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異世界道場発足

 炎帝の民の村についてひと騒動があってから、一日が過ぎた。人(さら)いにあってから昨日の夜の間に色々あって、疲労が溜まっていた俺達はひとまず休ませてもらうことにした。


「お兄ちゃん、おはようございます」

「おはようシュリちゃん。具合はもう大丈夫なの?」


 シュリは焔の殺気に当てられて、息はしていたものの、焔の治癒魔法をかけても中々意識を戻さなかった。本当に危なかったと思う。焔は反省していたが意識がなかったのだから仕方がない。その代わり一晩中彼女を見守っていてくれた。眷属のことといい本当に面倒見が良い。


「シュリでいいよ。焔お姉ちゃんのおかげで元気だよ」


 焔のせいなんだけどね。それにしても焔お姉ちゃんときたか。シュリはとても人懐っこいのだろう。昨日は色々あって緊張してたしね。


「シュリはこれからどうしたい? 家族はいるの?」

「···うん。いるよ」


 ん? 何だか急に表情が曇ったな。これは何かあるのかな?


 家族は王都の近くにあるロナという町に住んでいるらしい。父母ともに健在で、上には二人の兄がいるようだ。一応家族の話は明るく話してくれた。できることなら帰りたいとのことだった。


「この後、今後の対応について話し合いがあるから、シュリも一緒に参加しようか。少し遅くなるけど王都には行くことになると思うから、一緒に連れて行ってあげるよ」

「うん。ありがとうお兄ちゃん」


 お兄ちゃん。この言葉を聞くたびに妹のことを思い出してしまう。俺は妹に対し、兄としての責任を果たすことができなかった。もう会えない妹の事を考えると急に涙が出てきた。


「どうしたのお兄ちゃん?」

「ううん。ごめんね、なんでもないよ。目にゴミがちょっとね」


 子供の前で情けない。今はこの子たちだけでも何とかしよう。そう心に決めた。


 縁側でシュリと話をしていると炎帝の民の子供達が剣術の稽古(けいこ)をしていた。木製の剣を使い打ち合っている。職業病だろう。見てるだけでうずうずしてきた。「ああ違う。もっとこう」独り言のように呟いていると、シュリに笑われてしまった。


「お兄ちゃんそんなに気になるなら教えてきてあげれば?」


 え? いいの? 別に許可はいらなかったが、シュリが行けというならと勝手に解釈を歪め、子供たちのところに向かった。シュリも後ろからついてくる。


「君たち。剣術がうまくなりたいのかい?」

「当たり前だ。俺は強くなって炎帝様のお力になるんだ」

「僕も強くなる」


 二人はポルンとルカという。最初に話した気が強そうな子がポルンで、少し気の弱そうな僕っ子がルカだ。二人ともシュリと同じくらいの子供なのに、昨日の一件でエルグ同様、誓いを立てていたらしい。焔、いい眷属に恵まれたな。


「俺が教えれば同年代の子には負けないよ。そこら辺の大人にだって勝てるんじゃないかな」

「ほんとかよ」「ほんとですか」


 二人ともめちゃくちゃ食いついてきた。


 もちろん大げさではない。光月家の少年の部では、一般の剣術大会で大人の部に混ざって入賞する子も多くいた。それだけ光月家の武術は優れている。

 ただし、それだけではない。稽古は非常に厳しいのだ。入門しても数日で根を上げるものがほとんどで、本家で鍛錬をするものは数えられるくらいの者しかいない。ほとんどが分家の教室レベルの稽古についていくのがやっとである。その分家ですらも他の流派に比べれば相当に強いのだ。


「俺の修業は厳しいぞ。お前達についてくる覚悟はあるか!」

「当たり前だ!」「やるよ僕」

「違う! 返事は『はい!』だ! それ以外は認めない!」

「わ、わかった「違う!」

「「「はい!」」」


 あれ? 声が一つ多かったような。ん? シュリちゃんや、二人に並んで何をやっているのかな?


「お兄ちゃん。私にもお願いします」

「分かった。これから稽古の時は師匠と呼ぶように!」

「「「はい! 師匠!」」」


 シュリの参加は想定外だったが、異世界道場が今生まれたのであった。門弟(もんてい)現在三人。


 とりあえず、三人には基本的なことを教えた。本格的な稽古の前に基礎体力と、基礎の型を教えそれをひたすら反復して行わせる。型に関しては徹底的に指導をする。寸分の狂いもなくなるまでひたすら型をやり続ける。


「ポルン、腕が上がりきってない。ルカは降ろすとき軌道がぶれてる。シュリは良し!」

「「!?」」

(おい、ルカ。師匠はシュリに甘くないか?)(うん。)


 聞こえてるぞ二人とも。まあ確かに甘いが、実際問題すじは良い。型を守る、教えを守ることは素直さと、堅実さがとても大切である。シュリは特に言ったことをきちんと守り、やりきろうとする。俺の言葉を信じ、言われたことの先に何かがあるのだと分かっているかのようだ。


 シュリはたった一晩だが、賊から逃げ出し、炎帝を相手にし、炎帝の民の村にまでたどり着けたのは、俺がいたからだと思っているようだ。ほとんど俺のことを知らないポルンとルカとは違うらしい。


 稽古が始まり既に三時間が経っている。三人ともすでに腕が上がっていない。これ以上は型が崩れて意味がなくなるので基礎体力の稽古にメニューを変更した。お昼ご飯の声がかかるまでひたすら走ることになった。


「レン。何をやっとる」


 今頃になって焔が起きてきた。


「焔の為に強くなりたいっていう子供達に剣術を教えてんるんだよ」

「何? 剣術をか? ワラワはまだ何も教わっていないぞ!」

「え、焔、門弟になりたいの? 俺が教えるってことは師匠って呼ぶことになるけど良いの?」

「な!」

「いやならいいんだよ」

「···し、師匠」

「声小さっ。冗談だよ。光月焔を名乗ったんだろ。名乗る以上は光月の名を汚さないようがんばってもらわなくちゃね。頼んだよ門弟第一位の焔様」


 焔は顔を真っ赤にしてニコニコ喜んでいる。何百年も生きていても子供みたいな感性が残っているみたいだ。わがままだが憎めない。これで光月道場の門弟は四人になった。


「そうだ焔。焔に剣術を教える前に刀が欲しいんだけどこの村に鍛冶師っているのかな?」

「村の道具を作る鍛冶師はおるが、刀とはなんじゃ?」

「俺が元いた世界で使っていた武器で、日本刀って言うんだけど作れないかなって」

「ほう。レンが使っていた武器か。それは興味深い。あとで鍛冶師に来るように伝えておこう」


 焔と話していたら、セリナがみんなのことを呼びにきた。子供たちにとっては待望のお昼ご飯だ。三人ともフラフラになりながら戻ってきた。


「皆さんどうしたんですか?そんなに疲れて」

「「はい!」」


 ポルン、ルカ、そこは普通に返事していいんだよ。でもたった数時間でこの反応は良い傾向だ。シュリはいたって冷静だね。午後からは話し合いが行なわれるので初日の稽古は終了することにした。三人に明日からも続けるか確認したら。今度は三人で元気よく「はい!」返事した。光月道場は初日で潰れることなく続いてくれそうだった。

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押してくれた方、またここまでお付き合いして頂いた方、本当にありがとうございました。

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