魔の迷宮
家族会議はセリナの報告に移っていた。情報収集は月光が主に行っているので、セリナがまとめて報告することになった。
今回の事件で分かったことは、誘拐犯の組織は少なくとも二つ存在した。一つはネックレスを持っていたルーカスの組織、もう一つはオクロスという組織だったことが分かった。
オクロスの事が判明した理由は、王城でルーカスがアルフレッドに話していたのを、月光のルイダという獣族の子が聞いていたからだ。
セリナに報告したルイダは、トゥカを止めることが出来なくて悔んでいた。その場に誰が居てもトゥカの気配に気づける者はいないだろう。ルイダに責任はない。
テスタはルイダが責任を感じてることに気づいたのだろう。俺が声をかけるよりも早く、ルイダに向かって話しかけていた。
「ルイダさん。あなたが居なければ誰も真実にたどり着くことは出来なかったでしょう。父の最後の言葉を持ち帰ってきてくれてありがとうございます。どうかこれからも力を貸してください」
「はい! もちろんでございます!」
ルイダは力強く返事した。テスタの言葉で悩みも後悔も消えたようだ。テスタの力になることが自分にできることだと思ったようだ。テスタの言葉が無ければ、ずっと悔いが残っていただろう。
立ち止まった足を前に出すには目的を持つのが一番だ。テスタはそれをルイダに与えたのだ。
「話を整理すると、私達が探していた賊の正体はオクロスで間違いないでしょう。表向きは希少種族の人身売買に見せかけ、実のところは落神の継承者を探しているようです。
ルーカス達が亜人の村を襲撃した件ですが、住民はみんな避難できていて被害者はいなかったようです。
今後はオクロスを賊と断定して調べていきます。ルーカスの件は···」
少し言いづらそうにセリナは俺の方を見た。俺はそのまま話を引き継ぐことにした。
「ルーカスの件は一先ず俺に任せてほしい。とりあえずは桜火の救出が最優先だけど、それも狐月に一任し、信じて待とうと思ってる。月光には引き続き情報収集を欠かさず行ってもらいたい」
それから、ルーカス達が持ってた武器は日本刀に類するものだと思う。これに関してはロイドさんから話しを聞いて欲しい」
ルーカス達が使っていたのは間違いなく日本刀だった。それをベレンに伝えたら早急に対策を考えると言ってくれた。
「光月村にいるベレンから連絡があって、日本刀に漢字を刻印するには、今の材質だと弱すぎるとの事でした。
そこで、皆様に採取してきて欲しい素材があるそうです」
「素材?」
「はい。ベレンが言うにはミスリル鉱石が必要だということです」
ミスリル鉱石。噂には聞いたことがある(現世)、強力な武器を手にするには避けては通れないアイテムだときく。しらんけど。
「ただ、ミスリル鉱石を採取するにはダンジョンに入るしかありません」
「ダンジョンッ!?」
ダンジョンがあるのかこの世界にも。俺はなぜ教えてくれないという意味を込めて焔を見た。焔はサッと視線をそらした。
あいつ何か知ってたな。
ロイドが代わりにダンジョンについて話してくれた。
ダンジョンは魔の迷宮とも呼ばれていて、各大陸に存在が確認されている。
魔の迷宮が生まれた理由は分からないが、そこでは希少な素材が手に入ることで知る人の中では有名な話だ。
しかし、魔の迷宮には普通の場所よりも多くの魔物が出現するので、力のある者でないと入ることは出来ないようだ。
後からパナメラに聞いた話だが、昔はクエストとしても多くの依頼があったみたいだが、死者が多すぎて今は受け付けていないみたいだ。
エルミナ王国の冒険者にとって、炎帝の森ですら、攻略がままならないのに、魔の迷宮など夢のまた夢の話だ。
「確か炎帝の森にも一つ魔の迷宮があったと思います」
「おいロイド!」
ロイドがうっかり口にしてしまった。焔がロイドをたしなめるももう手遅れである。
「焔、おまえ何か隠してるだろ?」
「ば、ばかを言うな。ワラワがレンに隠し事などするはずがなかろう。はは、ははははは···」
嘘がヘタなのは全員が知っている。間違いなく何かを隠している。
「ロイドさん、炎帝の森の魔の迷宮でもミスリル鉱石は取れるのかな?」
「最近では魔の迷宮に入った者の方が少ないので何とも言えませんが、可能性はあると思います」
「よし、じゃあ焔にはそこでミスリルの採取に行ってもらおう」
「なぬーッ!? ワラワ一人でか!?」
「誰か連れてってもいいよ。俺は別に行くところがあるから」
「そ、そんな···。ワラワを置いていく気か!」
「桜火も狐月も今は一人なんだから、焔もたまには一人で行動してみたらどう? それとも何? 俺が行って攻略してもいいの?」
「ぐぬっ! そ、それは···。わ、分かった。ワラワがミスリル鉱石を取ってくる···」
よっぽど俺を行かせたくないみたいだな。いったい炎帝の森の魔の迷宮には何があるのだろう。こんどこっそり行ってみようかな。
焔は俺としばらく離れるのが嫌なのか、かなり落ち込んでいた。
「それで、レンさんはどちらに向かわれるのですか?」
「僕とイーファでレザリア王国に行こうと思います」
「なぜレザリア王国なのですか?」
「最初に僕らが人拐いにあった時、その移送先がレザリア王国のスイブルという町だったんです。そこでは多くの拐われた被害者を救出しました。
もしかしたら、オクロスと関係があるんじゃないかと思ったんです」
「···スイブルって、確か赤い魔物が出て町を半壊させられたというあのスイブルですか?」
テスタの言葉で全員が焔を見た。世間ではあの騒動が魔物の仕業で広まっていたようだ。テスタはみんなの視線を読み取り「なるほど、焔さんが」と言って勝手に納得していた。
焔はミスリル鉱石の採取、俺とイーファでオクロス捜索、ナバルと旅団員の半分が王都に残り、本拠地の強化を行い、残る旅団員は光月村に戻ることになった。
今後の方向性が決まり、家族会議も終わろうとしていた時、ローラが来客を連れてきた。
「レンさん。お話し中申し訳ありません。パナメラさんがお見えになっているのですが通しても宜しいでしょうか?」
「パナメラさん? 何だろう? だいたい話も済んだし大丈夫だよ。テスタさんも良いですか?」
「私は構いませんよ」
それを聞いてローラはパナメラを呼びに行った。
俺達はもう一つの問題を忘れていた。パナメラといったら、冒険者ギルドだ。ルーカスが居なくなった今、新たなギルドマスターを決めなくてはならなかった。
この後俺達は、新たな旅立ちの前にもうひと騒動起こすのであった。