てられて既に気絶していた。元々は遠距離で攻撃するタイプなので近接戦闘向きじゃない。


「ま、まずいぞ。ドム! マーレを頼む!」

「分かった」


 二人がやり取りしているうちに狐月はネムの目の前に移動していた。すでに攻撃のモーションに入っている。ネムは避けられる体勢ではなかった。


「ネム! 使え!」


 パルクの掛け声でネムの周りに絶対障壁(アルカナダイス)が展開された。しかし「バギャン!」と激しい音ともに障壁は破られ、ネムはそのまま弾き飛ばされてしまった。障壁のおかげで威力は抑えられていたが、ネムはピクリとも動くことはなかった。


「どうなってんだよ···。ま、待て。は、話せばわかる!」

「寝言は死んでから言ってもらえますか? さようなら」


 パルクに攻撃を与えようとした時、狐月の後ろからドムが攻撃を仕掛けてきた。狐月は振り返りもせずに半歩分横に飛んで攻撃を(かわ)した。

 狐月はそのまま広げた鉄扇(てつせん)を、ハエでも振り払うかのようにドムの顔に叩きつけた。絶対障壁(アルカナダイス)を使う暇もなくドムは吹き飛ばされてしまった。


 狐月はゆっくりとパルクに近づいていく。


「若様に手を出したことを後悔しながらお逝きなさい」


 狐月が鉄扇(てつせん)を振り下ろしたが直前でその手を止めた。背後に誰か立っていたからだ。パルクは鉄扇が目の前で止まって気が抜けたのか、白目をむいてその場で倒れた。


「マダム···」

「久しぶりね。大きくなって···、会えてうれしいわ」


 狐月の後ろに立っていたのは白い祭服を着ていた。目には白い帯が巻かれていて視界をふさがれている。マダムと呼ばれる女はまるで狐月が見えてるように話しかけていた。

  

「ずいぶんと(きた)えてもらったみたいね。ふふ。この子たちじゃ遊びにもならなかったわね」

「マダム、なぜこのような事を···」

「知っているのになぜ聞くの?」

「それは···」

「受け入れられない?」


 狐月は苦しい顔をして、マダムに返事をすることが出来なかった。


「あの子を迎えに来たのでしょう? でもまだ帰すことはできなわ」

「なぜです?」

「それはあなたの目で直接ごらんなさい」


 そう言うとマダムは孤児院の方に戻っていった。いつの間にか担架を持った子供達がパルク達の運搬を始めていた。狐月はそれには目もくれず、マダムのあとについていく。




 孤児院の裏手には孤児院よりも大きな建物が出来ていた。

 中に入るとそこは小さな闘技場になっていた。少ない観客席にマダムは座った。それに(なら)って隣に座った。


 闘技場の中央には桜火が立っていた。腰の位置で両手を広げて、まるで誰かに抱きしめてもらうのを待っているかのように見える。


(桜火さん、無事でよかった。でもこれはいったい何をしているのでしょうか···。桜火さんであればこんなところ簡単に抜け出せるはずなのですが···)

 

 心を読まれているのか、マダムが狐月に話しかける。


「あれは魔力を消す稽古をしているところよ」

「稽古!?」

「そう。彼女は帰ることよりも強くなることを選んだの。理由は今のあなたならわかるでしょ?」


 マダムの言葉に、狐月は苦痛の表情を浮かべた。何を意味しているかを彼女は知っていたからだ。


「マダム···、本当に若様は死んでしまうのですか···」


 闘技場には狐月のすすり泣く声が静かに響いた。


いつも読んで頂きありがとうございます。


マダムの誕生が分かる短編を書きました。よかったらご覧下さい。


下の方にリンクが貼ってあります。


追放された忌み子は転生した女子中学生~追放した帝国に圧力かけまくって他国から聖女と呼ばれるようになった件~https://ncode.syosetu.com/n0175ir/

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