碧眼
ちょっとした小競り合いの後、全員が俺の前に並んでいた。小競り合いよりも、この賊に関して聞くことが山ほどあった。俺は気づいてもらいたくて、少しだけ殺気を飛ばした。そしたらやっと気づいてくれたのだ。
「若様申し訳ありません」
「お兄ちゃんごめんなさい」
「ワラワは悪くない。こやつのせいじゃ」
「俺じゃない。こいつのせい」
(子供かおまえら!)
とにかく俺はちゃんと話を聞きたかった。イーファは確実に俺達が探していた賊の本体と接触しているはずだ。少しでも情報が手に入るなら聞いておきたい。伝達の為マリカも呼んだ。
「イーファさん、森の管理に関しては炎帝様にも事情があったので許してください。理由はお話しします。それとこの賊に関しては僕らも探していたところなんです」
俺はイーファに焔が神器で縛られていたことを伝えた。その後は炎帝の民や同胞の救出のために動いていて、炎帝の加護に関しては光月村のみに展開されていることも伝えた。
「神器で縛られていた炎帝がなぜここにいる? 神器はどうした?」
「僕が壊しました」
「神器をか?」
イーファは神器を壊したことにやけに反応していた。あの冷徹な男がぐいぐい詳細を聞いてくる。
「ははーん。ここに氷帝が来ない訳が分かったわ。あやつ神器に縛られておるな?」
「え? そうなの?」
俺はイーファの顔を見た。図星だったようだ。顔が物語っていた。もしそれが事実なら、イーファが壊してあげればいいのではないか。イーファ程の実力があれば十分可能だろう。
しかしそれは不可能だった。なぜなら、神器は氷帝の魔力を糧にしていて、氷帝と同一の属性であるイーファの魔力ではどんな攻撃も神器に吸収されてしまうからだった。
「頼むレンとやら。氷帝の神器を外してくれないか?」
この世界の大物の四帝と落神に貸しを作るのは悪くない。ここは二つ返事で決まりだ。
「それはもちろん···」
「あなた。若様に迷惑をかけておいて謝罪もしないで願い事? 死にたいの?」
(ん?狐月?)
「まずはごめんだよね?」
(かわいいね桜火)
「土下座じゃ土下座」
(おまえがな!)
三人娘に詰められるイーファ。焔に言われるのだけは嫌みたいだったが最終的には折れて謝罪をしてくれた。俺は特に気にしてなかったんだけどね。
「氷帝様を助けるのは良いのですが、その前に賊に関しての情報は何かありませんか?」
今のところ、イーファからの情報はあれだけだった。出来れば今後の調査に必要な情報が欲しい。
「そういえばやつらこんなもの付けていた」
そう言ってイーファは懐からネックレスのようなものを取り出して渡してくれた。それには小さな石が付いていた。
「これは···。月か?」
どこかで見たような気がする。黒い石に三日月の石が埋められていた。しかしその月の角度がおかしかった。首にかけるものと考えると、この三日月は右下が欠けている月の形をしていた。
「逆月···」
「なんじゃ? 知っておるのか?」
「いや、何でもない」
気のせいだ。たまたま石が逆さまについていただけだと思った。逆月は現世ではある意味を持っていたが、この世界に関係あるはずがなかった。
そんなことよりも、これは重要な証拠だ。これを手掛かりに何か掴めるかもしれない。マリカに渡してすぐに月光に伝えるようにお願いした。
「それじゃ、どうしようか。これから氷帝様のところに向かう?」
「まあ。知ってしまった以上放っておくのもかわいそうだしの」
「何? 冒険?」
桜火は初めての亜大陸に期待に胸を膨らませていた。そう言うおれも新しい場所に期待しなくもなかった。狐月は相変わらず「若様と一緒なら」と言ってついてきてくれる。みんなの同意が得られたのでこれから氷帝のところに向かうことになった。
「すまんが、俺からも少し聞きたいことがある」
「なんでしょう」
「先ほど変わった武器を使っていたみたいだがあれはなんだ? 見たことがない」
イーファは自分の創った氷剣が簡単に斬られてしまったのでどうにも気になっていたらしい。
「これは僕らの仲間が造った日本刀というものです」
「俺の氷剣を簡単に斬ったので少々驚いた」
「何を言うておる。お主も本気ではなかったであろう。最後に創っておった氷剣が本物じゃろうに。まあどっちにしてもワラワの刀の餌食になっとったがな」
「試してみるか?」
また小競り合いが始まりそうだった。でも、俺も本物の氷剣というのが気になった。日本刀の性能に関して検証するのにも丁度いいきがする。落神の能力に対応できるかどうかで今後の対策も変わってくる。
「焔、俺も少し気になるかな。今度は烈火なしで立ち合ってみてくれないかな?」
「構わん。我が愛刀で今度こそ葬ってくれるわ」
「こっちのセリフだ」
(ただの立ち合いだからね二人とも)
焔が刀を構えた。イーファも片手を前に出すがその手には何も握られていない。しかし、急に辺り一帯に冷気が広がったと思ったら、イーファの瞳の色が変わった。すると何もなかった手に氷剣がゆっくりと現れた。最初に創った氷剣と明らかに違うものに見えた。
「その目、やはり碧眼の持ち主のようじゃの」
「碧眼?」
「落神は能力に応じて瞳の色が変わるんじゃ。こ奴は氷、多分水も使えると思うがその能力者は碧眼を有すると聞く」
イーファの瞳は綺麗な碧色に染まっている。落神の力を使う時に顕現するようだ。近くで見るとよく分かる。
立ち合いはイーファの攻撃から始まった。焔は刀ですべて受けに回る。今回は検証も兼ねているので躱さないで刀で受けてもらっている。受ける分には問題ないようだ。
焔が一度距離をとり、今度は攻撃に回った。先ほど、氷剣を切ったものと同じ攻撃を放った。しかし、今度は斬られることなく氷剣は刀を弾き返した。強度は上がっているようだ。その後の攻撃も全て受けきられていた。
『焔、居合で斬れないかな?』
『やってみよう。』
焔は刀を鞘に納めて、イーファとの間合いをはかる。イーファも何かくると察したらしく、焔の攻撃を受ける構えに入った。焔が間合いに入り、腰を落としてイーファに向けて抜刀した。イーファもそれを氷剣で迎え撃つ。
「パキィィィン!」
「なん···だと···」
氷剣は無残にも砕け散った。強度は日本刀のほうが上だったようだ。それでも、最初の氷剣のように斬れたわけではない。あくまでも砕いただけのことだ。
『焔の稽古不足だね。』
『むむぅ···。』
「どういうことだ···。俺の氷剣が砕かれるとは···」
イーファは膝をついて悔しがっていた。こうしてみると普通の人にしか見えない。これが本当に世界を変えるほどの力を持った落神なのだろうか。とりあえず日本刀の性能は落神にも通じることが分かった。イーファはなぜか桜火と狐月に慰められていた。
イーファが立ち直ったところで俺達は氷帝の住む大氷洞に向かうことになった。