GOGO一番亭計画始動
孤児院での宴会があった次の日、俺は孤児院の事情を聞きに施設長のところへ向かった。
「レン様、昨日はありがとうございました」
「いえいえ、僕らも楽しんだので気にしないでください。それと今日は昨日できなかった話をしようと思って来たのですがご迷惑じゃなかったですか?」
「迷惑だなんてそんな···。メルまで助けてもらったレン様の為なら時間などいくらでも···」
俺は施設長から孤児院の運営について細かく聞いていった。
孤児院はやはり王国の施設で、運営も王国が行っているらしい。補助金も王国から出ているという。しかし、その補助金が最近になって大幅に減額されたようだ。
「なぜそんな急に減額になったのですか?」
「孤児院の管理はバルバロス男爵が行っていて、最近になって、何の生産性もない孤児院に回せる予算はないと言って、予算を減らされてしまったのです。私だけではここの生活を維持することが出来なくて、一番年長のメルが手伝ってくれていたのです」
どうやらバルバロスという貴族が予算を大幅に減らしたらしい。とてもじゃないがテスタがいる王国でこのような予算の減額が行われるとは到底思えない。俺はセリナに頼んで情報を集めてもらうことにした。
「若様、何とかならないのでしょうか?」
今日も一緒について来た狐月が自分のことのように悩んでいた。元々狐月は孤児院と同じような施設にいた。それもあって放っておけないのであろう。
「うーん。無くもないかな。でも俺の一存では決められないからみんなの意見も聞いてみようか」
俺は今考えていることを狐月と施設長に伝えた。
「若様。それは素晴らしい考えです。きっとみんなも賛成致しますわ」
「本当にそのようなことが可能なのでしょうか?」
狐月は大絶賛し、施設長はまるで夢物語を聞かされてるようでにわかに信じていなかった。
俺と狐月は宿に戻り、再び家族会議を行うことにした。
「今日は皆に大事な話がある」
「お金?」桜火
「お金だな」焔
「お金ですね」ルカ
(お前ら···)
確かにお金は使うよ。でもそれは計画ありきじゃない? お金だけに注目されても悲しいよ。
「う、うん確かにお金は必要かな。その前に、以前から話に出てた拠点のことなんだけど、昨日行った孤児院はどうだろうか?」
孤児院は王国が建設したものだ。最初は王国主導で動いていたので、土地の広さ、建物の大きさは申し分ない。今は、管理がバルバロス男爵に一任されているからあのように悲惨な状態になっていたのだ。
「俺はあそこを拠点にして、商売を始めようと思う」
「「「商売?」」」」
みんなの頭の上に『?』が見えた気がした。狐月には全て説明してあるので良いが、それ以外のメンバーは戦闘以外は特に教育がされていなかった。これはやりがいがある。道場という名の寺子屋を開くとしよう。
「基本的には孤児院の運営が賄えるだけの儲けが出れば良い。その運営の手伝いをする代わりに孤児院を拠点として使わせてもらいたいと思ってる」
孤児院の大きさは50人以上が住めるほどの大きさだ。これから光月旅団員が王都に増えることを考えるとこれくらいの大きさが必要だ。孤児院はその条件にちょうどいい。
「それでレン様。商売は何をしようとお考えですか?」
「それはね。主力の商品はローラのカレーライスにしようと思っている」
「何!? あれが世に出回るのか?」
「お兄ちゃん、それは事件だよ···」
みんなは既にローラのカレーライスの虜になっている。以前桜火の祝勝会で、一般のお客さんに振る舞ったことがあるが、それ以来何度も宿に押しかけて来たことがあった。あれほど人を夢中にさせる料理だ。必ず成功する。いや、慢心は良くないな。
「店の名前は『GOGO一番亭』だ!」
「「「ごごいちばんてい?」」」
(いろいろと混ざっている気がするがここは異世界。俺は気にしない)
「どんな意味があるのですか師匠?」
「気にするなルカ」
細かい運営の話は省略しよう。皆の『?』が増えていく一方だったからだ。とりあえず孤児院を拠点にすることで皆の承諾を得られた。何よりこれによって、孤児院の子供たちが貧しいおもいをしなくて済むという事が決め手になった。
孤児院を拠点にすることが決まったその日から行動を開始した。
まずは孤児院で商売をするために何が必要かパナメラに相談しに行った。パナメラに聞くと、商売に関しては冒険者ギルドとは別に、商業ギルドというものが存在するらしい。場所を聞いて、紹介状も書いてもらった。
商業ギルドに着くとすぐに受付に行って、紹介状を見せた。
「冒険者のレン・コウヅキ様ですね。姉から話しは聞いておりました。色々と活躍されていらっしゃるとか···。一緒にデートしたとか···。あらいけないこれは秘密でしたね」
「···デート?」
(おいおい何言ってんだこの受付嬢は。っていうか今姉って言わなかったか?)
当然のことのように今日も狐月は一緒にいる。この受付嬢の発言のせいで再び浮上するパナメラ問題。とりあえず狐月に気をくばりながら、受付嬢と話を進めていく。
「あのー、姉というのはパナメラさんの事ですか?」
「はい。パナメラは私の姉です。そして私はプリメラと申します」
言われて見ると少し似ていた。プリメラは俺達の事をパナメラから全て聞いているらしい。紹介状にも今回の商売についての概要が書かれていた。
「つまりレン様は孤児院で商売を始めたいという事ですね?」
「はい。それにはここでの登録が必要だと聞きました」
「登録は必要ですが、率直に言いますと孤児院での商売は出来ないと思います」
「え? それはどういう···」
プリメラの話はこうだ。孤児院の運営権利はバルバロス男爵にあるので、何をするにも彼の許可が必要になるらしい。
バルバロス男爵は自分の得になる相手としか取引をしない事で有名で、とても俺達に許可を出すとは思えないとのことだった。
「つまり、男爵の許可さえおりれば良いわけですよね?」
「はい。そうなります。でも不可能ですよ」
なぜだろう不可能と言われるとなぜか燃えてくる。
「とりあえず、男爵の件はこちらで何とかしますから、登録だけお願いできますか?」
「かしこまりました。では登録試験を行いますのでこちらにお越しください」
「え? 試験? 聞いてませんが?」
ここまで来て試験があるとは考えもしなかった。俺は流れるままに試験会場まで連れて行かれた。狐月もついて来ようとしたが、試験を受ける人以外の立ち入りは禁止されており、プリメラに止められていた。
15分後
俺は試験会場から出て、狐月が待っている受付に戻った。
「若様お疲れ様です」
「え? レン様、まだ15分しか経ってないですよ? あきらめてしまわれたのですか?」
「いや、全部終わらせてきましたよ。今は採点してもらっています」
試験は本当に終わらせてきた。何というか中学生レベルの計算と、簡単な文章問題だった。あまりにも簡単だったので、一瞬で終わってしまったのだ。試験官も驚いていた。
これは孤児院で寺子屋を始めたら面白いことになるかもしれない。子供達の未来の為にやってみるか。俺は新たに異世界での楽しみを見つけた。
そして商業ギルドに登録してから2週間後、『GOGO一番亭』はオープンした。