【別視点】エルミナ王国女王出撃②
門が開くとすぐに兵士が流れ込んできた。孤児院の子供達や、女性陣が避難者の誘導を行っていた。
人ごみに紛れて魔物が数体入ってきた。ポルンとルカはそれを見逃さず次々と倒していく。バスクーダの横を魔物が通り過ぎようとした時、「バチン」と音が鳴って魔物が黒焦げになって倒れていた。
「ボン達、ここはワイに任せて王女さんについてきー」
「はあ? なんで?」
「ワイは護衛向きじゃないんや。ここで王女さんに死なれてみぃ。夢もへったくりもないやろ。ここはワイ一人で十分や」
「ポルン、僕はこの人に任せてもいいと思う。それに師匠ならテスタさんを守れってきっと言うんじゃないかな」
「はいはい、分かったよ! あんた、もし誰か一人でも死なせたら許さないからな!」
「おーこわ。怖いからはよ消えてー」
「こいつ!」
「ポルン! テスタさんが出るよ!」
ポルンとバスクーダがじゃれ合ってる間にテスタが動き始めた。ミラージを先頭に、そのすぐ後ろを、護衛騎士に囲まれたテスタが馬に乗って進軍している。ポルンとルカはすぐにミラージの後ろに付いた。
「いいかお前ら、死んでも女王陛下をお守りしろ」
「任せろ!」「分かりました!」
ミラージがポルンとルカに指示を出した後、外から門の内側へと逃げようとしている兵士に大声を上げた。
「道を開けろ! これよりエルミナ王国の女王、テスタロッサ・エルミナ女王陛下が出陣する! 逃げたい腰抜けは門の内側へ進め! 王国の為、世界の為に我こそはと思う奴は女王陛下の後に続けえ!!」
ミラージの怒号のような声で、門周辺の空気がビリビリっと振動するように揺れた。逃げる兵士も、戦っている兵士も全員が動きを止め、護衛騎士団が掲げる旗を見て、その中心にいるのが、先刻まで行方が分からなくなっていたテスタだと分かった。
「テスタロッサ様だ···」「女王陛下?」
テスタに気づいた兵士たちが次々と呟く。多くの兵士は、王族のテスタに対しての忠誠心が厚い。心配していた兵士もいれば、待ち望んでいた兵士も少なくない。
みんなアルフレッド・エルミナ国王の死後、心のよりどころを失っていたのだ。
ミラージはそんな兵士達を気にもせずに進軍を始めた。兵士の動きが止まった一瞬の隙を抜けて魔物が襲いかかってきた。
ミラージは剣を一振りして魔物数体を消滅させた。さすが王国騎士団の副総長といったところだろう。そしてミラージは警告を発した。
「女王陛下はこれより敵の本拠地に向かう! 敵であろうと味方であろうと邪魔なものは容赦なく斬り捨てる! 斬られたくなければさっさと道を開けろ!」
2度目の怒号でミラージの前に道が開けた。
テスタの護衛騎士団が門を通過し、王都の入り口にテスタ直属護衛騎士団の旗が広がった。それによって王都周辺で戦闘中の多くの兵士が、テスタが出撃したことを察したのだ。
テスタの出撃によって撤退していた兵士達が反転し、テスタの護衛騎士団のあとに続いた。
テスタに気づいて動きを変えたのは兵士だけではなかった。無秩序に動いていたと思われる魔物たちが一斉にテスタの軍に向かっていった。
ミラージとポルン、ルカの三人は向かってくる魔物を問答無用で倒していった。しかし、魔物の奥から大型の魔物が近づいてくるのが分かった。オークの上位種、ハイオークだ。
あきらかに今まで攻めてきていた魔物と違っていた。気がつくと魔物の上空に浮遊する黒い影も現れ、その中心には例の黒い翼を生やした魔族が飛んでいた。
敵もテスタの存在に気づいて直接やってきたのだ。
「ミラージさん、でかいのが来るので気を付けてください」
「まあ、死んだら俺が倒してやるから心配しなくていいぞ」
「うるさいぞチビスケ。俺が倒してもいいが、あいつの相手はあの弟に譲ってやるよ」
ミラージがそう言うと、横からフェンリルに乗ったレオが飛び出していった。
レオはそのままの勢いでハイオークの目の前に出ると、持っていた大剣でハイオークをしたから斬り上げた。
レオが持っている大剣よりも大きいハイオークが真っ二つに割れた。レオが使用している大剣は、光月村でドワーフが造った特注品だった。
「ほう、鍛えていたというのは本当だったようだな。以前とは比べ物にならないほど動きが洗練されている。この短期間でいったい何をしたんだ」
「きっとブートキャンプだね」
「だな」
レオはハイオークを倒し、上空の魔族に注意しながらミラージ達に近寄った。
「お久しぶりです。兄上」
「おう。強くなったみたいだな。これで俺も自由に動ける。とりあえずはあの女を何とかしなくてはいかんがな」
その時戦場に魔族の女の声が響いた。その声で魔物たちの動きがとまった。
「王族の娘を差し出せ。そうすれば、魔物を撤退させよう。5分だけ待と···」
「そんなことするわけないだろうがあああ!」
魔族の女が話している途中で、レオが叫びながら大剣を振って魔法を打ち込んだ。振った大剣から斬撃が一直線に飛んでいった。
魔族の女はもっていた杖を前に出し、軽く横に振った。レオの斬撃は直前になって、角度を直角に曲げあさっての方向に飛んでいった。
「···愚かな。その娘もろとも消え去るがいい」
魔族の女が杖を降ろすと、周りで飛んでいた3匹のドラゴンが急降下を始めた。そのうちの1匹がレオに突っ込んできてその爪がレオを襲った。大剣を盾にするがそのまま引きずられるように飛ばされていった。
他の2匹も王国の兵士を次々と襲っていた。それに呼応した魔物たちも一斉に動きだした。
2匹のうちの1匹が、ミラージと対峙した。
もう1匹のドラゴンがテスタに向かって行くが、ポルンとルカは動き出した魔物をテスタに近づけさせないので精一杯だった。
「ポルン! ここお願い!」
「くそ! 魔物の数が多すぎる!」
ルカがドラゴンに向かって飛び出していった。しかし、ドラゴンのほうが早く、テスタを囲んでる護衛騎士団がドラゴンの前足によって弾き飛ばされた。
護衛のいなくなったテスタに向かってドラゴンがブレスを吐こうとする。ルカはそれを阻止しようとするが、ドラゴンとの距離があり間に合わない。
ドラゴンの口元から炎が溢れだしたその時、ルカの横を何かが通りすぎ、それがドラゴンの首を切り落とした。
切り落とされたドラゴンの口からは、吐き出そうとした炎が流れるように漏ていた。その頭の横に立っていたのは、それを斬り落としたであろうルーカスの姿があった。