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【別視点】焔と狐月/初陣

【別視点 (ほむら)狐月(こげつ)】 王都出陣前光月(こうづき)



「若様···」


 光月村の入り口で、寂しそうな顔で狐月が村の方を見つめていた。


「一人で行くのか?」

「焔さん···」


 いつの間にか狐月の後ろに焔が立っていた。


「狐月。何を悩んでおる? あの首飾りに何かあるのか?」


 焔にそう言われると狐月は胸元から首飾りを取り出した。例の首飾りである。


「···それは」

「私がドレーヌの屋敷に(つか)える前にもらったものです。イーファさんが持っていたものも、ロエナ村に落ちていたものも同じものです。桜火さんはきっとこれをくれた人のところにいると思います。

 これは私が行かなくてはいけない事なんです」

「なぜじゃ?」

「それは···、今は言えません···」


 狐月は苦しそうな顔している。


「狐月、最近ずっとそんな顔しておるな。言えんことは良い。しかし、言えることもあるじゃろうに。ほれ、言うてみぃ。

 おおかたレンのことじゃろ? それとも狐九尾(こくび)のことか?」

「···はい」


 狐九尾(こくび)とはこの世界の厄災の一つだ。北の厄災であるドラゴンと同じような(あつ)いだ。九つの尾を持った狐の聖獣(せいじゅう)だ。その力は四帝(してい)に並ぶものだった。

 四帝(してい)とは違い、世界にとってその力は災害以外何ものでもなかった。

 西の大陸に生息しているため、焔は関わったことが無いが、西の大陸を縄張りとしている雷帝(らいてい)はかなり手を焼いていたらしい。


狐九尾(こくび)とそなたに何の関係がある? それにあやつはすでに雷帝に消されたはずじゃが」


 焔がそう言うと、狐月の体の周りから黒いオーラのようなものが出てきた。そのオーラのほとんどが狐月の後ろに集まっていた。


「そ、その尻尾(しっぽ)は···。一体どういう事じゃ···」

「···分かりません。 気づいたらこのようなものが出るようになりました」


 狐月の背後で九つの尾がゆらゆらと()れていた。


「いつからだ?」

「若様から、名を受けて稽古(けいこ)をするようになってからです。若様に気の(あつ)い方を教わっていなかったら隠すことは出来なかったと思います。

 こんな姿···、若様に見られたりしたら···」

「狐月、レンのこと好きか?」

「当り前じゃないですか! それなのにあの狐九尾(ばけもの)と同じものがあるなんて知られたら···。きっと若様に嫌われてしまいます!」

(なん)も分かっとらんの。そんなことやつが気にするわけないじゃろうが。きっと「似合うね」とか言って逆に喜ぶに決まっておる」

「本当ですか!?」

「本当じゃ本当じゃ! だからそんなことは気にせんでよい! それより、その首飾りのほうじゃ!

 どうせ何も言えんのじゃろ? だったらさっさと桜火を連れ戻してきて、レンに尻尾(しっぽ)でもなでてもらえ!」

「焔さん···」


 狐月は泣きながら焔に抱きついた。焔は「えーい泣くな!」と言いながら照れていた。




 落ち着いた狐月は焔にあやまり、尻尾(しっぽ)をひっこめた。


「狐月がなぜあれだけの強さをもっていたか納得がいったわ。狐九尾(こくび)との関係は分らんが狐月なら大丈夫じゃろう。なんなら五帝(ごてい)とでも名乗ったらどうだ?」

「私を焔さんと一緒にしないでください。私はおしとやかに生きたいのです。

 それと狐九尾(こくび)との事はこれから向かうところで分かると思います。今から私は育ての親のところに行ってきます」

「ほう。それは興味があるの。まあどうせ言えんのだろう?」

「はい! でも信じて待っていてください」


 狐月は笑顔で応えた。焔は「分かった分かった。さっさと行け」と言って手をひらひらやった。


「それでは行ってきます。くれぐれも若様のことよろしくお願いします」


 狐月は深くお辞儀(じぎ)をし、桜火を連れ戻すために一人で西の大陸に向かった。焔はその背中が見えなくなるまでその場に立っていた。


「まさか狐九尾(こくび)の力を受け継いでいる者がいたとはな···」


 焔が狐月を見送ると、準備を終えた旅団員が村の入り口に集まり始めていた。




   ***




 俺達は光月村を出発し、王都に向けて進行していた。 


 セリナの話だと魔物の大暴走( スタンピード )はすでに始まっているようだ。まだ王都には入られていないのだが、王都の周辺に配置された騎士団の被害はどんどん増えていくだろう。


 今から急いでも光月旅団全員が到着するのに2日はかかる。

 光月旅団は全員で100人近くになるので、全員に(ほむら)眷属(けんぞく)であるフェンリルを用意することはできないから、どうしても進行が遅くなってしまうのだ。


「若様、進行が遅い団員は私が先導致しますので、焔様の眷属(けんぞく)を使える者だけでも先に向かわれた方が良いかと」


 確かに少しでも早く王都に着くことが出来れば被害が抑えられるかもしれない。焔のフェンリルと獣族の狼王(ろうわん)で20人はすぐに移動できそうだ。

 狼王はギルティ隊が移動手段に使用している古狼(ころう)だ。


 俺はすぐに先行隊の編成を行った。俺、焔、イーファ、レオ、それと光月道場の選抜組6名と、ギルティ隊の10名の合計20名を指名し、王都へ急行することにした。選抜組の中にはナバルの息子のシンバルもいた。「しっかりやってこい」とナバルに言われたシンバルは気合を入れた。


 


 先行隊の移動速度は速かった。シオン達と狼王(ろうわん)達が張り合っているのだろう。いつものシオンと気合の入り方が違う。

 しかし、それのおかげでもうすぐ炎帝(えんてい)の森を抜けるところまで来た。


「おいレン、斬鉄(ざんてつ)なんとかはどうした?」

斬鉄剣(ざんてつけん)な)


「あれは被害が大きすぎるからサーベルに戻したんだよ。バッツにあげたって言ったらベレンさんに泣かれちゃったよ」


 それでもベレンは俺に刀を使ってもらうことをあきらめていなかった。俺が注文していたものが出来そうだと言っていたのだ。どうやら素材を変えたところ感触が良くなったらしい。出来次第届けると息巻いていた。

 あれ以上にすごい刀を造られても怖くて使えなくなるのだが。




 森を抜けると想像以上の状況に、俺もどこから攻め入ればいいか判断に迷った。戦況が見えないほどの乱戦が広がっていたのだ。


「ここまでとはの。どうするレン?」

「あんまり王都の入り口には近づけたくないね。あの中心だけ騎士団のまとまりができてるから、そこを拠点に前線を押し返そうか」


 この乱戦を一度解かないと、圧倒的に味方の方が不利だ。乱戦が解けないのは次々と魔物が押し寄せて、前線が崩されたからだ。一か所崩れればそこか雪崩(なだれ)のように魔物が入ってくる。

 

 焔とイーファの広範囲攻撃を打ちたいが、乱戦になっていて味方を巻き込んでしまう。とにかく乱戦を解くことを最優先に決めた。


「じゃあ作戦を言うよ。あそこで頑張ってる騎士団のまとまってるところで前線を作ります。

 俺とレオさんがそこで拠点を作るから、奥側に焔、手前側にイーファが入ってそこで前線を作って。他の旅団員で前線の内側の魔物を掃討(そうとう)していって下さい。

 焔とイーファは前線が出来上がったら空に魔法を打ち上げて。それを合図に全員前線の前に集合すること。良いですか?」

()い!」「分かった」「「「はい!」」」


 全員見える位置に光月旅団員の腕章(わんしょう)を付け、俺を先頭に乱戦に飛び込んでいった。


 俺と焔とレオ、それと選抜組が拠点に向かって直進していった。イーファは作戦通り手前側で前線を作り始めた。その内側にギルティ隊が入っていき魔物の掃討(そうとう)を始める。


 王都を守るための戦いが今始まった。これが光月旅団としての初陣となる。


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