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紹介状

 冒険者ギルドを出た俺達はみんなでパルティアでも人気のある料理屋にいた。俺達に()けて大(もう)けした二人がご馳走してくれることになったのだ。


「今日は好きなものを頼んでください。みなさんのおかげでクエストも達成できたし、こんなに(かせ)ぐことができましたから」


 ふところが暖かくなったメイフィスがメニューを広げてすすめてきた。俺達は遠慮なく頼むことにした。


「それよりあなたすごいのね。ビクターが手も足も出せてなかったわ。いつもあいつにばかにされて···。私、すっごい気分が良かったんだから」

「普通だと思いますけど···。私はまだまだ弱いほうですし。ねぇレンさん」


 多分この世界では普通ではない。この世界では剣と魔術の技術が(ひい)でている。俺が教えている技術はこの世界ではまだ未発展だ。『気』という概念がない。メルはビクターの気を読んで全ての攻撃を(かわ)していたのだ。


「普通って···。ビクターはBランクですよ。メルさんまだ若いのに本当にすごいわ」


 冒険者登録の時に知ったのだが、メルは俺よりも歳がひとつ上だった。見た目はかわいらしい女の子なのだが···。

 俺やメルは普通の冒険者から見たら、まだまだ子供だ。ビクターのようなベテラン冒険者に勝つことの方が異常な光景に見えたらしい。


「ランクを上げるのは大変なんですか?」

「正直言って普通に上げるのは難しいですね。各ランクには昇格試験があって、それを受ける為にも実績が必要になります。

 そもそもDランクに上がるのに時間がかかり過ぎるんです。試験を受ける実績作りの条件も多いし、難易度も高く、単独でやっていくには無理があります。パーティを組もうにもEランクなんて誰も相手にしてくれなくて···」


 ラスクの話を聞く限り、実力がないと冒険者はやっていけないようだ。別段ここのランク評価のシステムもそんなに悪くない気がする。昇格試験がどういうものか気になるが、実績を作るのは実力をつける為だろう。

 ほとんどの冒険者が一攫千金(いっかくせんきん)を目指してギルドに加入するが、その大半が実力がなくEランクで辞めていく人も少なくはない。二人ともすでにやる気をなくし気味になっていた。


「私達もランクを上げて、もっとたくさんの人の為に頑張りたいんだけど···」

「ランクよりも実力をあげていったらどうですか? きっとランクはあとからついてくると思いますよ。メルがそうですから」

「実力ですか···」


 ちょっときつく言い過ぎたかもしれないけどそれが事実だ。ランクをあげることばかりに目を向けると、どうしても実力を伸ばすことを(おろそ)かにしてしまう。二人もそれは分かっているようだ。

 問題は実力を伸ばすための手段がないという事だ。いくらクエストをこなして実績を伸ばしたとしても実力が大きく伸びる訳ではない。時間がかかるのは当然だ。


「二人ともエルミナの冒険者ギルドに行ってみてはどうですか?」

「エルミナですか!? でもあそこの国の冒険者ギルドは評価が低いと聞きます···。行ったとしても冒険者としての実力が上がると思えないのですが···」

「今はギルドマスターも変わって評価制度も全部見直されたらしいですよ。今のエルミナの冒険者ギルドには二人を成長させることが出来る環境があるように思えます」

「成長···ですか?」

「はい。半年もあればビクターなんか相手にならないと思いますよ。思うにお二人に足りないのは実戦だと思います。エルミナの冒険者ギルドにはそれがあります。

 もし本当に冒険者として生きていきたいのであればエルミナ王国に行くことをお勧めします。紹介状も用意しましょう」

「ほ、本当ですか!? わ、私行きます!」

「メイフィス! そんな勝手な!」

「ラスクはこのままでもいいの? 家族が···、家族がまた魔物に(おそ)われた時に守れなくても···。その為に冒険者になろうって決めたんじゃないの? 私は嫌。もうあんな思いはしたくない···」

「メイフィス···」


 どうやら覚悟は決まったようだ。俺は二人に紹介状を書いた。パナメラに見せればすぐに対応してくれるだろう。これでエルミナ王国の冒険者がまた増える。


 その日はラスクとメイフィスのおごりで夜まで(さわ)いだあと、マルクスの紹介してくれた宿に向かっていた。


「ねぇイーファ。あれ何だと思う?」

「理由は知らんが、冒険者ギルドからずっとついて来ている」

「また面倒なことにならないといいけど···」


 こういう時の予感はよく当たる。

 道の角を曲がると泊まる宿が見えてきた。その時にはすでに、さっきまで俺の隣にいたイーファの姿はなかった。


(あ、あれ!? 一人いなくなってる? いったいどこに行ったでやんすか?)

「俺達に何のようだ?」

「ひょえッ!?」


 フードを深く被った人物が(おどろ)いて声をあげた。俺達を尾行していたのに、いつの間にかその対象だった一人が後ろに立っていたからだ。イーファは返事があるまで無言で圧力をかけていた。もちろん本人に自覚はない。


「あわわわわわわわ···」




 宿の部屋には俺とイーファ、メルが並んで立っていた。その前で男が(ふる)えながら正座している。宿に着く前にイーファが首ねっこを(つか)んで連れてきたのだ。


「それで? 僕達に何か用でもあるの?」

「う、うぅ···」


 男はイーファに完全にビビっていた。イーファはあまりしゃべらないから無言で(にら)まれるとそれだけで怖い。話を聞くまで時間がかかったが、何とか名前を聞くとこまでこぎつけることができた。


 男はラルフと名乗った。ついてきた理由は冒険者ギルドでの立ち合いを見て、メルの強さを知ったからだそうだ。しかし、俺達が一番知りたいのはその先だ。強いやつなら冒険者にいくらでもいる。


「強い人なら冒険者にいくらでもいるでしょう。なんで僕達なんですか?」

「···冒険者ではだめなんでやんす。あいつらはお金の事ばっかりで···。どんなに困っていたってただでは動いてくれないし···。強い冒険者ならなおさらでやんす。それに···、俺の話なんて誰も···」

「冒険者も仕事ですし、ボランティアじゃない。依頼料がかかるのは仕方ないことだと思いますが···。一応話だけでも聞かせてもらえないですか?」

「···え? 依頼を受けてくれるんでやんすか?」


 誰も依頼を受けるだなんて一言ってないでやんす。どんだけ都合が良い耳してんだ。このまま外に放りだしてやろうかと思った。


 ラルフはこっちの思いも無視して勝手に(しゃべ)り始めた。


「おいらの(ねぇ)ちゃんは、反王国勢力(レジスタンス)に加盟しているでやんす。王国は秘密裏に他国の侵略を進めている、それが反王国勢力(レジスタンス)の考え方でやんす」

「侵略!? 何か根拠でもあるんですか?」

(うわさ)の域を出ないのでやんすが、王国側は他国から人を(さら)って人体実験をしているみたいでやんす」

「「「!?」」」


 思わぬところから重要な話が飛び出してきた。まさかレザリア王国に入って最初の街で、目的の情報に触れるとは思わなかった。

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