【別視点】それぞれの動き
【別視点狐月】 アールスフォード帝国
狐月はエルミナ王国の西大陸にあるアールスフォード帝国にいた。目的は一つ拐われたとされる桜火を連れ戻すためだ。
「まさか、こんな形でここに戻ってくるなんて」
狐月は丘の上からアールスフォード帝国を見下ろしていた。帝国はエルミナ王国の何倍もの広さがあった。一つの領土だけでもエルミナ王国に匹敵する広さがあった。
いくつもの領土があり、一番奥にその帝国の首都が広がっていた。
首都の手前に小さな村があり、そこには小さな孤児院があるのが分かる。狐月はそこをじっと見つめている。狐月の目的地だ。
「今行きます。待っていてください。桜火さん」
狐月は目的地に向けて丘を下っていった。
***
【別視点 桜火】 アールスフォード帝国某所
200人分ほどしか観客席がない闘技場で、向かい合う二人の姿があった。その片方が武器を片手にもう一人に襲いかかった。
「うあぁぁぁ!!」
叫びながら刀を振るっているのは桜火だった。その相手は桜火の猛攻を全て躱していた。
「あらあら、そんなに声を出して···。あなたの師匠はそのような指導をしているのですか?」
「くッ!?」
桜火の相手は白い祭服に、十字架のような武器を手にしていた。両目は眼帯で覆われていて視界を奪われていた。
数少ない観客席にその立ち合いを見ている者たちが居た。
「なあ、本当にマダムは目が見えていないのかな? なんであいつの攻撃をあんな簡単に躱せるんだ?」
「マダム最強。パルクが弱いだけ」
「お前も全然躱せてなかったじゃねーかよネム!」
「二人ともうるさい。また飛び火がくるだろうが」
観客席にいる3人は喋りながらとはいえ、二人の立ち合いから一切目を離さなかった。
マダムと呼ばれる女の動きには一切の無駄がなかった。桜火の攻撃を全て紙一重で躱し続けている。桜火の攻撃も休むことなく続いた。
「あたなの動きはこの世界でも十分通じるでしょうが、気の使い方がもったいないわ。あなたの師匠はまだ気がづいていないのかしら?」
「お兄ちゃんより気の使い方がうまい人なんている訳ない!」
桜火の一言でマダムの雰囲気が変わった。何かの言葉が引っ掛かったみたいだ。
「なら少しだけこの世界の気の使い方を見せてあげましょうか」
マダムがそう言うと桜火は攻撃をやめマダムから距離をとった。
(なに!? 急に気配が···。気配が消えたわけではないのにまったく感じない? 気配が···止まってる? いったい何が起こってるの?)
桜火は混乱していた。トゥカが気配を消した場合、視界に入れることさえできなかった。マダムの気配は消えていない。実際に目で捉えている。なのに気配を感じない。目の前にいるのにそこにいない、そんな感じだった。
桜火が混乱していると、いつの間にか自分の顎を撫でられいるのに気づきその場から飛び跳ねて逃げた。
「明鏡止水。私の得意技の一つなの。止まって見えたでしょう。不思議よねぇ。分かるかしら。今のが実戦だったらあなたは死んでいたのよ。
あなたは何の為にその力を手にしたの? ただ強くなるため? あなたの覚悟はそんなものなのかしら? 今のあなたに桜火を名乗られたら、あの人の妹はどう思うのかしらね···。どう思う桜火ちゃん?」
マダムは持っていた武器を抜いた。十字架に見えていた長い部分が鞘になっていた。そこから日本刀の刃が現れ、マダムは震える桜火にその刃をつきつけた。
軽く振り上げ、刃はゆっくりと桜火の左肩に降ろされ、ちょうど顔の横でぴたりと止まった。
マダムの日本刀の刃を見つめた桜火は、刃に映る自分の顔が目に入った。刃に映る桜火の目からは涙が流れていた。そして刀の柄の方に視線を滑らせると、漢字が刻まれているの気づいた。
(なんで? その漢字が···?)
桜火が呆けた顔をしていると、マダムが刀をあげて鞘に戻した。
「1カ月猶予をあげましょう。あなたが本当に桜火を名乗るというなら、それを証明ししてみせなさい。もし証明できないのなら···、あなたの命はあと1カ月ということになります。せいぜい精進することです」
マダムはそう言って、桜火を置いて闘技場から出ていった。
「おいおい、あいつバッキバキに心折られてんじゃん。もう無理じゃね?」
「うん、パルクだったら絶対に再起不能だった」
「お前何? 敵なの? 私の敵なの?」
「おい、二人とも見てみろ」
観客席にいた三人は桜火を見た。その目は死んでおらず、口元には笑みすら浮かべていた。桜火の心は折れていなかった。逆に何かに気づいて覚悟が決まったようだ。そうなった桜火は欲求の塊となる。学びという欲求の···。
その日から桜火の命をかけた1カ月が始まった。
***
【レザリア王国】 レザリア王国王城
「ストロノース陛下。帝国の聖女に動きがあったようです。例の女との接触が確認できました」
レザリア王国の王城、国王謁見の間で、王国の諜報員が膝をついて報告していた。
「そうか。レイはどうしている?」
「レイフォード殿下におかれましては、力の顕現化に成功しました」
「やっとか···。何人無駄にしたことか。まあよい、顕現化が成功したなら計画に移すとするか···」
ストロノース国王が諜報員に合図を送ると、諜報員は一瞬で姿を消した。
「ふふふ、あの聖女が動いたか···。ふふふ、···はっはっはっはっ!」
謁見の間では、一人になったストロノースの笑い声が不気味に響いていた。
【お知らせ】
第2部は3月4日12時頃にスタート致します。
第2部からも毎日投稿致しますのでこれからも「モンツヨ」をよろしくお願い致します。
【読者の皆様へ感謝】
数ある作品の中からこの小説を読んで頂き、そしてここまで読み進めて下さり本当にありがとうございました。皆様のおかけで続けていくことができます。
「面白い」 「第2部」 「まぁ、もう少し読んでもいいかな」
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これからも「モンツヨ第2部」も毎日更新しながら、しっかり完結まで続けさせていただきます。引き続き「モンツヨ」を宜しくお願い致します。