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ギルドマスター

「なんやあのバケモンは···」

「ステインさんでしたっけ? なぜ止めに行かなかったんですか? あれが刃のついた武器だったら確実に死んでましたよ。あなたなら一目見て力の差が分かったでしょう。

 守るんじゃなかったんですか? 次は本当に誰か死ぬかもしれませんよ」


 俺がイーファに目で合図すると手に持っていた氷の棒が氷剣に変わってゆく。冒険者達の顔が絶望に変わっていくのが分かる。誰もが一瞬にして死を連想してしまったのだ。


「待て! おいあいつを()めさせろ。君の知り合いなのだろう」

「だから何です? 言ったでしょう僕はこのギルドを力づくで解体すると。あなたも守ると言ったじゃないですか」


 その言葉を聞いてバスクーダが俺に斬りかかってきた。しかしその攻撃も焔の手によって簡単に(ふせ)がれてしまった。


「こっちを倒せばあっちが止まるとでも思ったか? 安易なことじゃ。腑抜(ふぬ)けは黙って消されるがよい。ほれ、見てみよ。一人目じゃ」


 バスクーダとステインが俺達に気を取られているうちにイーファの前に一人の冒険者が倒れていた。さすがの状況にバスクーダが動いた。


「手ぇかせやステイン」

「私に命令するな」


 二人が一斉にイーファに向かっていった。イーファは二人の攻撃を受けながら、今度は氷の魔法を他の冒険者に放つ。


「お前らはいったいなんや? なんで俺らの邪魔するんや!」

「邪魔? 邪魔をしているのはお前らの方だ。とレンが言っていた」


 イーファは顔色一つ変えずにエルミナ王国のトップ冒険者を手玉に取っていた。二人に構わず他の冒険者に次々と攻撃を浴びせていく。


「本当に弱いな。これではギルドマスターどころか、ここの住民も守ることはできないな」


 イーファは攻撃の手を止めて二人を()り飛ばした。二人は俺の前に座り込んでいる。すでに戦意を喪失(そうしつ)していた。

 当然だろう、あっとう的な力の差をあれだけ感じさせられたら誰でもそうなる。でもそれではだめなのだ。


「なぜ座ってるんです。あきらめるんですか?」

「「······」」


 こんなものか。案外はやかったな。ルーカスならこうはならなかっただろう。少なくとも他の冒険者が傷つくことはなかったはずだ。


「···なんでこんなことするんや」

「あなた達は弱い。それでどうやって人を守るんですか? 何よりも覚悟(・・)が全く足りていない。そんな状態でギルドの看板を背負ってもらっては困ります。

 それは冒険者たちも同じです。一人一人がギルドの看板を背負ってる。ギルドマスターはその(おさ)だ。あんまり組織の長をなめないでください」


 本来なら口出す問題でもなかった。しかし、この国にも仲間がいる。何よりテスタの力にもなりたい。それには冒険者ギルドは必要不可欠な存在なのだ。関わる以上は半端はなしだ。


「これでここの冒険者ギルドは終わりです」

「なんやと···」


 バスクーダが辺りを見渡すと、残っていた冒険者が全員倒れていた。

 イーファが伸ばした腕の先には、先ほどまで隣に座り込んでいたステインが(つか)まれていて、イーファがその手を離すとステインはその場に倒れ込んだ。どうやら気を失っているらしい。


「僕は今日から新しい冒険者ギルドを立ち上げます。あなた達は明日から軍の仕事でもしていて下さい。冒険者ギルドから外されても旅団長の資格は残るはずです。どうしても人を守りたいなら軍で守ればいい」

「お前にそんな権限があるわけないだろう」

「権限ならありますよ。エルミナ王国の女王、テスタロッサ・エルミナ女王陛下に許可は頂いています。(うそ)だと思うなら自分で確認してみてください」


 俺はここに来る前にテスタに全て話を通していた。今の冒険者ギルドを解体し、新たな冒険者ギルドを立ち上げることを。

 テスタは二つ返事で了承したが、一つだけ条件を付けたのだ。新しい冒険者ギルドのマスターを誰がやるか···。


「新しい冒険者ギルドに文句があるのなら言ってください。いつでも相手になりますよ。

新しい冒険者ギルドのマスターは僕ですから」


「レンさんが···ギルドマスター···?」


 一部始終を見ていたクリスが声を漏らしていた。

 パナメラは泣き崩れて他の受付嬢に支えられている。泣いていても顔にはいつもの笑顔があった。


 バスクーダは床に倒れて腕で顔を(おお)っていて、その腕は微かに震えていた。


「わいだってじじいの後を継ぐつもりやった···、それやのに···」


 分かってる。お前が悪い訳じゃない。だが、お前がギルドマスターになるのは今じゃない。ルーカスの背を追うだけじゃだめだ。それに気づいて、お前の本当の強さを見つけるまで俺が預かっててやる。だから早くここまで登ってこい。


 俺はバスクーダを置いてその場を離れた。


「イーファ、ごめんね。嫌な思いをさせちゃったね」

「別に誰も死んでない(・・・・・)から問題ないだろ。それにあいつがもう治してる」


 振り返ると焔が治癒魔法を全員にかけていた。イーファもほとんどが気絶する程度の攻撃しかしていなかった。

 俺はパナメラの元に行き謝罪をした。


「何も言わないで、勝手にやってしまってごめんなさい」

「いえ、全部私達の為にやってくれたことなんでしょう? これからもよろしくお願いします。

ギルドマスター(マイマスター)

「ッ!?」


 パナメラは頬を染めている。最後の一言は俺にしか聞こえないように言っていた。焔は何やら(にら)んでいるが放っておこう。きっと聞こえていない。ここに桜火(おうか)狐月(こげつ)が居なくて助かった。


 俺達は冒険者ギルドを離れ、一度孤児院( ハウス )に戻ることにした。




 孤児院( ハウス )にはパナメラと他の受付嬢と、冒険者の『ソルティア』のメンバー全員がついてきた。

 新しい冒険者を設立することに対して、ちゃんと話をしておく必要があった。旅団員も集め全員での話し合いが始まった。


 最初に発言したのは『ソルティア』のメンバーだった。多分一番状況が分かってなく連れて来られて、聞きたいことが山ほどあるようだ。


「さっそくですが、新しい冒険者ギルドは分かりますが、レンさんがギルドマスターというのは本当ですか?」

「なんじゃ? 不服か? 桜火と狐月が居なくて良かったな。いたら今頃床の上に転がっていたぞ」

「え···!?」

「焔、変な事言うなよ。

 クリスさん、ごめんなさい。気にしないでくださいね。僕がギルドマスターをやることは女王陛下からの指名なので許してください。やるからには誰にも恥じることのないように努めますからご安心ください」

「いや、私も失礼なことを言ったようで申し訳ない。ただ状況が飲み込めず困惑しています」

「そうですよね。他の皆さんも突然連れてきてしまって申し訳ありません」

「なぜ私達は連れて来られたのでしょうか?」


 質問してきたのは魔導士のモリンだった。モリンは黒のとんがり帽子にメガネをかけた、いかにも魔導士といった恰好(かっこう)をしていて、紫色の髪をした女性だった。なんか少し色っぽかった。


「それは、この国に必要な冒険者ギルドにとって、大切な冒険者としての意思を持っていたからです」


 俺は冒険者ギルドでクリスと話した時に『ソルティア』のメンバーを新しい冒険者ギルドの第一号冒険者にしようと思ったのだ。どの冒険者も目先の事しか考えていなかったが、クリスたちは国民のことを第一に考えていた。

 もう一度冒険者としての在り方を『ソルティア』から受け継がせようと思ったのだ。


「でも、あれだけの冒険者を一度に手放してしまったら、困るのはこの国に住む国民なのでは···?」

「確かに、アタイらも5人しかいないから手が全く足りないよ」


 次に発言したのは大型タンクのパラックと、シーフのアイリーンだった。二人が心配するのも無理はない。今のところ冒険者は5人しか決めていない。それにこの5人ですらもすぐに冒険者として登録させるつもりもなかった。


「受注システムは受付のみなさんが全員残ってくれているので問題ありません。しばらくの間は、依頼の全てを光月(こうづき)旅団で対応します」

「びっくり仰天(ぎょうてん)、ここにいるの、ほとんど、ギルマスよりも、若い、子供」


 おっとりと変わった喋り方をするのは剣士のマイルだった。マイルは見た目では性別が判断できなかった。マイルの言った通り王都に残った旅団のメンバーはほとんどが光月村の若い子供だった。


「そうですね。半分は僕より若いかもしれません。それでも全員が、今の(・・)『ソルティア』のみなさんより強いと思いますよ。

 みなさんの中で一番強い方はどなたですか?」

「それは、リーダーのクリス、ランクA、(くさ)っても、リーダー、多分」

「なんだ最後の多分って···」

「まあ論より証拠です。実際に感じてもらった方が早いと思います。ナバルさん」

「今の戦績表から考えるとティルクが適任かと」


 ナバルはレオの時の流れを知っているので、戦績表の中で一番成績の低いメンバーを選んだ。俺よりも若いと言ってもポルンとルカ達と同じくらいの年齢だ。

 みんなで外に出て立ち合いを行った。この流れ、何回目だろう。きっとこれからも続くことだろう。

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