小さな援軍
焔と選抜組が奥側に向かって、俺とレオは騎士団のまとまりのところに到着した。
「我々は光月旅団である! この場の指揮官は誰だ!」
戦場でバカでかい声でレオが叫んだ。光月村では情けない顔のレオしか見て来なかったから、改めてこういう姿を見るとテスタの護衛騎士団長だったことを思い出す。
レオの呼びかけに一人の男が馬に乗って前にやってきた。
「ここの大隊長を任されているロドルフといいます。···え!? レオナルド護衛騎士団長!? なぜこのようなところに!?」
おや? この人は確か剣術大会で俺達が絡まれているところを助けてくれた大隊長さんではないか。桜火と戦っていた時もいい動きをしていた。この場を善戦していたことも頷ける。
ロドルフにとってレオは上官にあたるようだ。レオは的確に指示を出し始めた。
「ここを中心に前線を張る。全員乱戦を解いて前線の内側に兵を呼び戻せ。全員が戻り次第味方の広範囲魔法が放たれるからそのつもりで指示を出してくれ。前線は我々に任せてもらおう」
「任せろと言われましても···。お二人だけですか?」
ロドルフの側近が俺達二人を見て呟いた。うん、分かるよその気持ち。子供一人とテスタ付きの護衛騎士一人だもんね。その反応にはもう慣れました。
発言した側近はロドルフに殴られていた。俺はレオに任せて状況確認に入ることにした。
「レオナルド護衛騎士団長。部下が失礼いたしました。すぐに全軍に伝令を回します。この場はお任せ致します。
おい! お前らすぐに乱戦を解くように伝えて回れ! ここに前線を作る!」
「「「はっ!!」」」
ロドルフの側近たちは一斉に伝令に回った。ロドルフはレオに近づいて話しかけていた。
「レオナルド護衛騎士団長、彼のあの腕章···。団長線が付いているのですがまさか···」
「そのまさかだ。光月旅団団長のレン・コウヅキだ」
「コウヅキ···。コウヅキってあの、オウカ・コウヅキが設立したって言われているコウヅキ旅団ですか!?」
「そうだ。彼はそのオウカ・コウヅキの師にあたるお方だ。それに俺の師でもある。お前の部下にもちゃんと教育しておけ」
「はっ! 失礼しました!」
ロドルフはレオに一礼して自分も伝令に回った。
「レオさん、僕達も始めましょうか。早くしないと焔とイーファが前線作り終わっちゃいますからね。僕は拠点を守っています。レオさんの稽古の成果も見せてもらいましょうか。稽古が足りないと思ったら追加もありますからね」
「···えッ!? 私一人ですか? それはちょっと···」
レオが一瞬にして情けない顔をしている。俺はそれを無視して拠点周りに前線を作り始めた。俺達に気づいた騎士たちがざわついていた。
「おい! 援軍がきたぞ! 固まって戦え!」「えッ? 援軍? どこ?」
現場は混乱を生んだ。援軍の伝令が回っているがその援軍が見当たらないのに、魔物が次々と倒されていったからだ。
兵のあいだでは小型の魔物でも数人で相手するのが常識だった。それが小中問わず一人の少年と一人の騎士によって倒されていくのだから驚くのも当然だった。
「おまえらぁ! ロドルフ大隊を拠点として前線を引く! 一旦そこまでさがれ!」
またもレオの声が戦場に響いた。それでようやく兵士達が動き出したのだ。魔物がそれを追おうとするがレオがそれを全て止めていた。
レオの前方で戦っていた兵士達も、こちらに退路があることに気づき、次々と逃げ出してきた。レオは更に前に進んでいった。
一早く焔の方から合図の魔法が上がった。そのあとすぐにイーファの方からも合図があった。
その合図を見て、前線の内側で掃討戦を行っていた、旅団員が拠点に集まってきた。
「みんなお疲れ様。今から全員前に出て、この前線と魔物の間に10メートルぐらい間隔が出来るように押し上げてくれる? ロドルフ大隊長は兵士に指示を出してこの前線に壁を作ってください」
それぞれが返事をして行動に移った。旅団員は等間隔に広がり、魔物が抜けて行かないように戦っていた。
前線ではロドルフが指揮を取り、兵士たちが盾を前にして人の壁を作っていた。
前線と魔物の間に距離ができ、そこには光月旅団員9名が横並び広がっている。乱戦が解けて、味方の撤退も確認できたので、焔とイーファが広範囲魔法を魔物の群れに打ち込んだ。
焔とイーファの魔法で相当数の魔物が消えていった。焔が威嚇しているせいか、魔物たちの進軍が止まった。そこで焔から念話が入る。
『レン、これはちとおかしいの』
『何が?』
『魔物の動きが止まった。ワラワの威嚇もあるが、それだけじゃないの。誰か指揮しているやつがおるのかもしれん』
焔に言われて気がついたが、魔物が一斉に王都に攻めてくることがそもそもおかしい。魔物に意思があるみたいだった。そう考えると、誰かの指揮によって魔物の大暴走が引き起こされたと考えるのが妥当だ。
『どうする? とりあえず手当たり次第に消していくか?』
『いや、魔物でも無闇に殺したくないな。攻めてくるならしょうがいないけど、止まってくれてるならこのまま様子を見よう。
それよりも王都の反対側が気になるかな。こっちは足止めできても向こうが出来なかったら意味ないからね』
俺の不安は的中した。反対側から魔物が押し寄せてくるのが見えた。あっちの方が王都の入り口に近い。
魔物がどんどん入り口に迫っていくのが分かる。
入り口付近の騎士たちが門の中に逃げようとするが、門は固く閉じられていて入ることが出来ない様だ。「開けてくれー!」と叫ぶ悲鳴のような声がこちらにも届いてきた。
今門が開けば一気に魔物が王都に侵入してしまう。そうすれば、女子供もみんな魔物の餌食になってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
『どうする? ここを離れてあっちに行くか?』
『いや、今ここを離れたら、また同じ状況になる』
もう少しでナバル達が来るはずだ。そうすればここを任せて、俺達が王都内に向かうことが出来る。門を突破されるのが先か、ナバル達が到着するのが先かそれを待っているしかなかった。
その時だった。魔物達がまだ門に到達していないのに門が開いてしまったのだ。
「おいおい、うそだろ···」
とんでもない状況で門が開き、俺は思わず呟いてしまった。しかし、俺達が本当に驚いたのはその後の事だった。
誰よりも早く動いたのはレオだった。